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危険!平等な世界を信じる人が陥る恐ろしいこと【公正世界信念】

 皆さんはこの世界が平等だと思いますか?
また、善い行いをしていれば、いつか報われると思いますか?
そして、悪い行いは必ず報いを受けるとお考えですか?

・はじめに

こんにちは。サイモン心理大学です。
 
私事なのですが、最近社会心理学にはまってしまいました。
きっかけはYoutube「Vsause」チャンネルを見たことです。

Vsauseは、トロッコ問題を実際に行ったり、感覚遮断実験を自分で挑戦したりと、社会心理学の心理実験をいくつも挑戦しているチャンネルです。

私もいつかは心理実験を動画にしたいなと強く思っています。
しかし、私には、お金も時間もチャンネル登録者数も足りません
そのため、将来、いつか、未来。

大規模な心理実験を行いたいと思います。
そのときはどうかご協力お願いいたします。

 そういうわけで今回は社会心理の動画です。
短い動画ですが、お付き合いください。
 
この世界が公正であるという考え「公正世界信念」についてお話したいと思います。
 
どうして私がこれを動画にしようと思ったかについては、

この公正世界信念が、犯罪被害者に対して、被害者批判をしてしまう要因となっているというのです。

 一体どうして、公正な世界を信じている人が、いわゆる不幸になってしまった人を攻撃するのでしょうか。
 
一緒に考えていきましょう。
 

・電気ショック実験

さっそくですが、皆さんには実験に参加してもらいましょう。

電気ショックを受けている男性A

ここに電気ショックを受けている人がいます。
あなたはガラス越しに彼を見続けることしかできません。
この人に対してあなたはどのように感じるでしょうか。 

かわいそうですか?
辛そうですか?
実験に参加した彼が悪いですか?
 
自由にご回答ください。

 ちなみに、彼は電気ショックの強さに応じて、お金がもらえます
これを聞いてあなたの考えは変わりましたか?

というような実験が行われました。
正しく説明します。
 
社会心理学者のメルビン・J・ラーナーは、ある実験を行います。

70人の被験者たちに、共同被験者が電気ショックを受けている様子を見せました。
被験者は、何もすることができず、ただ見ることしかできませんでした。
次第に、被験者は電気ショックを受けている人を悪く言うようなことを言い始めました。
そして、電気ショックの強さに応じて報酬が支払われると伝えると、被験者は電気ショックの彼を悪く言うことはなくなったそうです。

 つまり
報酬ありで電気ショックを受けている人よりも
報酬なしで電気ショックを受けている人の方が、悪く見えたということです。
 
社会心理では、こういった本来の目的を実験参加者に伝えず、共同参加者という偽の参加者、いわゆるサクラを使った実験が多いようです。

私がこの実験に参加したなら、
できるだけたくさんの電気ショックを受けてお金をもらいます。

え?

 この実験で一体何がわかったのでしょうか。
 
この実験により、ラーナーは、人には「公正世界信念」が存在しているとしました。
※この実験の批判もあります。
 

・公正世界信念とは

「公正世界信念とは,世界は突然の不運に見舞われることのない公正で安全な場所であり,人はその人にふさわしいものを手にしているとする信念である (Lerner, 1980)」

村山ら(2015)

 簡単に言ってしまうと、この世界は公正で
悪い人にはバチがあたるし
良い人には良いことがあるんだという考え、認識のことです。

「努力すれば報われる」
「信じる者は救われる」
 
も公正世界信念だと言えます。

また

「いつか天罰がくだる」
「前世で悪人だったんだ」
 
も公正世界信念だといえます。

 皆さんにも大なり小なり、こういう考えがあると思います。
 

・被害者非難

しかし、この公正世界信念が、犯罪被害者など、被害者非難になってしまうというのです。
 
被害者非難とは

犯罪または不正行為によって生じた被害に関して、その責任の一部または全部を被害者に負わせることです。

 過去には、殺人事件の遺族への攻撃
亡くなった後でもその人を攻撃するようなことも起きていました。
 
また、ハンセン病を患った人に対して

前世の罪因果を受けた」と言われることがあったそうです。

「ハンセン病は、抗酸菌の一種であるらい菌による慢性感染症」

石井則久 (2004)「ハンセン病」化学療法の領域 Vol.20, No. 6

のことで、

皮膚症状や末梢神経障害を伴う病気です。
発疹や顔面神経麻痺による兎眼(とがん:開眼のままになる)が生じ、角膜炎により失明する方もいます。
 
背中一面に赤い発疹が出たり、皮膚症状による変形も生じたりします。

 歴史的にはハンセン病は治らない病気 (※現在は違う) で視覚的な変形や身体障害が影響し伝染性の強いものであると誤解されていたため、ハンセン病患者は多くの社会から強制的に排除された歴史があります。
 
