朝日の昇る町

遠い昔のことです。
あるところに朝日の上らない場所がありました。
そこには小さい植物や、小さな虫しか育つことができませんでした。
しかし、虫たちは慎ましやかに、幸せに暮らしていました。
虫も植物も皆一様に青白い光をまとっており、その色でお互いを判別していました。

ある日のことです。
ブーンという大きな音がしました。
皆、「この音はなんだろう。風の音でもないし、いやに大きな音だなあ。」
と口々に話し合っていました。
「いやあ、やけに小さな虫たちだ。」暗がりから声がします。
「何者だ?」虫たちは口々にしゃべりました。

「いや、驚かすつもりはなかったんだ。僕はカブトという。」
虫たちが、声のした方をさわってみると、たしかになにかあるようです。自分の10倍はある。大きな物体でした。

「僕は、青白い光が見えたから、なんだろうと思って飛んできたんだ。しかし、ここはなんて場所だい?真っ暗じゃないか。」

虫たちは、闇の中に住んでいることに慣れていたので、それを何とも思わなかったのです。
「俺たちはずっとここに住んでいる。真っ暗なのは自然なことだ。」
するとカブトは言いました。「なんだって?僕はこんなところに来たのは初めてだ。この土地には太陽が昇らないのかい?」

「太陽ってなんだ。僕には聞いたことがない。」口々に虫たちが喋ると、カブトは本当にびっくりした様子で、「太陽を知らない生き物がいたのか。」
といいました。

小さい虫たちの中に、太陽について興味を持った者が、一匹だけいました。名前をティム
といいます。

「太陽ってなんですか。どんなものなんですか?」
カブトは、「とっても暖かい、優しいものだ。僕は太陽の光を浴びて、こんなに黒くなったんだよ。」

そこで初めて、小さい虫たちが、カブトは黒い大きな虫なのだということを知りました。

「太陽がある国ってのは、どんなところなんですか。」ティムは聞きました。

「太陽がある町は、とてもカラフルな街だ。緑色の葉っぱや、色とりどりの草花、大きな木などがある。」カブトは説明してくれました。

「こんな暗いところより、ずっと楽しいところだよ。ねえ君たち、来ないか。」

虫たちは考えました。「ここよりずっと楽しいところか。暖かくて、色とりどりの植物。」
「食べ物もここよりずっとおいしいと聞いたぞ。」「さて、どうしたものか・・。」

しかし、皆外に出かけていく勇気がありません。
そんな中、ティムだけは違いました。
「僕も太陽を見てみたい。カブトさん、一緒に連れてってくれませんか。」
「そうか、来てくれるか。でも申し訳ない。一緒にはいけないよ。僕の羽に君を載せられないだろう。」
ティムは残念がりました。

残念な思いをしたティムでしたが、どうしても太陽というものを見たくて仕方がありません。
「じゃあ、道順を教えてください。歩いていきます。」
カブトはびっくりしました。
「歩いていくだって!?君には少し遠すぎるんじゃないかなあ。飢え死にしても知らないよ。」
「ここまで来て下がることはできません。教えてください。」
カブトは言いました。
「そんなに言うなら。ここからずーっと東の方へ行くと、湖に出る。そこを反時計周りに周って南の方に向かうと大きな山が見える。そこを越えたあたりに朝日の昇る町はあるよ。」

「ありがとうございます。では、明日向かってみます。」
ティムは意志の強い虫でありました。
次の日、ティムは角砂糖を持って旅に出ました。
カブトは、「もうちょっとここを観光していく。」と言って二人は別れました。



その後の道のりはハードでした。湖につくまでに三日間、池を周るのに一日間かかりました。持って行った角砂糖もとうとう底をつきました。
しかし、大きな山を越えなくてはなりません。
ティムは湖の水を飲み、そこらへんに生えていた野草を食べて、山に臨みました。

大きな岩を何百個超えたころでしょうか。ティムはとうとう山頂につきました。
「やった、ついたぞ!」
夜だったので、何時間か待たなければいけませんでしたが、とうとう日が昇ってきました。
その時の世界の素晴らしかったこと。鳥の鳴き声が聞こえだし、あたりがだんだんと暗闇から青色に染まっていき、とうとうオレンジ色とともに太陽が出てきました。

周りを見ると、緑ばかり。そっと草花に目をやると、蝶々が飛んでいたり、テントウムシが踊ったりしていました。
確かに、皆は生き生きと生活しているように見えました。

それに比べて、自分のみじめなこと。薄汚れた灰色のような体の色をしているティムは、自分が日の当たるところにいるのは場違いに思えました。
「あ~あ、僕もテントウムシさんみたいに鮮やかな赤色があったらなあ。」
ひとしきり日の当たる世界を満喫してから、ティムは自分の故郷に帰ろうとしました。
太陽の上がる時間は過ぎ去ろうとしていました。するとどうでしょう。自分の体がきれいな青白い色に光ってきました。

ティムは思いました。「確かに皆おしゃれに見える。でも暗闇の中では僕が一番輝いているんじゃないだろうか。皆であの青白い光のなかでバーを開き、飲み合ったときは最高だったな。」
「ここの人たちはおしゃれに見えるけれど、僕たちだって全然負けてない。帰ってパーティーを開こう。そして自分たちがこう生まれてきたことに感謝しよう。」

ティムはそう思い、家に帰るのでした。

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