役所に多くを求めない社会に
公共セクターである国や地方公共団体、公立学校などは、社会において重要な役割を陰に陽に担っており、その役割を果たすためにある程度の水準の人材を確保することは、人々がストレスなく生活するうえで大事なことであり、昨今、公務員志望者が急激に減少し、人材不足が深刻化する中、社会全体の賃上げの波にあわせた給与水準の引き上げは避けられないと思います。
しかしながら、役所が企業のように業績好調を背景に、原資を確保して給与を上げられるわけではないので、安定財源としての税収の確保が不可欠ですが、
税収は103万円の壁の撤廃のように、景気とは関係なく政策的に減収となる可能性もあり、税自体が全体としては、景気変動の影響を受けにくい構造になっているため、必ずしも賃金という出口ベースでの比較で給与水準を引き上げても、その原資が追いつくわけではありません。
むしろ、ある地方公共団体の幹部職員になっている知り合いに聞いたところでは、今回の人事院勧告による大幅な給与水準の引き上げは、財政的にはきつく、税収は不透明なので、来年度以降も同じように引き上げられると、非常に苦しいとのことです。
ただ、採用予定数を現状でも確保できていない状況にあるので、上げないわけにはいかないとも話をしていました。
最終的には、地方も含めた人件費全体を、国が国債を発行して穴埋めすることになるのでしょうが(地方債は原則として、収支不足を理由には発行できないため)、公務員は長期の身分保障をされている分、コストは固定的になります。
一方で、この先の人口減少を見据えると、現状を前提に人を確保することは、将来的な収支バランスを崩しかねず、収支尻をあわせるために極端な採用抑制となって跳ね返りかねないので、今ありきで物事を考えるのは、危うい気がします。
デジタル化や業務の効率化といった取り組みを進め、社会全体が役所に過剰な負担をかけないようにすることも必要です。
現在、多くの役所が平日のみ開庁し、土日祝日は休みですが、平日の開庁時間を短縮する代わりに、一部の土曜日や夜間を開庁し、トータルとしての窓口の受付時間を減らすことや、
事業者向けには電子申請を基本としてオンラインで手続きのやりとりを行うなど、利用者ニーズに合わせた柔軟な対応を進めることで、トータルとして「待ち」の時間を減らすことは必要だと思います。
また、選挙関連の業務についても改善の余地があると考えています。選挙の投票日直後に結果を迅速に公表することは、社会にとって本当に必要でしょうか。少し時間をかけて集計することで、従事する職員の負担を軽減し、コスト削減につなげることができるかもしれません。
これらに限らず、社会全体が「役所は何でも迅速に対応すべきだ」という前提を見直すことも必要です。役所にかかる期待が過剰であればあるほど、その分コストが膨らむのは当然です。そこで、役所の役割を見直し、負担を軽減することが、長期的なコスト抑制に寄与するのではないでしょうか。
僕たち一人ひとりが、役所に過度な負担を求めるのではなく、効率的かつ必要最低限のサービスを提供する体制を支持することが大切です。
そうすることで、役所が持続可能な形で人材を確保しながら、税収とのミスマッチを最小限に抑える道筋を作れるのではないかと感じています。社会全体で「役所に求めるもの」と「負担のバランス」を考え直すべき時期に来ているのかもしれません。