ブルアカをはじめた(1)
降り続いた雨に外出の意欲をくじかれた私は、毛布にくるまって気だるい午後を過ごしていた。
時刻は16時を回っていた。
日曜日の夕方、明日になればまた憂鬱な仕事が始まるのだった。在宅勤務だから外出する必要はないものの、今の部署に異動して1年、仕事は無味乾燥な作業と化していた。
ふとSNSを見ると、最近やり取りをしていない知人からDMが入っていた。
最初にいたジャンルで知り合った、旧いオタク友達である。
珍しいな……そう思いながらメッセージを読み、そして凍りついた。
「しもこしさん!ぶるあかふぇすになぴさんでてます!!」
サプライズ登壇。完全なノーマークだった。
ブルーアーカイブという作品はなんとなく知っていた。
透き通るような世界観の学園RPG。スカイブルーを基調としたスタイリッシュなデザインでまとめられた、今勢いのあるソーシャルゲーム。
キャラクターはXやPixivでよく見かけていて、好みのデザインの子は何人かいた。ゲームを初めているフォロワーは多かったし、周囲から聞こえてくるゲームの評判も良かった。
それと同時に、多くの噂話も耳にしていた。
登場する女の子はごく一部の例外を除けば全員貧乳だとか、先生が変態だとか、アロナという少女が描いた頭髪が薄くなってる姿が先生なのだとか、田中角栄先生ミームだとか、でもシナリオはすごく良いだとか……。
そうした噂話を、ちょっと面白く、ときには苦手に感じながら、しかしゲームに触れることはなかった。
なんとなく、周囲もやっているから自分もという気分にはなれなかったのだ。
配信サイトを聞き、慌てて開くと、そこには髪型をセンター分けにした可愛らしい女性が映っていた。
確かにそれは、私が推している唯一の声優、春瀬なつみさんだった。
サプライズ登壇のどよめき自体はもう収まっていたが、ゲームの新規イベント、新規カードの情報にフロアは沸き返っていた。
3周年タイミングで開催する次のイベントで、彼女が声をあてるキャラクターが登場するらしい。
丹花イブキ。金髪サイドテールに、ぶかぶかな制服を着た、あどけなさの残る少女。
ゲヘナという、角やら悪魔の羽根やら尻尾やらが生えてる生徒たちの学園の重要な人物らしい。
マコト、イロハ、ヒナ、アコ……キャラクターが紹介されていく。
何人かは見覚えがあるキャラクターだ。
放送では「ゲヘナの先輩たちをぜひお迎えしてください」そう、言われた気がする。
私はスマートフォンを取り出しブルーアーカイブのインストールを始めた。
イブキを手に入れるために何をやるべきか、把握しなければ。
さっそく、SNSでブルアカの大先輩からのアドバイスが入る。
「イブキはイベントで手に入ります」
「イベント完走すれば大丈夫」
「リセマラでは限定キャラを狙うと良い」
「このキャラクターはイブキと使うと良いです。でも、スカチケでも手に入るから大丈夫」
どうやら、最悪の事態は避けられそうだ。
こうして私はキヴォトスへ、ブルーアーカイブの世界へ足を踏み入れることになった。
(気が向いたら続く)