久しぶりに「ズンズン」と心に響く本に出会った
僕は数日前より、笹川一族について書かれたノンフィクション、「宿命の子」という本を読みはじめています。
タイトルをご覧になってわかるように、最近話題になっている、安部晋三元首相の本を検索していた時に、ひっかかった本です。
ハードカバーで全体が700ページ近くに及ぶ大部の書籍ですが、ふつうは隠されている家族の内幕が赤裸々に語られており、人物伝にありがちな、心酔した人の目から加えられた賛美の添加物が加えられて鼻につく感じでもなく、無味乾燥ではもちろんない、一言でいえば、なかなか面白い本であると思います。
けれども、この本は1ページ、1ページがズンズンと重くのしかかり、さらさらと読み進めることができない、特別な感覚を伴う本でした。
読んでいると、僕の中で「咀嚼している」という感覚がとても強まりました。その理由のひとつは、この本が描く笹川良平という人物像が、僕の中での既存のイメージを破壊し、同時に新しい像を植え付けていく過程にありました。
笹川良平といえば、昭和史に名を刻む巨人であり、モーターボート事業と右翼の巨頭という漠とした印象は持ちながらも、これまでは僕にとってはあえて深く知る必要なない人物、もっと言えば、自分の価値観とは異なるので、そこから学ぶことはない人物ということで仕分けされていました。
しかし、この本を読み進める中で、僕が抱いていた笹川良平像が、まるで砕氷船に粉砕されるかのように音を立てて崩れていきます。
そこに現れるのは全く新しい笹川良平像ですが、それはただ新しいだけではなく、自分の持つどの「型」にも当てはまらない、破天荒さと独自性に満ちたエピソードにあふれ、正直「今さらこの人物の新鮮さを知らされるなんて」と驚きの連続でした。
情報量の多さや描写の密度も相まって、1ページ読むごとに、まるで何かを全力で飲み込んでいるような感覚、読むためには「体力」を使っていると感じ、脳がしびれる感覚を抱く学術書とは別な意味で、適宜休憩が必要な本です。
本を読み終えた後も、頭の中に残る「ズンズンと心に響く感覚」。これは、これまでの僕の読書体験の中でも特別なものであり、本との出会いは貪欲に求めていくことの大事さを知らされました。