笑いの演劇の旗手 群像会話劇にも秀作 劇作家・小説家の宮沢章夫氏が死去
笑いの演劇の旗手で群像会話劇にも優れた作品を残した劇作家・小説家の宮沢章夫氏が65歳の若さで亡くなった。今年は映画監督の青山真治氏、私小説作家の西村賢太氏ら優れた才能がまだ若くしてこの世を去ることが続いたが、私にとっては演劇作家としても「東京大学『80年代地下文化論』講義」など日本のサブカルチャーの優れた解説者としても心服し深い影響を受けていたことから、突然の訃報に深い衝撃を受けた。
1980年代にラジカル・ガジベリビンバ・システム(竹中直人、シティボーイズ、いとうせいこうらが参加)を率いてシュール、ナンセンスという当時はあまりなかった先鋭的な笑いの舞台を創作、日本演劇の世界にひとつの時代を築いた。その時代については以前どこかの雑誌にケラと合わせて短い評論のようなものを書いたことがあるので、それを参照にしてほしい。下記の文章では触れていないが、ラジカルな笑いの追求者としては分野は異なるが、西のダウンタウン、東のラジカル・ガジベリンバ・システム(宮沢章夫)が東西の双璧だったと言ってもよかったと思う。
ブログの過去ログを検索してみると個人的には2018年9月に早稲田小劇場どらま館で「14歳の国」を見たのが最後の観劇となった。
simokitazawa.hatenablog.com
個人的に親しいという関係ではなかったが、以前は劇場ロビーなどでお会いすると短く会話を交わすことがあった。コロナ禍以降は宮沢だけでなく、演劇関係者とロビーなどで情報交換をする機会も激減し、再入院していたことも知らず突然の訃報に深く驚かされ、大きな衝撃を受けた。
近年の演劇上演では新訳によるベケット「ゴド―を待ちながら」のリーディング上演、青年団の俳優らとの共同作業による遊園地再生事業団+こまばアゴラ劇場「子どもたちは未来のように笑う」@こまばアゴラ劇場(2016年)も観劇した。特に後者は青年団の若手俳優とよい関係を作り、優れた舞台成果を残しつつあったから、その時以来プロジェクトが中断したままコロナ禍に入り、それきりとなってしまったのが惜しまれる。
下記の演劇作品一覧を眺めてみると遊園地再生事業団の作品は1990年の旗揚げ公演となった「遊園地再生」以来ほとんどすべての作品を見ていたことが分かった。なかでも岸田國士戯曲賞の受賞作品となった「ヒネミ」(1992年)、「酒鬼薔薇聖斗(さかきばらせいと)事件」(神戸連続児童殺傷事件、1997年)に触発された「14歳の国」(1998年)、京都造形芸術大学を退任後、演劇活動再スタートとなった「トーキョー・ボディー」(2003年)などが印象的だった。
京都造形芸術大学(2000~2003年)で教鞭をとり、後進の育成を手掛けたのも関西にとって大きな出来事だった。同時期には松田正隆氏も同大学で教鞭をとり、太田省吾氏の招聘により同大学に招かれた両氏は当時の教え子たちに大きな影響を与えたのではないか。
私個人としては「東京大学『80年代地下文化論』講義」など日本のサブカルチャー分析にも大きな影響を受けた。
特に興味深かったのは桑原茂一が運営するピテカントロプス・エレクトス(ピテカン)を核とする東京のクラブカルチャーの同時代的回想だ。私は当時関西にいたがそこでは同じクラブカルチャーと言ってもダムタイプやドラッグクィーンのパーティーを核としたまったく毛色の違うクラブカルチャーが存在していた。そして、これはそのことは東西のその後のサブカルやアートの流れの違いに大きな影響を与えていたと思われる。
東京大学「80年代地下文化論」講義 (白夜ライブラリー002)
宮沢章夫演劇作品
『遊園地再生』(1990年)
『ヒネミ』(1992年)
『ヒネミの商人』(1993年)
『砂の国の遠い声』(1994年)
『箱庭とピクニック計画』(1994年)
『ヒネミ(再演)』(1995年)
『知覚の庭』(1995年)
『砂の楽園』(1996年)
『蜜の流れる地 千の夜のヒネミ』(1996年)
『あの小説の中で集まろう』(1997年)
『ゴー・ゴー・ガーリー!』(1998年)
『14歳の国』(1998年)
『砂に沈む月』(1999年)
『トーキョー・ボディー』(2003年)
『トーキョー/不在/ハムレット』(2005年)
『ニュータウン入口』シアタートラム(2007年9月21日 - 30日)
『ジャパニーズ・スリーピング/世界でいちばん眠い場所』座・高円寺(2010年10月15日 - 24日)
『トータル・リビング 1986-2011』にしすがも創造舎(2011年10月14日 - 24日)
シティボーイズミックス PRESENTS『西瓜割の棒、あなたたちの春に、桜の下ではじめる準備を』世田谷パブリックシアター(2013年4月2日 - 13日)
新作歌舞伎『疾風如白狗怒涛之花咲翁物語。』(2013年)
『夏の終わりの妹』あうるすぽっと(2013年9月13日 - 22日)
新作歌舞伎『竜宮物語』『桃太郎鬼ヶ島外伝』(2015年)
『子どもたちは未来のように笑う』こまばアゴラ劇場(2016年9月3日 - 25日)
『14歳の国』(2018年)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?