くちびるの会「老獣のおたけび」@こまばアゴラ劇場を観劇。岐阜県と思われる地方の実家にいる老父がある日突然象になってしまうという物語。カフカの「変身」を思わせる不条理劇のような筋立てではあるが、おそらく東京に住み劇作家をしている作者自身の境遇を幾分か反映させているんじゃないかを思わせる次男、実家近くに勤務し金融機関に勤める長男などに突如降りかかる災難にも思われる出来事は「象になる」というメタファー(隠喩)とも、不条理ともどちらとも受け取れる内容はやはり、象になった父親が認知症のような症状を引き起こしていくことなどからして、年老いた父親の老後の介護などの問題を反映した物語なんだろうというのが次第に分かってくる。
私自身は実家にいた父母ともにすでに亡くなってしまったが、弟が地元企業に就職し私は仕事の関係で東京、大阪を行ったり来たりして、老父母のことはほとんど弟にまかせきりになってしまっていた時期もあり、自分の身に引き付けて考えると身につまされるところが大いにある。おそらく、このエピソードを介護の物語として、リアルに上演されたら、演劇として見るには厳しくなるだろうと思われ、「象になる」という趣向はそういうものをある程度エンタメ仕立てで見せていくための仕掛けとも思われるが、それでも全編退屈せずに面白く見られるのは老父=象を演じた中村まこと(劇団猫のホテル)の演技によるところが大きいと思う。