小論文・志望理由書で間違えやすい仮名遣い
更新日:2024/11/19
小論文・作文指導者の〆野が普段の添削・採点指導で教えている、文章作成における基本事項を紹介するのが、このシリーズ【文章作成の基本】。
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(〆野の自己紹介はこちらから見られます。)
中高生が小論文や志望理由書を書く上で大きな問題となることは少ないため、トピックとしては地味な扱いになるのですが、本日は現代仮名遣いについてお話しします。教育段階的なお話しで言えば、現代仮名遣いについては専ら小学校の早い段階で習うので、前述の通り、中高生の文章作成において大きな問題になることはまずないです。そのため、お話しすることも少ないです。おそらく大人の方でも仮名遣いで困ったというケースは、ほぼないでしょう。
私の記憶に残る限りでは、過去に一度「少しずつ」を「少しづつ」と書いた答案があり、それを直したくらいでしょうか。それも、「よく見られるケース」ではありません。まあ、強いて言えば、「じ」・「ぢ」と「ず」・「づ」の使い分けで若干迷う場合があるくらいかと。ですから、今回は間違えやすい「じ」・「ぢ」と「ず」・「づ」の使い分けに限定して、お話ししようと思います。
とはいえ、国語の表記問題としては、仮名遣いは過去から現代に通じていろいろな問題が論じられています。ただし上記の理由からここではそうした問題を扱いません。そういう問題に興味がある人は自分で調べてみてくださいね。
では、本題です。
間違えやすい仮名遣い
ややこしい「じ」・「ぢ」と「ず」・「づ」
仮名遣いとして誤りが生じやすいのは、「じ」・「ぢ」と「ず」・「づ」の使い分けにおいてであると言えます。なぜ、誤りが出やすいかというと、ルールに照らし合わせても判断が難しいケースがあるためです。現代仮名遣いとは要は「かな表記におけるルール」なわけですが、そのルールに該当しないことが多くあるためなのです。
「ぢ」と「づ」の使う場合については、内閣告示では以下のように示されています。
ここに「表記慣習による特例」とあるように、これはいわゆる「例外則」であり、それがこれだけあるのですから、「じ」・「ぢ」と「ず」・「づ」の使い分けで混乱するのは無理のないことです。基本則としては、「現代仮名遣い 本文 第1(原則に基づくきまり)」にあるように「(『ぢ』と『づ』は)第2(表記慣習による特例)に示す場合にだけ用いる」つまり、「基本は『じ』と『ず』を用いて、『ぢ』と『づ』は例外的に用いる」ということなのですが、この「例外的に用いるケース」が上に引用した「表記慣習による特例」なのであり、これがこの問題をややこしくしている元凶と言えます。
ちょっとここで話を整理して単純化しましょう。
これに従って、解説します。
解説(基本則・同音の連呼・二語の連合とその例外則)
「基本は『じ』と『ず』を用いる。『ぢ』と『づ』は用いない。」
先ほど例に挙げた「少しずつ」は、少し(副詞)+ずつ(副助詞)であり、「ずつ」という一単語なので基本に従い「ずつ」でOK。「づつ」とはしないわけです。まず、これが基本です。基本は「じ」と「ず」を用います。「ぢ」と「づ」は用いません。
「同音の連呼」
一単語の中で同音が連呼される場合は、「ぢ」と「づ」を使うときもあります。たとえば「ちぢむ(縮む)」は、「ち」が先行しているため、次の「ぢ」は「ち」の濁音化したものであり同音と扱うため、「ぢ」。「ち『じ』む」とはならないよということです。同じように「つづみ(鼓)」、「つづく(続く)」も、先行する音が連呼されていると考え、「づ」を用います。
「二語の連合」(ただし例外が多数あり)
二語が連合して一単語になっている場合は、「ぢ」と「づ」を使うときもあります。たとえば、「はなぢ(鼻血)」は元々「はな(鼻)」と「ち(血)」ですが、鼻から出る血のことを「鼻血」といい、一単語(一つの名詞)として認識しています。この場合は「はなぢ」であり、「はな『じ』」とはしません。同じように「こづつみ(小包)」、「てづくり(手作り)」も、二語が連合しているため、「づ」を用います。
