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【禁止された実験】スタンフォード監獄実験の全貌【社会心理】
自分の中に凶暴性があると思いますか?
どんな環境でも自分は「普通の人間」でいることができるでしょうか。
「生きていくのが辛い」と感じた時、
もしかしたら、あなたは心理的な監獄の中で生きているからなのかもしれません。
・はじめに
こんにちはサイモン心理大学です。
皆さんは刑務所に入ったことがあるでしょうか?
冗談です。
もちろん、ないですよね?
今回は
「一般的な人を刑務所に入れたらどうなるのか」
という心理実験、スタンフォード監獄実験を紹介したいと思います。
心理実験の中でも、とくに問題のある実験として有名です。
心理学に詳しい方などはすでにご存じかもしれません。
スタンフォード監獄実験の全貌
実験の結果、何がわかったのか
私たちにどう関係しているか
そんなことをお話させていただきます。
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―実験の概要
心理学者フィリップ・ジンバルドー (Philip Zimbardo)は、ある実験を計画します。
それは、一般人を刑務所に入れるというものでした。
実験のために用意した刑務所で、看守と囚人の役割を演じてもらい「役割を与えられた普通の人間がどうなるのか」
を証明するために行われました。
約2週間を予定していたこの実験ですが、たったの6日で実験を終了せざるを得なくなります。
いったい何があったのか。
―実験の前
実験の参加者は、地方新聞の広告によって集められました。
広告には
「刑務所生活の心理的影響を調査するため 1日15ドルあげます」
被験者を募集します、と書かれていました。
募集で、およそ70人が集められました。
70人にはそれぞれ、性格診断と面接を受けてもらい、実験にふさわしい人間かどうかを調べます。
医学的に問題のある者、犯罪歴のある者、薬物の使用履歴がある者など
を排除するためです。
最終的には、24人のアメリカ、カナダの大学生が残りました。
彼らが実験の参加者となります。
刑務所は実際のものを使うことは難しく、スタンフォード大学の地下に実験用の仮の刑務所を作ることになりました。
少しでも、刑務所に近づけるため、廊下を板で覆ったりして、より実際のものに近づけます。
また、独房を作るため、ドアを取り外し、鉄格子のドアに取り替えました。
この刑務所には、窓はなく、時計はありません。
囚人は、時間を知ることさえできない状態だったのです。
看守と囚人のチーム分けは、コインを投げて行われました。
ちょうど半分が「看守役」、もう半分が「囚人役」です。
囚人役は本当の警察署に待機してもらい、そこから1人ずつ
実験用の刑務所に連れてこられ、罪の重大さと囚人としてここで生活することを伝えられます。
実験参加者には、役に入り込んでもらうため、あらゆる準備を行いました。
この時はまだ、
誰も「演技ではなくなる」とは想像さえしていませんでした。
刑務所には、9人の看守と9人の囚人が入り、実験が開始されました。
―実験開始
1971年8月14日
刑務所に入ると、検査のため囚人たちは裸にさせられました。
「細菌やシラミがいる可能性がある」とし、スプレーでシラミ駆除が行われました。
スプレーの後には、囚人服としてスモックや短いドレスが支給されます。
囚人服の前後には、囚人番号が書かれていました。
囚人は下着なしでこれを着用します。
さらには、両足首に南京錠のついた鎖で繋がれ
履物はゴムサンダル、ナイロンストッキングで作られた帽子を渡されます。
実際の刑務所では、足枷をさせることはありませんが、
「ここが刑務所であること」を感じさせるために使用されたそうです。
囚人たちはすでに「屈辱」を感じていたそうです。
―権威の主張
午前2時30分、笛の音が鳴り響き、囚人たちは強制的に起こされます。
囚人たちは看守に点呼をもとめられます。
「262番!」「819番!」「506番!」「970番!」
看守は、囚人の眠りを妨げるだけではなく、腕立て伏せをさせ、
その上に座ったり、踏んだりするなどのいわゆる体罰が行われたのです。
他にも、仲間の囚人の背中に囚人を座らせたりと、まるで仲間割れをさせるような行動も見られたとのことです。
囚人たちの1日目から、不満をあらわにしていきます。
―暴動
2日目には、さっそく暴動が起きてしまいます。
囚人たちは、服の囚人番号をはぎ取り、ベッドでドアをふさぎ、独房の中に立てこもったのです。
そして、囚人たちは看守へ暴言を吐き始めました。
看守たちは、話し合い、ついには
「力では力で対抗しよう」
と結論付けました。
看守たちは、消火器を持ち出し、囚人たちに向けて噴射し始めました。
そして、各独房に押し入り、囚人たちを裸にし、ベッドを撤去し、この反乱の首謀者を独房に監禁しました。
こうして、暴動は鎮圧されたのです。