そのため、ハンセン患者は治癒してからも、偽名を使ったりと差別に対応せざるを得なくなりました。
 
現在では、ハンセン病患者あるいは回復者に対して、差別や偏見のない社会を推進する目的で作られた。

「ハンセン病を正しく理解する週間」が存在します。

令和6年6月16日(日曜日)から6月22日(土曜日)

「外見上の問題と手足の不自由による就労の困難など、さらに宗教上の問題などから、世界的に偏見・差別の対象となった」

石井則久 (2004)「ハンセン病」化学療法の領域 Vol.20, No. 6

 ハンセン病は、一部では「天刑病 (てんけいびょう)」とも呼ばれていました。
 
つまり

「実は犠牲者本人に何らかの苦しむだけの理由がある」

と考えてしまうのです。
 
では、どうして被害者非難が起こってしまうのでしょうか。
 

・原因「犠牲者非難」

被害者と自分の属性に類似点がある場合や,被害にあった原因をどこにも帰属できない場合に,罪のない被害者の人格を傷つけたり非難したりすることで信念の維持を図る傾向がある

(Correia & Vala, 2003; Correia, Vala, & Aguiar, 2007),(Warner, VanDeursen, & Pope, 2012), 村山ら (2015)

 つまり、凶悪な事件を目の当たりにした公正世界信念が強い人は、
「自分の信じている世界と違うことが起きた」と感じてしまうのです。
  
自分の信じている世界が脅かされたとき、人はある方法をとります。
 
それが犠牲者非難  (被害者批判) なのです。

被害者にも原因があった。
被害者の運命だった

と考えることで、自分の信じる「公正な世界」は維持されるのです。
  

・どのように行われる?

実は被害者全てに被害者非難が行われるわけではないそうです。

加害者に対する否定的反応を通した信念維持が優先され,相対的に被害者非難が行われにくくなる可能性が示された」

村山ら (2015)

 つまり、加害者への非難ができる場合には、被害者への非難が行われないのです。

「被害者が長期的な苦悩を強いられたり,被害の回復が望めないような場合ほど,その非難の程度は高まるとされている」

(Hafer & Begue, 2005), 村山ら (2015)

 被害者への被害が大きいほど、被害者非難が起こるそうです。
また、加害者がいない、事故、病気などにも被害者非難が起こりえます。
 
他の研究や歴史から見ても、特にせい犯罪に対しては、被害者非難が起きやすいそうです。
 
では、加害者に対してはどのように行われるのでしょうか。
 

・加害者非難

「加害者の悪魔化や患者化 といった非人間化によ る信念維持方略につながる可能性が指摘されている 」

(Ellard, Miller, Baumle, & Olson, 2002; 白井・サトウ・ 北村, 2011), 村山ら (2015)

 加害者を患者のように見ることがあります。
加害者は、精神を病んでおり、自分のした犯罪さえ正しく認識できていない。

きっともう社会に出てくることはないだろう

 などと見ることで、自分の環境とはまったく別の人間だと認識することで、
公正世界信念を維持しようとします。
 
仮説ではありますが、これは犯罪加害者だけではないのかもしれません。
いわゆる、自分の世界では理解できない人を「非人間化」し、排除してしまうということはあるのではないでしょうか。
 
