グアナファトの丘の上から
メキシコシティからバスで北西方向に進むこと、4時間。
街全体が世界遺産になっているグアナファトという街がある。
スペインに植民地にされていた時代があり、コロニアル建築が有名だ。
バス旅というのはどこかワクワクするものだ。
電車や飛行機よりも、景色がもっともっと身近に感じるからかもしれない。
バスが石畳でできたトンネルの中に入っていき、次に外に出た時は淡いカラフルな街並みが現れた。
今夜泊まる宿は、可愛らしい雰囲気のご夫婦が経営されていた。宿にはメキシコの伝統的なオレンジ、紺、緑、黄色などで鮮やかに描かれたお皿やカップが飾ってあった。
「グァナファトはとても安全だよ。夜に女の子一人で歩いても大丈夫なんだ。」と宿の主人に言われた。
最初は少し不安だったが、街を歩いているとその意味がわかった。
ここはメキシコシティの時間の流れよりもゆっくりとしていて、街ゆく人もカフェの店員さんも穏やかだった。
街並みを写真に収めることにある程度満足した私は、ガイドブックに載っていた「ミイラ博物館」を訪れることにした。
たくさんのミイラたち。
乾燥した気候と土葬の文化により、自然に作られたものらしい。
暗い部屋にいるミイラたちを見ていると、少し怖くなってきた。
運悪く観光客も少ない。ミイラが蘇る映画のワンシーンが頭に浮かび、早足になった。出口を見つけ、ホッとする。
今思うと、ただそこに存在していただけのミイラたち。
生まれて亡くなって、ミイラになった命たち。
怖がることはなかったのかもしれないと反省した。
その後、日が暮れる前にピピラの丘に向かうことに。
ケーブルカーに乗ることもできるが、自分の足で登って行くことにした。
階段が続く。
途中に休憩できるスペースを見つけ、一度休む。
風が吹く。
しばらく登ると、巨大なたくましい姿のピピラ像が現れた。
丘の上から眺める街並みはカラフルな宝石のようだった。
この像はこの美しい街を毎日、見守り続けているのだ。
日が暮れていくと、カラフルな街並みにオレンジ色の光がポッポッと灯り始めた。
この光の一つ一つに、それぞれの家族の物語がある。
そして、私は今この瞬間に訪れているだけのひとりの旅人なのである。
切なく、けれど愛おしい気持ちになった。