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夜会は森の中で

ニュージーランドの山の上の農場で働いていたころ、夜な夜な、誰かの宿泊小屋で夜会が催された。
これが何とも楽しい夜会で、この農場につい長居してしまうきっかけになったくらいだった。

各々、何かしら食べ物を持ちより、それはパンだったりワインだったり、チーズだったり、と特に高価なものではなく、そこらへんのスーパーで売ってる安いやつを持ち寄り、楽器ができる人は楽器を持ち寄る。

そして小屋の中で、ただ喋るだけ。ほとんどみんなここで知り合った人ばかり。世界中から旅行者が集まる農場で、みんなだいたい、「はじめまして」という、あいさつから会話がはじまる。電気は通っていなかったので、明かりはキャンドルだけ。

ギターを持ってきて弾いている者がいれば、ウクレレを弾くもの、あるいは見たことのない笛を奏でる者。さらには太鼓を叩く者もいた。そしてなぜか、みんな異様に上手い。

ギターが弾くメロディーにウクレレが合わせる。それに笛があわせて、太鼓がリズムを刻む。即興の演奏で、はじめはまとまりがないのが、次第に1つの曲になっていく。すると歌うものが出てくる。歌詞ももちろん即興だった(たいていは鼻唄だったが)。そしてやがて曲が盛り上がりはじめると、踊り出す者が出てくる。

そこまでくると、会話がささやくような声に変わる。話すよりも楽曲の方に、みんなの関心が向かうのだ。踊る人が一人増え、二人増えしていく。そのうちクライマックスになり、曲がフェードアウトしていく。するとまた会話が中心になり、小屋の中はささやきとざわめきに変わり、曲は手探りの、まとまりのないものになっていく。

そのループを何度も何度も繰り返しながら、夜が深くなっていく。楽曲も次第に、しっとりとしたものに変わっていく。

小屋は森の中にあったので、時々バラードの合間に、フクロウの鳴き声が聴こえてくる。これが夜会に幻想的な彩りをそえる。

西洋の社交文化というのは、こんな森の中のヒッピー生活でも健在というわけだったのだが、この愉快な夜会には、その文化に嫉妬さえ覚えたくらいだった。












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