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宇宙で一番淋しくて美しい獣の話~舞台「黒蜥蜴〜BurlesqueKUROTOKAGE〜」を観て来たよ!~
仕事で疲れ切っていたけれど、絶対見逃したくない舞台、CCCreation Presents『黒蜥蜴〜Burlesque KUROTOKAGE〜』を観に新宿・スペースゼロへ行ってきた。
黒蜥蜴といえば、何度も舞台化や映像化されてきた江戸川乱歩作品。
美輪明宏の黒蜥蜴は有名。
(映画版には三島由紀夫が、あの場面でカメオ出演しているのが面白い。)
企画したCCCreationは私と相性がいい会社で(勝手に思ってる)、ここの作品を見るのは5本目かな?
基本的にキャストをWでやったり、バージョン違いを上演したり、ちょっとよそとは違う、演劇ファンならだれでも一度は抱くであろう《願望》《妄想》を、2.5次元とはまた違う舞台愛で実現してくれる。
そして音楽も重要な役割を果たすのが面白い。
大沢健、山田真歩、松島庄汰、作・演出堀越涼(あやめ十八番)「沈丁花」は、文学作品のような異世界物語で、紀伊国屋ホールで見るような作品だったし(堀越涼のアンサンブルの使い方は芸術!)、三浦涼介、鳥越裕貴、平野良、脚本加納幸和、演出丸尾丸一郎(劇団鹿殺し)の「桜姫東文章」(狂)(乱)は、歌舞伎のせりふをそのままに見せる、エンターテイメント性と演劇性も面白かった。
まさかのSF作品だった堀越涼の「白蟻」(蟻版)(犬版)は、今こんな舞台を若い作家で見れるのかと感動したし、前回のジャン・ジュネの「女中たち」は、能舞台を利用し、こちらもキャスティングの妙で魅せた。(篠井英介は最高、福士誠治って舞台がいいんだと初めて知った。)
で、昨年の「白蟻」で初めて知った島田惇平という俳優さんがものすごくよくて。
「白蟻」ではキーパーソンではあったけど、主役ではなかった。
だけどこの芝居における「SF感」を強化しているのは、この人の演技によるところがものすごく大きくて、今の日本にこんな俳優がいたのか!と衝撃を受けたんだよね。
それで調べてみたら、スターダストプロモーション所属の30代ということに驚愕。
いや全然、全然そう見えない。
どう見てもベテランアングラ俳優でしょ、この人。
商売っ気を微塵も感じない。
俳優であり、ダンサーでもあるこの人の「黒蜥蜴」が観たい!
もうそのひとつだけに突き動かされて、今回新宿へ足を運んだのだった。
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上段左・島田惇平、下段中央・平野良
※原作のエンディングが含まれています。
「黒蜥蜴」を知らない方はご注意ください。
CCCreation Presents『黒蜥蜴〜Burlesque KUROTOKAGE〜』は、そのタイトル通り、あの黒蜥蜴をバーレスクの世界観で構築する試み。
CCCreationで面白いのは、いつも最小限のものでいかに世界をつくるか、そこにかなり神経をつかっているんじゃないか、ということ。
予算の都合もあるだろうけど、私はこれ、とても大事なことだと思っている。
だってどんな芸術作品も、観客や読者というものの想像の余白が無ければ楽しくないし、広がって行かない。
だからそれを補完するのが音楽であったり、小道具であったりする。
今回も舞台上はいたってシンプルで、そのかわり、天蓋のように垂らされた布やシャンデリア、そして開演前から客席を練り歩く、バーレスクらしい黒いシースルーの衣装に仮面を着けたパフォーマーたちが空気を作る。
さらに今回は、ステージの中央のみを舞台とし、ステージの左右を「バーレスク席」として観客も舞台上で鑑賞することができる。
バーレスク席の観客は仮面をつけ、キャンドルが置かれた丸テーブルに着席。
バーレスク席を照らす照明も淫靡な色合いで、それを正面から見ているS席、A席の観客からは、怪しげなパーティの始まりを待つ招待客のように見える。
さて本編。
想像よりはるかにパワーとエネルギーに満ちた黒蜥蜴だった。
とにかくこれは見ないと分からない、「感覚」こそが命と言えるような舞台だったので、私の感想はここに書けるようなものはないのだけど、今回の脚本はドラァグクイーン、ライター・エディター、脚本家(第12回テレビ朝日新人シナリオ大賞優秀賞も受賞している。)、歌手、俳優として活躍するエスムラルダというのが納得の仕上がり。
