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電子書籍には代えられない本の価値

 この前、会社で業務効率を上げるためにペーパーレスを進める話をしていたとき、「そのうち本も電子になって、ブックオフもなくなる」というような発言をしていた人があり、この意見には、僕は首肯できませんでした。

 当面は、紙の本がなくなることはないと思っています。確かに、同じようなデータや情報を使いまわすような手続きや会議の資料のようなものは、紙でやり取りすることは非効率かつコピー代の無駄であり、ペーパーレス化のみならず、フォーマットも極力共通のものに揃えることが、無駄な手間を省くことにつながります。

 ただ、この話と、本が電子書籍に収れんしてしまうことは、まったく別な次元の話だと思っています。

 確かに、すぐに本から知識を得たい場合には、電子書籍をネットで購入したほうがが早いですし、在庫切れもないし、持ち運ぶ手間もなく、メリットは大きいと思います。

 でも、本に関して言えば、そこにだけある知識をすぐに手に入れるために購入する、というケースは、あまりないのではないかと思います。

 そういうタイムリーな情報は、おおかたネット上で入手できるようになっており、なればこそ、そうした役割を担ってきた雑誌や新聞は、急速にその居場所を縮小させつつあるのでしょう。

 知識の速報性の役割が薄れた本については、それが実用書である場合、そこに書かれている知識をただ知るというより、知識に対する書き手の視点を学びたいとか、何かスキルを習得するにあたり、少しでも自分にフィットした教え方になっているかといった、いわば切り口のフィット感のようなところが、自分の中で選ぶ基準になっています。

 一方で、同じ本でも、小説やノンフィクションについては、没入し追体験するために、しっかりと書き手の文体や登場人物のセリフを含めて味わうことが肝要であり、
特に自分の生き様の屋台骨となっている本は、毎年の巡礼において、隠された宝を探すが如く、ページをめくり返したり、同じ区間を何往復かしたりして、本をそれこそ逆さにする勢いで、骨の髄までしゃぶり尽くしているわけで、この辺の味わいは、少なくとも現状の電子書籍では難しいかなという気がします。

 加えて紙の本には「物としての存在感」があります。装丁のデザインや紙の質感、ページをめくる音、本そのものの重さ。そういうのも含めて、本を読むという体験になっている気がします。

 とはいえ、自分の中でも、これまで長きにわたり本と密接にリンクしてきた、書店の存在感というのは、低下しつつあるような気がします。

 アマゾンで、目当ての本を選ぶ際に、類似の本を比較検討し、さらに口コミで判断するというように、選本にあたっての情報量が増え、その情報をもとに選ぶことの便利さに慣れた、というのもありますし、
noterさんの本の紹介記事での発見も最近は多く、それにより、自分の目利きだけでは届かない世界が広がったという実感もあります。

 また、僕のこうした思いとは別に、全体的に本の賞味期限が短くなり、返本される量も半端ないと聞きますので、貴重な資源の節約や、読み手をロングテールで開拓するという点では、電子書籍が優位にあり、使い勝手が一層向上することで、紙に取って代わる状況になるようにも思います。

 でも、紙の本は、電子書籍にはない魅力を多く持っており、僕としては、古本市場で人から人へ渡る点も含め、まだまだ活躍を続けてほしいと願っています。

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