背水の陣を知る

 僕は小さい頃から歴史の本に親しみ、多くの本を読んできましたが、中学生から高校生の頃は特に中国史にはまっており、中国関係の史書を多く読み漁ってきました。愛読していたのは宮崎市定さんの「大唐帝国」、陳舜臣さんの「小説十八史略」「中国の歴史」などですが、数あるエピソードの中で、前漢創設の功臣の一人である韓信が趙軍に取った戦法として知られる「背水の陣」については、僕は今まで文字通り、大河を背に布陣することで兵士の退路を断ち、死の物狂いで戦わせる戦術のことだと受け止めていました。実際に、背水の陣は趙の大軍の耳目を引き付けておいてから、かねてより配していた伏兵に趙軍の後背を襲わせて、趙軍を攪乱して勝利を得る、そういう一連の戦術の一つであることを最近になって知りました。背水の陣というのは自己を奮い立たせるための決意表明であり、それによって自分の迷いを吹っ切り、覚悟を決めることで難事を成就する、そういうイメージがありますが、世の中の多くのことが、そう簡単に、一気にカタが付くようなことはなく、背水の陣に全兵力を投入していた場合、戦線が膠着すると兵は疲弊しますし、勢いに押されれば川に追い込まれて溺死してしまいます。長期戦にならない算段が必要で、そのためには伏兵に敵軍の後背を襲わせることは不可欠です。自分は今まで、持てる「兵力」を全振りするような背水の陣を布いたことがありません。勝負に出たことがない、冒険をしたことがないと言えますが、何らの確信なく全財産を売り払って未踏の地での成功を夢見るようなことは、やはりリスクは高いと思います。全振りして失敗するとさすがに地盤は揺らぎ、生活は不安定になりますし、不安定になれば藁をもすがることになり、生活環境、仕事環境が悪くなる可能性が高いです。何のつてもなく新天地を追い求めても、自分を安く買い叩かれるだけです。今の環境の中でゆでガエルになるのは避けたいですが、今のメインルートの中で自分の求める道に叶うキャリアパスを志向しつつ、持てる資源の一部を新天地への橋頭保づくりに投入することで、自分の持てる可能性を広げていきたいと思います。

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