黒蜥蜴という人物は、社会ではおそらく富裕層の「緑川夫人」として暮らしていて、過去には京マチコ、小川真由美、松坂慶子、真矢みき、黒木瞳などが演じているが、美輪明宏など、必ずしも女性が演じるものでもない。
今作では全キャスト男性が演じ、黒蜥蜴は「緑川夫人」の時こそご婦人らしくふるまっているものの、普段は「僕」と言っている。
この「僕」である黒蜥蜴が、彼をわが命のように賛美し、慕う雨宮潤一を「潤ちゃん」と呼ぶ、その呼び方があまりにもよくて、幾度となく発せられる「潤ちゃん」にそのたびに感動していた。
おそらく乱歩が黒蜥蜴なら、「潤一」ではなく「潤ちゃん」と呼びたい人間だったんだろうと思う。
ちゃん呼びに込められた感情。
かわいいもの、そして「下のもの」に向ける視線。
声に出すと分かるけど、じゅんちゃん、のぴちゃぴちゃと湿った感じ。
そもそも「潤」という文字自体がもう、ね。
芝居じゃないけど、ちあきなおみが「紅とんぼ」で歌う♪しんみりしないでよ ケンさん… もすごく好きで、これ、2番は唄ってよ騒いでよしんちゃん、3番で笑ってよ泣かないでチーちゃん、になるんだけど、全部微妙に違うんだよね。
ああいう感情と距離感が表現された呼びかけって、ものすごく難しいはず。
そして大詰め、敵対していた二人に芽生えた感情に、客席では涙する人もいた。
きっと黒蜥蜴の「大きな穴」を思って泣いたんだろうと思う。
どんなに周りに人が群がろうとも、輝く宝石でその身を固めようとも、ずっとひとりぼっちだったんだよね。
それまで黒蜥蜴が本当に心を許していたのは、きっと潤一ではなくて、松吉だったんじゃないかな。
その黒蜥蜴が、何にもごまかされず、真っ直ぐ自分を射抜いてくる明智に心奪われることには、なんの不思議もない。
それが私が今まで見た黒蜥蜴と違い、何より強く感じられた。
原作にはこうある。
「あたし、あなたの腕に抱かれていますのね……嬉しいわ……あたし、こんな仕合わせな死に方ができようとは、想像もしていませんでしたわ」
明智はその意味をさとらないではなかった。一種不可思議な感情を味わわないではなかった。しかしそれは口に出して答えるすべのない感情であった。
そんな風に島田“JP”黒蜥蜴に感情の胸ぐらをつかまれ、ぐらぐらに揺さぶられた2時間。
もちろん、ねっとりとした平野良の明智の古畑ばりのリアクションと変人ぶりは舞台ならではの楽しさだった。
そして右近健一の歌は何よりスコーンと響いて、ひとつひとつ聞こえてくる。
カーテンコールもお茶目でかわいかったな~。
カテコでは観客も、もっとフ~!とか声出してもいいのかも。
島田・平野版しか見てないから分からないけど、この二人にはちょっとロッキーホラーショーみたいな雰囲気もあったし、カーテンコールは賑やかにしても面白いかも知れない。
あと前島曜の早苗は、顔が小さく手足がすらっとして、手塚治虫の漫画のようで可憐でした。
#バーレスク黒蜥蜴
— 前嶋 曜 (@maejima_yoh) February 10, 2025
ご来場いただき有難うございました
怪奇的な世界観に愛憎入り混じるアンビバレントなものと狂気的な美しさ、欲望と…オールメールでしか成し得ない黒蜥蜴
この世界観、細胞レベルで好きだ…‼︎
江戸川乱歩作品に敬意を払い
最狂作品を最後まで届けていきます
頑張ります💋チュ pic.twitter.com/p7uiMYCRTT
トリプルでカーテンコールがあって、最後に両袖に捌けていく明智と黒蜥蜴。
サッと捌けていく明智に対して、その後ろ姿に投げキッスをして袖に消える黒蜥蜴。
あ~、こういうのはいい~。
こういうのがいいよね~。
というわけで、まさか東京の真ん中で真っ昼間からこんな芝居をやっているとは知らないであろう人々とすれ違いながら帰宅。
7日間のアーカイブ付き配信もあるので、興味のある方はぜひご覧いただきたい。
そしてできるなら、キャストの組み合わせでどう違うのかも見ると楽しいと思いますよ。
※バーレスクという事で、表現としてどうなんだと心配した人もいるでしょうが、不必要に過激なシーンも無く、唯一、バーレスク席の方にはあの衣装でちょっと目のやり場に困ったかも…というくらいでした。