Shimizu Kenji

考えるのが好きなので、いろいろ書きます。本屋をやっていたときのこと。旅のこと。本のこと。日々のこと。

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夜は本屋でバーボンを飲んで

「ワイルドターキーをストレートで」 「タンカレーを氷なしで」 薄くなるのが嫌で、ストレートで酒を飲むお客さんたち。本屋というより、もはや飲み屋。 「今日はオーストラリア人の腕に『がんばる』というタトゥーをいれた。笑いをこらえるのに困ったわ」 タトゥーショップで働く常連客のN君がいつものくだらない話をはじめる。このくだらない話がいつも最高で、飽きない。これは読書では決して味わえない。 「今日は恋人の名前のタトゥーをいれるってお客さんが来て、絶対別れるからやめときって言

    • ガイドブックには書いていなかった

      旅先での楽しい思い出のほとんどは、ガイドブックには書いていないことだった。 それに気付いてからは、旅行に行くときは下調べを一切しなくなった。その方がずっと楽しいことに気付いたからだ。 岡山の牛窓にふらっと日帰りで出かけた時も、下調べは何もしなかった。 ゴールデンウィークだったので、観光客がたくさんいたから、人を避けるように草っぱらや、誰もいない神社や、路地裏をぶらぶらした。 神社の長い階段を下りてきたところで、あるおばあさんから、急に声をかけられた。 「空みてごらん。

      • 病院って変な所でしょう?

        退院しました。というか入院していました。初めて手術というのを体験して、慄きました。といっても急性虫垂炎でたいした病気ではないのですが、人工呼吸器や、麻酔や、お腹の腫瘍を切る等、全て初体験でオペ前は不安の固まりでした。 それもいろいろあって、ほとんど寝ていない状態で丸2日目の夜9時過ぎくらい。 救急車で運ばれて、いくつもの検査をして、どこの病院にいるのかも分からない状態で、オペを勧められて、 「はいやります。」 というより 「ちょっと休ませてー。」 という気分でした。今から1

        • 野生の番茶と女たち

          実家のある兵庫の山奥には、野生化したチャノキが自生している。おそらく日本の田舎にはたくさんのチャノキが自生しているのではなかろうか。おそらくご先祖さんが植え、誰にも顧みられることなく勝手に増え、毎年新芽を出している。 あまり野菜の採れない、山の中ではお茶は貴重なビタミン源だったのかもしれない。 実家で出てくるお茶は、もれなくその野生化したお茶だ。これがなかなか美味しい。水がいいのもあるかもしれない。いや、でも町の水で飲んでも美味しかったから、純粋にお茶がいいのかもしれない

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          哲学>科学>政治

          哲学など学んでも何の役にも立たないと言われる。 科学に比べて有用性に乏しい上に、全てに疑いの目を向けることで、哲学を学ぶ事でかえって自己不安におちいるだけだ、とも言われる。 そう言われると俄然、興味が湧く性分。 社会のあらゆるモノをバカじゃない?という目で見ている、元来あまのじゃくな僕は、そんな何の役にも立ちそうにない哲学に強く惹かれた。 20代のある時期、哲学書ばかり読み漁っていた時期があった。プラトンのロマンチックな熱い弁証法にどハマりし、どこに行くにもプラトン全集を

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          バカにはバカの幸せがある

          ママチャリで滋賀から兵庫の実家まで乗って帰ったことがある。本当は宅配便か何かで送りたかったのだが、ママチャリぐらいなら送り賃で新品が買えてしまうと知って、じゃあ乗って帰るか、となったのだった。 どうしてそう思ったのか、今でも不思議だけど、一日がんばって自転車をこいだら、帰り着くと思っていた。おバカというしかない。隣町に行くんじゃないんだから。 出発の朝くらいは朝早く起きて、早朝に家を立つ、というのが多分セオリーだけど、ちょっと実家まで帰る、というノリだから、しっかり朝寝し

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          ツバメ

          「ツバメひろったんやけど見る?」 少年はそう言うと、家の中に飛んで入り、一羽のツバメを連れてきた。 「こいつ、巣ごと地面に落ちとったんや。」 「もう一羽いたけど、猫にやられた。こいつは助けなって思って。」 少年とは仕事で知り合った、あるお客さんの息子だった。お宅を何度か訪問するうちに、いつしか彼とはいろんな話をするようになった。学校の話。バスケの話。将棋の話、、、。 少年はいつも、いろんなことを教えてくれた。 その日は少年の友人がたまたま遊びに来ていた。2人で代わ

          オヤジはかく語りき

          田舎で建築業を営む、あるオヤジはかく語りき。 「仕事よりも家族中心やったよ。息子が釣りしたいって言ったら、どんなに忙しくても、仕事早めに切り上げたり、無理矢理休みつくって、息子2人連れてよく釣りに行った。はじめは見てるだけやったけど、見てるだけやとつまらんから、自分も釣り竿買って、やってるうちにハマってしもてなぁ。息子が釣りに行きたいって言うたら、いつの間にか、喜んで行こ行こ言うてたわ。とにかく何でもええやつが好きやから、高い竿ようけ買うたでぇー。ほんまに。」 「息子の塾