懸念されていることが1つあります。
 
それは裁判員裁判です。

裁判員裁判の図

裁判員裁判とは、国民から事件ごとに選ばれた裁判員裁判官とともに審理に参加する裁判のこと

ですが
 
ここに、公正世界信念が強い人がいた場合、主に加害者に実際の刑罰以上の判決が出る可能性も指摘されています。
 
皆さんはこれについてどう思うでしょうか。
 

・不公正世界信念

一方で、この世界が公正でない、危険だと認識する人もいるそうです。
そのような状態を「ミーンワールド症候群」というそうです。

ミーンワールド症候群とは、この世界が危険だと認識してしまう状態のことです。多くは暴力的なニュースに長期的にふれることによって生じるとされています。

 この言葉を提唱したペンシルベニア大学のジョージ・ガーブナーは、

「文化の物語を誰が語るかが人間の行動を支配する」

と主張しています。
ガードナーの調査では

子どもが小学生までに8000件テレビで殺人事件を視聴していた。
また、18歳までには約20万件の暴力行為を視聴していたことがわかりました。

 ミーンワールド症候群は、抑うつ、恐怖、不安、怒り、悲観、心的外傷後ストレス、薬物使用といった問題が増加すると言われています。

テレビを通して、この世界は危険であると認識してしまうのです。

 また、アメリカの精神科医ジーン・キム博士は

「ソーシャルメディアは、オンラインでの荒らし合戦や論争に過度に巻き込まれていると、偏った見方をしてしまい、直接的な影響を受けやすいかもしれない」

ジーン・キム

と述べています。
 
現代の子どもが、テレビしか見ていないということは、ありえないでしょう。
SNSの情報はどうしても入ってきます。 

誹謗中傷
炎上

 子どもたちが被害者にも、加害者にもなりうる時代です。
  
実際に、「スマホ脳」の作者、アンデシュ・ハンセンは

「SNSの利用によって、妬みの増加や人生の満足度や自尊感情の低下」

アンデシュ・ハンセン「スマホ脳」

を指摘しています。
 
SNSによって、子どもたち、私たちの心はどんどんと蝕まれているのかもしれません。
 
そして、私たちは攻撃者にもなりえるのかもしれません。
 
ほぼ無意識的に公正世界信念が強く
SNSにてあらゆる人を攻撃するかもしれません。
 
誹謗中傷で活動休止に追い込まれた人に対して
こんなことを言っていたのを思い出します。

「メンタルが弱い」
「有名人だから当然だ」

 ここにも大なり小なり被害者非難が存在すると考えます。
さらには、その人がこの世を去っても

「裏ではもっと悪いことしてた」
「もとからメンタルの病気の人だ」

 という言葉を投げかけるのです。
 
ちなみにですが、これは匿名だからというわけではないのです。
実際に韓国でSNSを実名制にしたことがあるのですが、
誹謗中傷は減らなかったという結果が出ているのです。
 
一部の人は、実名にすると攻撃が自分に返ってくるなどの理由で投稿をやめるのかもしれません。
ですが、公正世界信念が強い人は、自身の信念の維持を優先するのです。
 

・SNSでの誹謗中傷や炎上

その対象はみな、人々が共通して持つ世界観、価値観を破壊した人に対して行われているように感じませんか?

「真実を暴露します」
「妻とは別な人とお付き合いしていました」
「子どもはこうして育てるほうがいい」

 彼らを排除する動きがSNSを通して行われるのです。
そして、みなが信じる平等な世界が続いていくのです。
 
あなたはこの世界をどんなものとお考えですか?
  

・最後に

以上が公正世界信念の解説ですが、
公正世界信念は、良いところがとても多いです。

公正世界信念は、生活満足度と幸福度を高め、抑うつ的な感情を減少させるそうです。

 また

いじめは良くないものと認識する人が多いらしく、いじめの被害者に対しても、いじめられた子の非があるとは思わないそうです。

 公正世界信念は、ある意味世界を平等にする1つの要因なのかもしれません。
しかし、自分や身近な人が犠牲者となったとき、その牙を向いてくるのです。

 つまり

あなたが被害者となったとき、被害を伝えられない
身近な人が被害を告白せず、1人で苦しんでしまうということにも陥りかねないのです。

 皆さんは、どうお考えでしょうか。
  
そもそも私たちは公正世界に限らず
自分の信じている世界を壊したものを攻撃する生き物なのかもしれません。

日本は先進国である
苦しい思いをしてお金を稼ぐものだ

 その信念を脅かす者を私たちは排除したくなるのかもしれません。

 引用文献

・泉水 紀彦・桑原 千明「大学生におけるSNS利用実態と精神的健康との関連の検討 ─ 社会的比較と妬みに着目して ─」
 
・村山 綾, 三浦 麻子 (2015)「被害者非難と加害者の非人間化―2種類の公正世界信念との関連―」心理学研究 第86巻第一号 p.1-9
 
・石井則久 (2004)「ハンセン病」化学療法の領域 Vol.20, No. 6
 
・Wikipedia「公正世界信念」
 
・Wikipedia「ハンセン病」
 
・Wikipedia「被害者非難」
 
・Wikipedia「ミーンワールド症候群」
  
―参考文献
Lerner, M. J. (1980). The belief in a just world: A funda mental delusion. New York: Plenum Press.
 
Correia, I., & Vala, J. (2003). When will a victim be sec ondarily victimized? The effect of observer’s belief in a just world, victim’s innocence, and persistence of suffering. Social Justice Research, 16, 379–400.
 
Correia, I., Vala, J., & Aguiar, P. (2007). Victim’s inno cence, social categorization, and the threat to the belief in a just world. Journal of Experimental Psychology, 43, 31–38 .
 
Warner, R. H., VanDeursen, M. J., & Pope, A. R. D. (2012) Temporal distance as a determinant of just world strat egy. European Journal of Social Psychology, 42, 276 284.
 
Hafer, C. L., & Begue, L. (2005). Experimental research on just-world theory: Problems, developments, and future challenges. Psychological Bulletin, 131, 128–167.
 
Ellard, J. H., Miller, C. D., Baumle, T., & Olson, J. M. (2002). Just world processes in demonizing. In M. Ross & D. T. Miller (Eds.), The justice motive in ev eryday life. New York: Cambridge University Press. pp. 350–362.
 
白井 美穂・サトウ タツヤ・北村 英哉(2011).複線 径路・等至性モデルからみる加害者の非人間化プ ロセス― “Demonize”と “Patientize” ― 法と 心理, 11, 40–46.

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