オンライン父さんの攪乱(かくらん)
平日の午前中。男は、窓の下を行きかう車の流れを虚ろに見ていた。
アスファルトは濡れて、行きかう車はみずしぶきを上げている。
外は雨が降っているのだ、先日まで外に出るだけで体力を奪っていく残暑の日差しは、今日は影を潜めている。
頭がぼーっとしている、少し浮遊感も感じる。
このまま体が浮き上がり飛んでいきそうな、おぼろげな幻覚も感じる。
胸ポケットから(カンロ健康のど飴)を取り出すと、一つ口に含んだ。
包み紙は小さく折りたたんで、再び胸ポケットに戻す。
一つ、大きなため息をついた。
体は疲れている、いや疲れているはずなんだが、
いつになく十分すぎる睡眠を取った肉体が、それを許してはくれなかった。
「エナマエ様・・・・」遠くの方で、女の子の声が聞こえる。
昨夜から38度近い発熱があり、会社を休んでいるのであった。
うつろ目で窓の外を眺めながら、男はつぶやく。
「眠れん・・・」
昨夜、体調の変化を感じ、市販の感冒薬とちょっと値の張る滋養強壮ドリンクを飲んで、早い時間に布団に入ったのではあるが。
毎日の習慣はおそろしい、いつも通り6:00に目が覚めてしまう。
人間、歳を取ると長く寝ていられなくなるというが、その通りである。
「ヤバイ、寝すぎた・・・眠れない」
再び声が聞こえてきた。
「エナマエ様、そんなところで格好つけてないで、布団に戻ってください。風邪ひどくなっちゃいますよ~。」
呼ばれる声に、足元を見ると腰から下の生き物?が懸命に話しかけてきた。
「わっ、ニーナ!びっくりした。」
「びっくりしたじゃありませんよ、まだ熱があるんですからちゃんと布団に戻ってください。ニーナが献身的に看病しますって言ってるじゃないですか。」
「それが怖いんじゃ、って言っておろうが。」
「ニーナは看護のエキスパートですよ、安心して安らかに寝てください。」
「安らかには、何か意味が違うよね。」
「細かい事はいいから、素直に寝てください。奥さんに言いつけますよ!」
男は仕方なく、布団へ戻ることにした。
「はいはい、分かりましたよ。じゃあさ寝付くまで膝枕してもらっていいかな?」
「はぁ?何言ってるんですか、そんな事したら風邪がうつっちゃうじゃないですか。」
「はぁ?風邪がうつる?」
ニーナは自慢げに主張をしている、男は怪訝な表情で腰から下の生き物を見つめる。
「な、なんです?そんなに見つめられると照れるじゃないですか・・・。」
「ニーナさん、下半身しかないのにどうやって風邪がうつるの?しかもニーナさん人間じゃないよね。」
ニーナも負けてはいない。
「えーっ!人間じゃないと風邪ひいちゃいけないんですか?今時は犬でも猫でも風邪をひくって、インターネットに書いてありましたよ。
私くらいデリケートでかわいくって、優秀で精密な機械なら風邪をひくかもしれないじゃないですか!」
「いやいや、かわいいから風邪をひくなんて
、そういう問題ではない。論点変わってきてますから。」
「エナマエ様。ニーナがかわいいって認めた!」
男は赤くなって思わず顔をそらした・・・。
「だから、そういう話じゃなくって!」
男は、興奮気味に立ちあがたものだから立ち眩みを覚えた。
その場にしゃがみこんでしまった。
「ほら、ほら無理をしないでお布団に入って下さい。
かわいい、かわいいニーナさんが看病してあげますから。」
ニーナに促されブツブツ言いながらも、素直に従った。
男は這って布団に潜り込む。
元々、熱があった為か、案外すぐに寝付いてしまった。
霞みゆく記憶の中に、夢を見た・・・
懐かしい天井が見える、幼いころ暮らしていた、実家の居間に横になっている、天井の木目が人の顔に見えてなかなか寝付けなかったあの日。
母の膝に頭をあずけ優しい歌声に包まれながら眠りについた幼い日の記憶。
夕暮れの縁側から聞こえる蝉の声・・・、豆腐屋さんのラッパの音。
夕食の支度をする、包丁や鍋の音も聞こえてきた。
自然と涙がこぼれてきて、耳元を伝う。
何を煮付けているのか、鍋のふたがカタカタと鳴っている。
そんな中微かに漂う『ピザ』の香り・・・
・・・ピザ?
おもむろに布団から起き上がると、枕元にはニーナが座っていた。
「あっ、起きた。」
ニーナが声を掛けてくれた、ニーナの膝は汗をかいた頭を支えてくれていたのか、じんわりと湿っていた。
「お腹すいたでしょう。宅配ピザ注文しといたよ。」
「なぜピザ?」
「インターネットでデリバリーを探していたら、近所のピザ屋が閉店セールやっていて、全品半額でさ。カードで決済できるし、持ってきてくれるし。全品半額だよ!やっぱり、お得がいちばんだよね。
今回は店長さんが自ら持ってきてくれて、バイトが無断欠勤が多くってって愚痴ってた。大変だよねピザ屋さんも・・・。大河作家になってやるーなんて言いながらやめてったバイトも居たって、大笑いしてたよ。」
「イヤ、でもさ・・・」
「あれ?エナマエ様ピザ好きだよね。この前もピザのCM見ながら、たまには食べたいなー。なんて言ってたよね。風邪ひいた時は普段食べない特別なものを食べさせてもらえるって言ってたよね。嬉しい?CM見るたび『たまには食べたいなーっ』て言ってたよね」
「いや、それは・・・」
「あっ、店長さんがもう閉店するからって、タバスコを特別サービスって
いっぱい付けてくれたよ。熱ある時は体の芯から汗かいた方が良いって
インターネットに書いてあったよ。ねっ、ニーナちゃん優しい?すっごく気が利くでしょう。敬ってくださいね。」
「ごめん。寝かせて・・・」
またしても落ちが・・・
あれ?ニーナって栄養管理できる、健康管理膝枕だよね?
頭がうんでしまっているww
ダラダラ、ダラダラ取り留めなく、ごめんなさい。
最後までお読みいただきましてありがとうございました。
このお話は、音声SNS clubhouse にて数多く読まれ続けております、
真実の愛のカタチ『膝枕』の世界観を取り入れさせていただいた、いわばオマージュ小説です。
2021年5月31日からClubhouseで朗読リレー(#膝枕リレー)が続いている短編小説「膝枕」(通称「正調膝枕」)の派生作品となっております。
二次創作noteまとめは短編小説「膝枕」と派生作品を、朗読リレーの経緯、膝番号、Hizapedia(膝語辞典)などの舞台裏noteまとめは「膝枕リレー」楽屋をどうぞ。二次創作noteまとめは短編小説「膝枕」と派生作品を、朗読リレーの経緯、膝番号、Hizapedia(膝語辞典)などの舞台裏noteまとめは「膝枕リレー」楽屋をどうぞ。
そのほか、いろいろなお話しに影響を受けたのは言うまでもありません。
あわせてお読みいただきますと、より一層お楽しみいただけると思います。
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