          オヤジはかく語りき

          日本人と責任(レスポンシビリティー)

          あるカナダ人の女性から、蜂の集めてきた花粉を「体にいいから」と勧められて食べて、アレルギー反応で死にかけたことがある。 その後、苦しんでいる僕に彼女はとてもそっけなかった。 確かに彼女は何も悪くないのだ。もし謝れば自分に責任があることになってしまう。そういう意味では彼女の態度は普通だと思う。けれど何か釈然としない。この時ほど自分が日本人だということを強く意識したことはなかった。 僕が彼女の立場ならすぐに謝っていたように思う。なにしろ何度も強く勧めたのだから。 責任(re

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          若き日の自由

          中学時代の音楽の期末テストに、自由テストというのがあった。音楽ならば、なにをやってもいい、というテストだった。 あれほど創造力をかきたてられたテストは、中学時代には他になかったように思う。自分の好きな曲を楽器で演奏するもよし、歌を唄うもよし。 1年間の音楽の集大成として秀逸なテストだった。そしてそれをクラスメイトみんなで、鑑賞し、笑ったり、感動したりした。 「この木なんの木、気になる木ー。名前も知らない木ですから。名前も知らない木になるでしょうー」 あの有名な日立のCM

          若き日の自由

          山を歩く

          時々、ふと思い立って山へ散歩にでかける。 人の気配のない、風の音か川の音しかしない、山の中をもくもくと歩く。 なるべく人のいない、地元の人しか知らないような林道が好きだ。登山コースなどは他のお客さんがいて、なんだかつまらない。 何か考えるには、歩くにかぎる。机の上で煮詰まった時に、何も考えずに歩くと、ふとアイデアが浮ぶことがある。特にこういう、人の生活音の一切ない空間は、思考がクリアになるように思う。 弱点はさびしいところだ。山はさびしい。 孤独感やさびしさを一番感じ

          その本屋はいつも夏休みだった

          本屋を始めるきっかけになった本屋があった。遊びに行くといつも、小学生くらいの夏休みの頃に戻った様な気分になる本屋だった。 宇吉堂。という名前のその本屋は、当時は岡山県の牛窓にあった。 まるで絵本や童話にでも出てきそうな、海に面した小さな港町。牛窓という、その名前から連想される通りの、そこは時間がゆっくりと流れているような町だった。 車を海沿いの駐車場にとめて、店まで歩く道も、なんとなくノスタルジックで、いつも子供の頃に戻ったような気分になった。 時々通り過ぎる、郵便配達

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          一期一会のドライブ

          ヒッチハイクはタダで乗せてもらおう、という気持ちだけではさびしい。 ヒッチハイクは一期一会のドライブ。 ニュージーランドの田舎町に滞在していた頃、町のスーパーへ買い物に行くのに、よくヒッチハイクを利用していた。ウーバーなんてまだない頃の話。 行きはいろいろだったが、帰りは必然的にスーパーで買い物を終えたドライバーに乗せてもらうことになる。 旧式のカローラに乗った、あるオヤジとドライブした時のことだ。 「今日は魚料理を作るんだよ」 と言ったオヤジと、得意料理の話をきっかけに

          一期一会のドライブ

          旅の醍醐味 サヨナラだけが人生だ

          いま最高だなぁ、と思う瞬間をどれだけたくさん味合うか、が旅の醍醐味だと思っている(これは人生の醍醐味でもあるかも)。 例えば、 地平線がみえる、見知らぬ町の、だだっ広い草原で1人、ヒッチハイクの車を待っている時。 これは最高に自由を感じる瞬間。未来は輝いている、とさえ思える。 知り合って間もない人と、地元のクラブで踊り明かす夜。汗だくになって頭の中が空っぽになると、目の前の人がまるで昔からの親友のように思えてくる瞬間。 言葉も分からない国の地元民と、街灯もない真っ暗闇

          旅の醍醐味 サヨナラだけが人生だ

          夜会は森の中で

          ニュージーランドの山の上の農場で働いていたころ、夜な夜な、誰かの宿泊小屋で夜会が催された。 これが何とも楽しい夜会で、この農場につい長居してしまうきっかけになったくらいだった。 各々、何かしら食べ物を持ちより、それはパンだったりワインだったり、チーズだったり、と特に高価なものではなく、そこらへんのスーパーで売ってる安いやつを持ち寄り、楽器ができる人は楽器を持ち寄る。 そして小屋の中で、ただ喋るだけ。ほとんどみんなここで知り合った人ばかり。世界中から旅行者が集まる農場で、み

          夜会は森の中で

          心も懐も潤す音楽

          旅のお供に楽器を持っていくのが、自分にとって習わしのようなものだった。味気ない1人旅にうるおいをもたらしてくれるだけでなく、懐がうるおうこともあるからだ。 例えばニュージーランドにはウクレレを持っていった。 1日1時間ほど、町で1番賑わっていた通りのスタバの前で演奏して、多いときで50ドルくらいになったのだった。 これは生活費の足しに多いに貢献した。 いや、それだけではない。 1人旅に心が荒んでいた自分を癒してもくれた。落ち込んでいるとき、何も考えずに楽器を演奏している

          心も懐も潤す音楽