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オンライン父さんの休日 3日目

男は黒くうごめく無数の物に取り囲まれていた、
いきなりではあるが、ピンチである。

さかのぼる事、約2時間前。渡された携帯端末のアラームが鳴った。
出発の時間である、部屋の隅のロッカーの中に用意されたつなぎに着替えて部屋を出る、ニーナの案内に従い地下の駐車場に出ると、白のワンボックスカーがエンジンを掛けて止まっていた。

トヨタハイエース 1989年型3.0 スーパーカスタムG トリプルムーンルーフ ディーゼルターボ
丸みを帯びた車体側面には大きく HCS の文字 
車内にはすでに、同じつなぎに身を包んだ3人が乗って待っていた。

「何なんですか?この格好は?」
135「今夜は清掃業者として潜入するのよ。」
133「HCS ヒッザクリーンサービス!忘れないでね、今夜のあなたは清掃員です。」
「はぁ、はい」
運転席にはヒサヨが座っており、得意げな顔でハンドルを握っている。
男はヒサコとニーナと共に後部座席に乗り込んだ。

ハイエースはホイルスピンをしながら地下駐車場を飛び出した、跳ねる車内で体を支えるのがやっとで、どこをどう走ったのか皆目見当がつかない。
足元に転がっていたブリキのバケツを、抱きしめ顔をうずめる決心をしたところで現地についた。

内部の協力者のおかげで、建物内にはうまく侵入できたもの、待機場所に向かうべく、館内柱に掲示してあった案内板を見ているあいだに、他のメンバーとはぐれてしまったのである。

薄暗く長い廊下を非常灯の電気だけが、彼の行く先を照らしてくれる。
「ひさこさん、ニーナどこ行っちゃったの?」
彼の言葉は、長い廊下に虚しく吸い込まれた。

その時、暗い廊下の奥から、何かが近づいてくるのである。かすかなモーターのハム音にブラシか何かで床を擦るようなかすかな音、昼間ならほぼ気にならない音であるが、夜の人気のない館内ではひどく響いて聞こえた。
「あれ?ニーナさん…?迎えに来てくれたのかな?僕はここですよ~」
男は、ささやくように問いかけるが、返答がない。

その間にも、モーター音は近づいてくる。男は柱の陰に身を隠した。
ニーナの足音ではない、男に知らない何かは確実に男に近づいて来る。
柱の陰からそっと顔を覗かせる、
非常灯の明かりでかすかに見えるその姿に、お男は恐怖を憶える。

下半身が、腰から下の下半身が、廊下を滑りながら近づいて来る、その下半身は、アグラを組んでいた。
浅黒いその太ももには無数の毛のようなものが生えており、壁にぶつかりながらも確実に近づいて来るのである。

「なんなのあれは、ヤバイよ、ヤバイよ」

男は思わず駆け出した、カドをいくつ曲がったか覚えていない、何度も転びそうになりながらも男は走る。背中からは、冷たい嫌な汗が吹き出す。

しかし、その逃亡劇は長くは続かなかった。
男はあっさりと廊下の隅に追い詰められたのである。
その間にも、追走者の膝3体に増えていた。
ジリジリと廊下の隅に追い詰められた男の全身から大量の汗が吹き出す。

「助けてください、御免なさい。成仏してください。助けてニーナさん、ヒサコさん、ヒサミさん、ヒサヨさん」

その時、男の頭の中に声が響いてきた。
134「ハイハ〜イ、遅くなってゴメンねエナっち。ヒサヨちゃんだよ。
でもひどいな~、僕の名前は最後なの?」
「え?何処、何処?」
ヒサヨの声は、事前に渡され耳にかけていた骨伝導イヤホンから聞こえて来るのであった。

134「エナっち安心して、彼らは仲間だよIZMYー300型自動清掃機能付膝枕。通称しげるちゃん、今回の案内役です、仲良くしてね。」
「エ〜、聞いてないよ~」
134「行きの車でちゃんと説明したよね、寝てたな!」
「そんな事は無いよ、起きてたよ。当たり前じゃん」
133「うっそだー!寝てたよね。目の前で見てたよ。バケツ抱えて目を閉じてブルブル震えてたじゃん。」
「それはね、運転があまりに荒いので、怖くって震えてたんです。寝てたんじゃありません。」
135「まぁ、そんな事はどうでも良いから、計画通りに動いてね。」
「計画って?」

135「え~っ。行きの車で説明したよね!」
「だから、運転が怖くってうまく聞けてないんです。」
134「は~い、カウントダウンはじめま~す。
           10・9・8・7・6・5・・・」

「だから、ちょっと待ってって!」
134「ゼロ‼」ドカーン!

先ほどまで静かだった、廊下にけたたましい警報とサイレンが響き渡った。
ニーナ「エナマエ様こっち、こっち!」
「ニーナさん、寂しかった~!」
ニーナ「エナマエ様はぐれないで下さいね。加速します。」
「わかった。加速装置!」右の奥歯がきらりと光った。
ニーナ「エナマエ様そんな機能ありませんよね!」
「細かい事は良いから、ここから逃げるぞ」井上和彦にできて俺にできないはずはない。
ニーナ「何を言ってるんですか、訳が分かりません。」
「自分ひとりだけ、常識人のふりをするのはやめろ!」
その時、同じ速度で駆け抜けていく黒い影に気が付いた。側面を見ると①の文字が刻まれている。

133「出た!しげるちゃんシリーズ1号機!通称 松崎!!」
「泉谷しげるじゃないの?」
133「1号機は松崎しげる 2号機が泉谷しげる 3号機は城嶋しげる!
3体合わせてブラックしげる3連星です!」
「もっと意味が解らない」
   そう言う設定なんです、仕方がありません。
ニーナ「ところで、今日は何をしに来たんでしたっけ?」
「そこ?」
135「今日は、膝枕大学附属図書館に幽閉された薫ちゃんを助けに来たんですよ。」
134「みんな~、薫ちゃんを確保したよ!」
いつの間に?

レッド・ホット・チリ・ペッパーちゃんが協力してくれて早々に救出しました。
「じゃあ、俺たちは?」
133「事態の収拾に努めて、速やかに起きてください。」
「起きる?」
ニーナ「そうですよ、とっとと起きてください。皆さん行っちゃいますよ。」
「ちょっと待って、これってもしかして・・・夢落ち?」
135「当たり前じゃないですか、常識で考えてください。」
134「ここまで無茶苦茶やって、どうやって終わらせる気だったんですか?」
「どうやってって・・・。」
じゃ、ジャンピング土下座とか・・・

135「どうぞ、お願い致します。ジャンピング土下座で納めてくださいね。」
「そんな殺生な・・・。」

ちゃんちゃん。


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