【アーカイブ】ももクロとモー娘。のパフォーマンスの違いについての考察 ガールズ・グループの祭典 RAGAZZE!~少女たちよ!~@NHKBS1
地上波版は1時間だったが、この日は放送時間が2時間。AKB48のスペシャルメドレーを除くと全てフル尺で公開されたのはアイドル番組としては画期的なことではなかったかと思う。
トップバッターはももいろクローバーZ。いまももクロを持ってくるとしたらトップに置くか、トリとして最後に持ってくるしかないだろう。そのくらい現在の実力を存分に見せつけたセットリスト、そしてパフォーマンスであった。披露されたのは「ロードショー」「Chai Maxx」「天国のでたらめ」「走れ!-ZZ ver.-」の4曲だが、定番「Chai Maxx」「走れ!-ZZ ver.-」に加えて、新アルバム収録曲の「ロードショー」「天国のでたらめ」とこれまでテレビではあまり紹介されたことのない新しめの楽曲を入れることができたのが、良かった。
「ロードショー」は番組全体の中でもここからはじまるぞというOVERTURE的な役割を果たすことになり、ももクロがトップバッターに置かれたことにはこの曲の存在があったのではないか。「天国のでたらめ」は元来がミュージカル「ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?(DYWD?)」の劇中曲であり、物語性もあるためフルで聴かないと本来の魅力が伝わりにくい曲で。今回完全版で見てみて、ブツ切りでは魅力が伝わらないので、地上波でこれがカットされたのは尺の関係で致し方ないかなとも思えた。とはいえ、いつか地上波で披露してほしい*1。
ももクロの武器というのは元来は「全力パフォーマンス」といわれていたものでこれは技術的に分析すると動きにも歌にも徹底的に負荷をかけることで出てくる生の切実さを見せるということ。このあたりのことは以前書いた論考「パフォーマンスとしてのももいろクローバーZ」*2で徹底的に論じたのでそちらを参照してほしい。
とはいえ、RAGAZZE! でのパフォーマンスを見てもらえばはっきりと分かることだが、現在のももクロはそういうものではない。ももクロの楽曲の特徴はBPMあたりの歌詞の量がかなり多いことだが、そういう中でかなり難解に韻を踏んだような歌詞の意味を観客に伝えるためにはっきりと声に出しているというのが分かるだろう。このあたりが他のアイドルグループにはあまり見られないところで、相当量以上の運動量のダンスを踊ったうえでそれをしているのが現在のももクロの特徴だ。
ロードショー[ももいろクローバーZ]
RAGAZZE ももクロ
simokitazawa.hatenablog.com
モーニング娘。'20 拡大版ラガッツェ
今回の番組は10年ぶりの三大アイドル(モーニング娘。、AKB48、ももいろクローバーZ)が勢ぞろいする歌番組というのがうたい文句であった*3ので、見る前からひそかに注目していたのがモーニング娘。’20のパフォーマンスであった。最初に断っておくが、モーニング娘。、そしてハロープロジェクトのグループのパフォーマンスについては初期のモー娘。については世間の人同様にある程度以上の知識はあるが、最近の状況はほとんど知らないといった方がいい。ロック・イン・ジャパン・フェスでどんな感じだろうかとモー娘。のステージを覗きに行ったことはあるけれども、これもどちらかというとももクロファンとして仮想ライバルのお手並み拝見という気分が強かった。
今回パフォーマンスを見て感じたのは音楽に合わせてフォーメショナルに郡舞を踊るというタイプのアイドルパフォーマンスとしてはきわめて洗練されていて、技術的な水準(スキル)も高いなということだ。
ただ、もうひとつ分かったのは同じアイドルによるパフォーマンスといってもこれはももクロのそれとはまるきり方向性の違うもので、この両者を比較してどうこういうのはまったく意味がないということも確信した。
それにしても「現在の姿を見てもらう」という意味ではモーニング娘。にとっても今回の企画は意義があったのではないだろうか。
ハロープロジェクト(ハロプロ)を主体に企画された番組を除けば何曲か歌うチャンスがあったとしても大部分の場合は「恋愛レボリューション」「LOVEマシーン」といった初期のヒット曲であることが多く、現在のようなスタイルに変わった後の新しめな楽曲は披露できたとしても最新曲1曲ということが多く、現在に直接つながるような楽曲を総合的な歌番組でこれだけたっぷりとパフォーマンスできた例は稀なのではないかと思ったからだ。
モーニング娘。の楽曲は基本的にダンス音楽が多く、ダンスも楽曲のリズムに合わせて、細かくステップを踏んで踊るというものだ。ダンスの振り付けは基本的にジャズダンス的だが、ところどころヒップホップ的な味付けが加わるという感じだろうか。そのため、複雑なフォーメーションに見えても基本的にはバレエでいえばコールド・バレエというか、同じような動きで全員がしっかりと一部のすきもなくシンクロしていくというものである。つまり、音はめするタイプの動きなのであり、歌割りについてもセンターポジション的な役割のメンバーの短いけれど印象的なソロはいくつか入るものの、ひとりで歌いこむというようなところはほとんどなく、それゆえ歌い方についてのバリエーションや自由度は低い。とはいえ、生歌でありながら下手にはずれるようなところはないから、安定感は抜群ともいえる。
このため、ネット上ではこういうパフォーマンスをうまいという価値観からももクロのパフォーマンスを音はめからずれているとか、歌も下手だなどと指摘している(モーニング娘。ファンと思われる)人も散見されたが、そもそもももクロはそういうものを最初から目指してないから、それでうまいも下手もないわけだ。ももクロは最近は特に規模の大きなライブについては毎回楽器演奏能力の以上に高い生バンドとセッションで行うことが多いから、自然に歌い方もその場の空気感で毎回異なるという風になっていて、ファンとのコール・アンド・レスポンスも実際のパフォーマンスにおいて大きな要素となっている。それゆえレコードの音源の再現のようなパフォーマンスにはならないのだ。
今回この二つのグループのパフォーマンスを比較して思ったのはモーニング娘。のパフォーマンスはステージ上のパフォーマンスをステージとそれを映しているカメラで完結させようとしているのに対し、ももクロのパフォーマンスが無観客であっても、(仮想の)観客がそこにいるかでもいるようにパフォーマンスを行い、場合によってはテレビカメラ自体ではなく、テレビカメラの向こう側にいる観客に向けた演技をしているということだ。ストイックなまでに自分たちのパフォーマンスの精度を高めていこうというモーニング娘。の態度はプロフェッショナリズムを感じる。それに対して、ももクロのパフォーマンスは観客がいればこそとも思うが、そこには別の意味でのプロ意識があるとも感じた。
【たこ虹】RAGAZZライブ映像
*1:それが「SONGS」ならベストなのだが、プロデューサーがなあ。
*2:simokitazawa.hatenablog.com
*3:実際にはFNS歌謡祭のアイドルコラボなどでの共演はあったので、NHKではということだろう。逆にいえば秋元グループの寡占のせいでモー娘。、ももクロがいかにテレビから冷遇されているかが分かるだろう。
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