再び暴動が起こされることを心配した看守たちは
物理的な手段ではなく、心理的な方法でコントロールしようと考えました。
それは
「特権独房を作る」
ということでした。
特権独房とは、暴動に参加していない3人の囚人の待遇を良くしようという作戦でした。
他の囚人と違い、服やベッドを与えられ、体を洗ったり、特別な食事をすることができました。
囚人たちの待遇に差をつけて、囚人たちの一体感を奪おうという作戦なのです。
良い待遇を受けている囚人とベッドもなく、暴動の罰を受ける囚人達の間には、大きな亀裂ができ始めていました。
囚人たちは、良い待遇を受けている誰かが
密告者だとお互いを疑い始めるようになったのです。
ここから状況がかなりエスカレートしていきます。
―エスカレート
刑務所でのルールはさらに厳しくなっていきました。
囚人たちは自由にトイレに行くことさえできなくなってしまいます。
囚人たちは仕方なく、バケツで用を足しました。
匂いが充満し、刑務所内は最悪の衛生環境となっていきます。
こうした厳しい環境の中
囚人8612番は、激しく泣き出したり、混乱した様子など情緒不安定になってしまったのです。
8612番は、続行不可能ということで、実験からの離脱、釈放されることになりました。
ここである噂が看守の耳に入ってきました。
昨夜釈放された囚人番号8612番が、友人たちを集め、残った囚人たちを解放しにやってくるというのです。
看守たちはこの集団脱走計画の対策を考えました。
看守たちは、囚人たちを鎖でつなぎ、頭に袋をかぶせて、侵入が終わるまで、別の場所へ移動させました。
もしも、彼らが囚人を解放するためにやってきたら「実験は終了しました」と嘘をつき、帰すために、刑務所を解体までしました。
また、8612番を再び投獄することさえ考えられていました。
しかし、集団脱走計画の噂は偽りでした。
看守たちの対策は全て無駄に終わってしまったのです。
看守たちの怒りは、囚人たちに向けられるようになってしまいます。
囚人たちに、素手で便器を掃除させるようになり、体罰が増え、点呼も数時間に及ぶようになっていったのです。
―疑惑
このときらへんから、囚人たちは本来の自分を見失っていました。
看守のいうことに逆らえず、どんなことでやります。
ジンバルドーは、刑務所の状況が現実的かを判断してもらうために、実際の刑務所の牧師を務めるカトリックの司祭を呼びました。
牧師は1人1人に面接をおこないました。
牧師は囚人たちに、
刑務所から出るための唯一の方法は、弁護士に連絡することだと伝えました。
※牧師は囚人たちの待遇がおかしいことに気が付いたようです
1人1人面接していく中で、819番は、体調が悪いようでした。牧師とあっても何も話そうとはしません。
牧師が「どんな医者が必要なのか」と何度か聞いていると、囚人は泣き出しました。
819番は、医者に連れて行くからこの部屋で休んでいてくれと言われ、部屋で待機していました。
すると、ドアの向こうから大きな声が聞こえます。
「819番は、悪い囚人だ!819番のせいで独房がひどくなった!」
同じ言葉が12回も聞こえてきます。
看守の1人が囚人達を並べ、819番を非難する言葉を言わせ続けていたのです。
そうして、実験のために作られた刑務所には、たったの5日で、サディスティックな看守と、看守に服従する囚人ができあがってしまったのです。
―実験の終了
5日目の夜、面会に来た参加者の親達が、
「息子を刑務所から出すため」弁護士に連絡してほしい
と言ってきます。
司祭から囚人たちの親へ連絡があり、弁護士を呼ぶように言ったそうです。
またスタンフォード大学の博士号を持つ人から
「参加者にしていることはとんでもないことだ!」
と非難し、
実験は終了せざるを得なくなりました。
こうして、2週間を予定していた監獄実験は、およそ6日で中止しました。
研究から2か月後、ある囚人はこう言い残しています。
「私は自分のアイデンティティを失いつつあるのを感じていました。私にとってあそこは刑務所です。それは今でも変わりません。心理学者が運営する刑務所なのです。刑務所に行くことを決めた私は、刑務所にいた自分とは全く別人でした。私は自分自身ではなく、416番になってしまいました。私は本当に416番だったのです。」
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・解説
以上が監獄実験の全貌です。
一部省力させていただきましたが、監獄実験がいかに過酷であったかがわかっていただけたかと思います。
日本の刑務所では、こういったことはないと信じたいですが、
世界のどこかの刑務所では、看守が囚人をいじめるなんてことは過去にも実際にあったことです。
まるで、人を物のように扱う刑務所も存在しました。
では一体、この実験で何が起きていたのか考えていきたいと思います。
・考察
さきにお伝えさせていただくと、この実験は科学的には、適切ではないという意見があります。