このルールは、「二語に分解することができ、それぞれの元の言葉が何であったか想定される場合に、(元の言葉に「ち」や「つ」が入っているため)「ぢ」と「づ」の使用が可能になる」、と言い換えることもできます。たとえば「てづくり(手作り)」は、「て(手)」と「つくり(作り)」が安易に分解でき、その連合であるとわかるため、元の「つくり」の頭の音が濁音化して(単語と単語が合体するときに後ろの語の語頭が濁音に変わる=連濁)「てづくり(手作り)」となるわけです。
ただし、これには例外が多くあります。いわば「例外則の例外事例(ややこしい!)」が多くあります。『現代語の意識では一般に二語に分解しにくいもの等』の場合です。この場合は「じ」・「ぢ」と「ず」・「づ」、どちらでもよいとなります。これはわかりやすく言えば、「その言葉の語源やルーツをたどれば元々は二語だったけれど、今の現代語の感覚でそれを二語でできていると考える人は少ないような言葉のときは、「じ」・「ぢ」と「ず」・「づ」、どちらでもいいよ(!)、ただし基本は『じ』と『ず』だよ。」ということです。たとえば、「いなずま(稲妻)」は、漢字で書けば「稲(いな)」と「妻(つま)」であるため「いなづま」が正しいとなるところですが、今ではほとんどの人にこの言葉が「二語が連合している一単語」である認識がないと考えられるため「いなずま」でもいいとなります。しかし、この場合は基本則の「基本は『じ』と『ず』を用いる。『ぢ』と『づ』は用いない。」があるので、基本「いなずま」が正しく(実際辞書などでは『いなずま』で項目が作られている)、「いなづま」も「許容できる仮名遣い=間違いとは言えない」という扱いになります。
まとめ ~間違えやすい「『じ』・『ぢ』と『ず』・『づ』」~
ここまで、「『じ』・『ぢ』と『ず』・『づ』の使い分け」についてお話ししましたが、「何か面倒だな」、「うざい」と思ったそこのあなたに、大変な朗報があります!それは……
「出来る限り漢字で表記すれば、こんなややこしい仮名遣い問題は関係ない!」ということです。
考えてみてください。小論文や作文はおろか、日常生活においても「はなぢ」ってひらがなで書く必要はありますか?ないですよね。「鼻血」です。「こづつみ」も「小包」です。常用漢字で書けるところは書いてしまえば、全く無問題(モーマンタイ)。いちいち考えなくていいことです。文章作成において、「あーこれ『せかいじゅう』だったっけ?『せかいぢゅう』だったっけ?」なんて悩むシチュエーションなど、ほとんどありません。普通、「世界中」と漢字で書くわけですから。ここまで長々とお読みいただいて大変申し訳ないのですが、こんな煩わしいことはほとんど考える必要のないことです。
ただ、例に挙げた「少しずつ」の「ずつ」のように漢字表記が一般的でないものもあります。そのときは、「『ずつ』だっけ?『づつ』だっけ?」となりそうですね。でも、そのときは辞書を引くなりネット検索するなりできる(小論文の試験中は無理ですが)わけですから、この内容を全て頭にたたきこむ必要はないと言えます。
……と、こんな感じで、今回は尻つぼみで終わります(笑)。
〈引用資料〉
文化庁HP
〈追記〉2024/09/18
鈴木正人さんからいただいたコメントが、新しい学びを得るきっかけとなりました。「こぢんまり?こじんまり?」問題です。こちらについては国語辞典編集者の神永曉氏の「『こぢんまり』が本則」という記事にくわしいので、こちらの記事をご覧ください。結論から言えば「こぢんまり」が正しいのですが、これには若干の疑義があります。興味のある人は下のリンクから当該記事をご覧ください。
鈴木正人さんありがとうございました!
(漢字や仮名遣いなどの「表記」の問題は、この本で一発解決。一家に一冊、必携の書。)
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