【連載4回目】ポストコロナ・現代演劇を巡る新潮流vol.1 HANA’S MELANCHOLY(一川華・大舘実佐子)インタビュー(4)
次世代の演劇作家を取り上げ、紹介する連載「ポストコロナ・現代演劇を巡る新潮流」は作品への評論(劇評)と作家のインタビューの2本立てでスタートした。第1弾としてHANA’S MELANCHOLY(ハナズメランコリー、一川華・大舘実佐子)を取り上げ、第4回となる今回は2人が愛するミュージカルへの思いも聞いてみた。(インタビュアー/文責:中西理)
中西 実は先日インタビューの準備をしている時にYoutubeを確認していたらコロナで演劇活動ができなくなっている時期にミュージカルへの応援メッセージのようなものを制作していることを見つけたのですが、その詞を一川さんが書いていた。
一川 アート・フォー・ザ・フューチャーのやつですね。
中西 2020年ごろのコロナが一番厳しかった頃でミュージカルや演劇の公演が次々と中止になってしまった時期だと思うのですが。
一川 私はもともとミュージカルをやっていたのでけっこうミュージカル界隈に知り合いが多くて、知り合いのミュージカル俳優さんからお声掛けいただいて、その時本当にコロナが流行り初めで全部が中止になった時期でした。そしてその中止になった公演のタイトルを全部入れた曲を作りたいから歌詞を作ってくれないかとオファーを頂いて、書いたものでした。
ミュージカルを中心に活動する俳優とスタッフのグループ / scrap(30)book(Youtube映像)
https://www.youtube.com/watch?v=ZMzQx1mrOOI
中西 注文に応じて書き下ろしたということなんですが、見てみた印象はこの詞を書いた人は本当にミュージカルが好きなんだろうなということでした。
一川 ミュージカルは好きですし、ミュージカルを書いたり、ミュージカルの翻訳とかを学生時代はやっていたので、今もどこかで機会があったらやってみたいと思うことのひとつではあります。
中西 ミュージカルの話が出たので演出家の大舘さんにお聞きしたいのですが、HANA’S MELANCHOLYと並行してミュージカル劇団にも所属して演出をやっているんですよね。
大舘 「東のボルゾイ」というミュージカルの団体もやっていて、そちらも企画と演出をやっています。
中西 それはHANA’S MELANCHOLYと並行してやっているという感じなんですか?
大舘 そうですね。並行してやっています。スケジュールとかも調整しつつ、どちらもできるようにという形で組んでいます。
中西 そちらは完全にミュージカルという感じなんですか?
大舘 そうですね。完全にオリジナルミュージカルなので、(一川以外の)脚本家がいて、作曲家もいて、オリジナルで本も作って曲も作ったものを私が演出するという形でやっています。
中西 日本のミュージカルも最近はけっこう盛んにはなってきていてはいるんですが、私の目から見て本当の意味でオリジナルのミュージカルを作り続け本当に成果を上げ続けている集団は音楽座ぐらいしかないと思っています。もちろん、他にもオリジナルミュージカルはありますよ。あるにはあるのだけれど……。ただ、音楽座も一度は危機的な状況になったし、ミュージカル劇団を続けていくのはそう簡単なことではない。
大舘 そうですね。若手劇団と自分で言うのもなんですが、同年代の若手の劇団でミュージカルをやっている劇団が本当にすくないのです。若手の知り合いでやっているは2組ぐらいしかいなくて、なんでこんなにオリジナルミュージカルを作らないんだろうと思うレベルでいないですね。
中西 それはやはりひとつはお金がかかるということでしょうね。それから一番単純な理由はミュージカルは作曲家と組まないと無理だから。別にミュージカルじゃなくて音楽劇でも優れた作家と優れた音楽家が組まないといいものはできない。だから、演劇の中だけでやっているとなかなかできないとは思います。
大舘 それで言ったらHANA’S MELANCHOLYの話に戻るんですけれど、いつも作曲をやってくれている人がいて、彼(高根流斗)の音楽でずっとやっているというのもHANA’S MELANCHOLの売り物と言えるんじゃないかと思いました。彼の音楽は作品の世界観を構成してくれている一員だなと思っていています。
中西 その音楽家の人はどういう知り合いなのですか?
大舘 もともと一川の知り合いです。
一川 早稲田のセーレンミュージカルプロジェクトというミュージカルサークルに学生時代所属していたので、そのサークルの同期でした。フライハイトプロジェクトの三作目からずっと組んで音楽を提供してもらっています。
中西 ずっと彼のオリジナルの音楽でやっているということでしょうか。
一川 スケジュールの合わない時ははずれた時もありますが、ほとんどが彼と一緒に組んでやっています。
中西 それは非常に重要なことだと思います。演劇もそうだけれどダンスがそうで、海外の有力なコンテンポラリーダンスの振付家はほとんど生演奏であったりオリジナルの音楽でやったりすることが普通なのですが、日本の場合はまだまだ少なくて、ありものの音を使うことも多い。そうすると映像を配信する時に著作権の関係で使えないということも出てくる。
それとずっと組んでいると音楽家の方も演出や作品の意図が分かるようになる。そして、逆に言うと音楽の音楽の影響をたぶん意識していなくても受けているということがありますよね。
大舘 それはあると思います。演出的にも学生時代最後に作った「今夜あなたが眠れるように」もけっこう音楽ありきで見せたなというのがあった。その時もファンタジーとしてのよさがあって、先ほど一川が説明したんですけれどおばあちゃんが亡くなっていくという時間の流れと孫が生まれてくるという時がリンクして、死ぬ瞬間と生まれる瞬間を同時に見せたいというのがあった。その時に曲をセリフに合わせて作ってもらったんです。この時にここでクライマックスを迎えたい。そしてここから静かになっていきたいというようなことを稽古場でも何回も弾いて試してもらったりして、曲を作ってもらった経験があって、それを踏まえて「人魚~」の時もそうでしたし、今回の作品も動画を見て音楽家の方が微調整してくれるとか、それに合わせて役者がセリフをしゃべってみるとかがけっこう多くて、そういうことはけっこう珍しい試みだったのではないかと思っています。
中西 「ジーン」の時は生演奏してましたか?
大舘 「ジーン」の時はいつもの音楽家の人ではなく、私が組んでいるミュージカルの作曲家を連れてきたんですけれど、他の回はほとんど一川がミュージカルサークルで知り合いだった音楽家に頼んでやってもらっているという感じですね。
中西 やはり、そういう人が何人かいて音楽劇とかミュージカルは初めてできるということなんだと思います。私は昔から維新派という劇団が好きだったんですけど、内橋和久という日本を代表するような音楽家がずっと音楽を担当してきていて、維新派の場合はおそらく内橋さんと松本雄吉さんという主宰者の人が出会ったことで初めてああいうスタイルになったので、いわば共同制作者みたいな感じなんです。最近は松本さんが亡くなってしまったので維新派の活動はないわけですが、内橋さんは最近岡田利規さんと組んで能に影響を受けた芝居とかを作っているのだけれど、それは最近見た舞台の中では最良のものといって良いので内橋さんが維新派を終わってどうするかと思っていたのが、いい相手が見つかってよかったなと思っています。
東のボルゾイ新作ミュージカル BAD NIGHT COMEDY『バウワウ』@中目黒キンケロ・シアター
劇団『東のボルゾイ』Info
Website https://www.easternborzois.com/
Twitter https://twitter.com/easternborzois?s=21
Instagram https://instagram.com/easternborzois?igshid=jb5yqlfom2k1