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符合する経験

 昨日、僕が前の職場で手がけたプロジェクトが、ようやく一つのかたちになって結実したと聞き、改めてその経験を振り返るとともに、そこから得た学びがいかに大きかったかを実感しました。

 このプロジェクトは、会社にとって未踏の領域に挑むものであり、手探りで進めていくことが求められました。その中で、僕が自然と取っていた進め方が、後に学問的な帰納法と演繹法という2つの思考法に対応していることを知り、自分の中で新たな発見がありました。

 プロジェクトの初期段階では、まさに帰納法的なアプローチを取っていました。帰納法とは、具体的な経験や観察から一般的な原理を導き出す方法です。僕たちは未知の課題に直面するたびに、その場でできることを試行錯誤し、ひとつずつ課題を解決しながらプロジェクトの方向性を明らかにしていきました。
 たとえば、現場でのフィードバックや試行錯誤から得た知見をもとに、全体の戦略を少しずつ構築するという進め方は、まさに経験論的なプロセスそのものでした。

 一方で、プロジェクトが進むにつれ、演繹法的なアプローチが重要になっていきました。演繹法とは、既存の理論や一般原則を基にして、そこから具体的な結論を導き出す方法です。
 この段階では、これまでに得た経験や蓄積した知識をもとに、プロジェクトの具体的な行動計画や次のステップを論理的に組み立てることが求められました。
 特に、多くの関係者と合意形成を図る場面では、全体の目標を共有し、それに基づいて必要な調整や交渉を進めるために、論理的かつ体系的なアプローチが欠かせませんでした。

 このように、帰納法と演繹法はプロジェクトの異なるフェーズでそれぞれ役割を果たしていたのです。プロジェクトの初期段階では、経験に基づいて現実的な解を見つける帰納法が主導しました。
そして、ある程度の基盤が整った後は、得られた知見をもとに全体像を描き、計画的に進める演繹法が加わりました。
この2つの方法が相互に作用し、補完し合ったことが、最終的にプロジェクトの成功につながったのだと思います。

 実は、僕自身は、そのプロジェクトの渦中にあったときは、常在戦場で他の案件も抱えながら指揮を執っていたので、そのように整理して理解していたわけではないんですが、
今の部門に異動してから、ある大学の先生と出会い、学問的な視点から合意形成のプロセスをわかりやすく解説してもらう機会があり、
僕自身はそのとき直感や経験に基づいて行動していましたが、それが理論的にも裏付けられると符合し、大きな納得感とともに自信を得ることができました。

 帰納法的な経験論と演繹法的な論理が表裏一体となり、実践の中で融合することが、未知の課題を乗り越える鍵であると感じています。
合意形成という、人の思いをまとめていくプロセスは、おそらくこの先においても、大なり小なり経験することでしょうから、今後は、頭の中にイメージを抱きつつ、この2つのアプローチを状況に応じて使い分け、また組み合わせながら進めていきたいと思います。

 同時に、こうした発見は、ある程度、山の上に登らないと経験できない世界であり、若いころは、想像もしていなかったことを味わえているともいえます。実は、仕事の中身とかはどうでもよくて、こういう「符合する経験」みたいなものが、長くその仕事をすることの、醍醐味ではないのかなと思います。

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