推しの活躍とBDS~すべてを愛したい欲求とボイコット運動~
世界は、どんな風に出来上がっているのだろうか。
私は、ひとつのまるい地球が回っているものだとばかり思っていた。
ずっとそれを信じてきた。
でも、どうやらそうじゃないらしい。
朝からビッグニュース。
Travis Japan松田元太、新作ディズニー映画の吹替えキャストに決定!!
ライオンキング、シンバの父・ムファサの若かりし頃を描いた作品で、ムファサの弟タカ(のちのスカー)をオーディションで勝ち取ったのだ。
ディズニーのオーディションは、本国でかなり厳しくチェックされると聞く。
これは素直に「すごい!やった!おめでとう!」ではある。
けれど。
ディズニーはBDS(イスラエルによるパレスチナへのアパルトヘイト政策を終わらせるため、2005年から続くパレスチナ市民から呼びかけられたイスラエル資本への「ボイコット(Boycotts)、投資撤退(divestment)、制裁(sanctions)」の頭文字をとった運動。)の対象企業だ。
世界中にファンがいるBTSは、たくさんの映像作品をディズニー+で配信していて、一部(といっても私が目にするくらいだからそれなりの数だろう)のARMYはディズニーでの配信をやめるよう、またファンも見ないように呼び掛けている。
私もネットやニュースで、毎日イスラエルの虐殺を目にする。
この1年で、いったいどれほどの罪もない市民が犠牲になる姿を目にしたか。
学校、病院、難民キャンプ。
守られるべきものが攻撃対象となり、ジャーナリスト、国連職員も狙われ、次々と犠牲になっている。
人々の骸はもちろん、生まれたばかりの双子の出生届を取りに行き、小さな産着も買って戻ってきたら妻も双子の子どもも爆撃によって亡くなっていたという父親。
食料をもらいに行くが自分まで回ってこずに終わってしまい、泣いている小さな子。
まだ2、3歳くらいだろうかという子も、家族のために水をもらいにやってくる。
母が死に、僕だってまだ子供なのに、どうやって赤ん坊の弟を育てたらいいのと泣く少年。
24年前、物陰に隠れイスラエルの銃撃から我が子を守っていたがその膝の上で幼い息子を亡くした男性が、今またイスラエルにより家族を殺された。
弟が殺され、お別れの時に照りつける太陽がまぶしくないよう日影を作ってあげる兄。
ただ学校に登校してきた小学生に銃を突きつけ歩かせるイスラエル兵たち。
下着一枚の姿で、老人も大人も子供も鎖でつながれ路上に並べられた姿。
小さな女の子は爆撃の犠牲になり、がれきの中からその子が大切にしていたミニーのぬいぐるみを見つけた父親。
イスラエル兵が缶詰やおもちゃの形をした爆弾を置いていき、それを拾った子供の引き裂かれた体。
焼け野原の1本道を、自転車を押して歩いているだけの二人のパレスチナ人に向かって無人機から放たれる爆弾。
亡くなった我が子を、いつまでもいつまでも抱きしめ、ゆりかごのようにからだを揺らして泣いている母親。
幼い子は、「この子もお腹を空かせてるの」と懐に抱えた子猫に食べるものを探してやる。
そこにはまだイスラエル人の人質がいるということを、無視したかのように続く爆撃。
そして、パレスチナの土地をリゾート地として売り出す広告がばら撒かれる…。
私は、毎日目にしてきた。
私にできることなんて何もない。
そんな無力感が襲ってくるが、パレスチナの人々は言う。
「私たちの事を語ることをやめないで。私たちはここに居る。忘れないで。」
だから私は、ネットで彼らから発せられた言葉や映像をリポストしたり、引用をする。
そしてこれがほんの少しでもどこかの誰かに届いて、「こんなことは1秒でも早く終わらせよう」と願う世界を強くしていけたらと思っている。
それしか私にはできないから。
こんなおめでたい発表に、私のこんな気持ちをのせるのもどうかとは思う。
けれど、朝から目にするおめでとうの声の中に、ディズニーがイスラエルを支援していることを気にかけるポストがほとんどなかったことに、私は少なからずショックを受けた。
こんなにも、自分が見てる世界と周りが見てる世界が違うものなのか。
ガザで死んだ、ミニーが好きだった女の子。
その爆弾を作るのに、色んな資本が絡んでる。
イスラエル兵への食糧支援や、様々な形で与えられる資本。
マック、スタバ、ディズニー…。
無邪気に喜んでいられたらしあわせ?
『子供の頃、「戦争をしない国に生まれてよかった!」と思ったけど、今の日本は戦争ができる国になろうとしている』
そんな内容をポストしている方がいた。
私もまったく同じことを思っていた。
楽しいことだけを見ていたら、こんなことも思わずに済んだだろう。
フランスでベストセラーになった「茶色の朝」という本がある。
たった11ページととても短く、平易な言葉で書かれているので小学生でも読める。
ある日、国は茶色の猫以外は処分するように決めた。
次に犬。
ペットが禁止されたわけじゃない。
茶色にすればいいだけ。
やがてその「ペット特別措置法」は、以前茶色以外の動物を飼っていたことまでさかのぼり、罪になって行く。
主人公は気づく。
「茶色党のやつらが最初のペット特別措置法を課してきたときから警戒すべきだったんだ。」
「いやだと言うべきだったんだ。抵抗すべきだったんだ。」
そして主人公はこう続ける。
フランスの人々にとって、茶色はナチスを連想させる色なのだそうだ。
この作品は、「ポケット・オペラ」と銘打って、日本で舞台版が上演されたことがある。
(引用内に舞台動画あり)
独裁政権と全体主義に警鐘を鳴らすこの舞台を、私は2021年の衆院選の前日に見た。
当時、私は「世界のうねりのなかに、この国もあるのだと感じる。」と感想をツイートしていた。
終演後、ロビーで原作を買い求め、帰りの電車の中で読んだ。
まるで絵本のようで、文字より絵の方が多いのではないかという本だったけど、考えることは山ほどあった。
(中のイラストはヴィンセント・ギャロが担当している。)
巻末のあとがきにあたる部分に、「メッセージ」というものがある。
哲学者で、東京大学大学院総合文化研究科教授の高橋哲哉により、そこにはこう書かれている。
『やり過ごさないこと、考えつづけること』
ーフランク・パヴロフ「茶色の朝」に寄せて
今、私たちがすべきことは、これに他ならない。
(追記)
話題になったドラマ「虎に翼」で主人公を演じた伊藤沙莉がマクドナルドのCMに出ていることについて、Xでちょっとした議論になっている。
それについて、私はXへこうポストした。