この実験からわかったことの1つに「権威への服従」があったのではないかと言われています。
「権威への服従」とは、いわゆる「権威主義的パーソナリティ (性格) 」のことで、
「無批判に権威の主張や意見を受け入れ、その勢力の代弁者となり、反対派や少数派に対して優位性を示そうとする態度。弱者が自己の社会的優位性、安定性を獲得するためのストラテジーの一種と位置づけることもできる」
自らの脅威から脱するため、自らを守るため、権力をもつ者への考えをすべて受け入れるということです。
監獄実験の場合
「看守のいうことは絶対だ」
という考えのことです。
この権威主義的パーソナリティは、現在では家庭内暴力DVや虐待によって引き起こされることが多く指摘されています。
つまり、暴力から身を守るため、親の言うことを全て受け入れてしまうということです。
それは大人になってからでも変わらないのです。
また、今の日本でも、
「貧困化する日本」
「人口減少」
「失われた30年」
など権力への服従がおこる可能性も懸念されているとのことです。
またこの実験では、「非個人化」というのがあったといわれています。
「非個人化」とは、元々の性格とは関係なく、役割を与えられただけでそのような状態に陥ってしまう状態のことです。
監獄実験の看守のタイプを見てみましょう。
看守には3つのタイプがいたそうです。
1つは、刑務所の規則に従う、厳しいが公正な看守
2つは、囚人にほとんど恩恵を与えず、決して罰を与えない「善人」
3つは、約3分の1の看守が、囚人をかなり屈辱的な方法でいじめる看守
これらのことは、事前に行った性格診断では見られなかった一面だそうです。
まさに監獄で生み出されたパーソナリティかもしれないとのことです。
囚人はどうだったのでしょうか。
一部の囚人は、看守に反抗していました。
一部の囚人は、情緒不安定状態になってしまいました。
一部の囚人は、看守が望むことを全て行う、良い囚人となってしまいました。
囚人たちは完全に、本物の囚人のようになってしまったのです。
皆さんなら、まったく別の看守、まったく別の囚人になれたでしょうか
―BBC監獄実験
先ほど、スタンフォード監獄実験が、科学的に適切でないという話をしましたが、
実は、監獄実験は再度行われていたのです。
BBC監獄実験
BBC監獄実験とは、2002年心理学者のアレックス・ハスラムと社会心理学者のスティーヴ・ライヒャーがイギリス放送協会の協力を得て、スタンフォード監獄実験の再現として行われた実験です。
実験は、9日間、外壁のない施設、5人の看守役と10人の囚人役で行われました。
刑務所のルールはスタンフォード監獄実験と同じく、参加者によって決められました。
実験の結果は、スタンフォード監獄実験の時とは、大きく異なり、
看守役は、実際の看守のようにはならず、でした。
この実験皆さんにはどう感じたでしょうか。
BBC監獄実験が正しくて、スタンフォード監獄実験はやはり、科学的には間違ったやり方で行われたものだったのでしょうか。
それとも、スタンフォード監獄実験は、人間の本質を暴いた実験だったのでしょうか。
・最後に
実験参加者には、ジンバルドー自身が
約10年間、それぞれの被験者をカウンセリングし続け、今は後遺症が残っている者はいないそうです。
この実験は映画にもなりました。
「静かな怒り: スタンフォード監獄実験」
刑務所の新人看守の訓練にも使われているそうです。
私たちのアイデンティティは自分で決めていると信じています。
「人に迷惑をかけないようにしよう」
「悪を決して許さない」
「誠実に生きよう」
それらはどんな環境でも同じと言えるのでしょうか。
監獄実験の詳細が書かれているスタンフォード監獄実験の公式サイトに面白いことが書かれていました。
「私たちは、自分のため、他者のためどんな心理的な監獄を作っているのでしょうか?
差別や貧困、その他の社会制度は私たちが作り出す監獄とどう違うのでしょうか
―結婚生活で生み出される監獄
配偶者が「看守」になり、もう一方が「囚人」となる」
―神経症で生み出される監獄
自分の中のある側面が「看守」となり、別の側面が「囚人」となる
―自分自身の「看守」「囚人」となる」
あなたは誰かの「囚人」となり
自分自身の「看守」となっているのかもしれません。
あなたは今、どんな監獄にいるのでしょうか。
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―引用文献
・「スタンフォード監獄実験:公式」https://www.prisonexp.org/
・「スタンフォード監獄実験:ディスカッション」 https://www.prisonexp.org/discussion-questions
―参考文献
・「BBC監獄実験について」 https://www.gaigo.co.jp/dvd/MP-0812_THE_EXPERIMENT.html