
神様の木
小噺です。
歯医者の帰り。
いつもは車だけど、久しぶりに歩いて家に帰ってみたよ。
子どもの頃に歩いた懐かしい道を通ってみたり。
ボクが子どもの頃に、ボクのお母さんと一緒によくとおった道があったんだ。
近所のお店に行くために通っていたんだけど、今でも印象に残ってる。
あたりはうっそうとした森、空気はひやっと冷たくて。
小さな沼の真ん中に、大きな木が生えているんだ。枝葉を広げた木の根元には、彼岸花が咲き誇り、黒いちょうちょがたくさん飛んでいて……。
本当に、とても神秘的な場所。
木の近くには祠もあったな。
ボクとお母さんは、その木のことを「神様の木」と呼んでいたんだ。
その木のある通りを、久しぶりに通ってみようと思った!
子どもの頃から、ずっと行っていなかったから、どうなっているかなとドキドキワクワクしながら……。
そしたら……。
木が、切株になっていた!
それどころか、周りもまったく森じゃない……。
湿地帯だと思っていたのに、からっからの畑……。
近くに祠はあったけど、全体としては見る影もない光景。
どういうこと。
ボクとお母さんが見ていたものは、幻だったのかな。
それとも、年月が過ぎて、変わり果ててしまったのかな。
この切株にも、まだ神様は住んでいるのかなあ。