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オンライン父さんの副業

「う~ん・・・・、う~ん・・・・・」
男は、ノートパソコンのモニターを見つめながら唸っていた。
「う~~~~ん」
「エナマエ様?便秘ですか?素直に下剤を飲んだ方が良いですよ。」
座布団型非接触充電スタンドの上から、TVのリモコンを膝で器用に操作しながら、ワイドショーを見ている膝枕が声を掛けてきた。

膝枕とは、正座した女性の腰から下を模した、”自称”愛玩健康器具である。
AI機能搭載で日常会話ができて、健康状態のモニタリング機能、ナビ機能、占い機能など搭載するモデルも存在する。

「バカ言え、そんなんじゃないわい。俺はもっと高尚なことで悩んどるんじゃ!」
「何が高尚なことですか?さっきからラジコン自動車のホームページを見てるだけじゃないですか。」
膝枕も興味なさげに返してくる、だんだんと誰かに似てくる。
「ラジコン自動車って言うな、京商ミニッツレーサー 20周年アニバーサリーモデルなんだぞ。今しか買えないんだぞ。」
どうやら男はラジコン自動車が買いたいのだが、お金の工面ができないらしい、嫁にバレずに購入する為の手段を悩んでいたのであった。

「だから、ラジコンカーが欲しいんですよね?(小声で)しめた・・・」
「そうだよ悪いか?」
「素直に、奥さんに買ってくれって言えば良いじゃないですか?」
「バカ野郎、そんな事言えるわけが無かろうが。
それがなぜ必要なのか、それを買うことによってどれだけメリットがあるのか、プレゼンして合格しないと買ってもらえないんだよ、昔っから。
3000円以上の買い物は、相談しないと買えないんだよ。」
「どんだけ管理されてるんですかwww」

ワイドショーは通販番組に変わっていた、テレビの中では妙な”なまり”のある男が異様に高いテンションで、ルンバ等の家電製品の紹介をしていた。

「じゃあ、バイトすればいいじゃないですか?ニーナが紹介しますよ。」
「こんなおっさんが、簡単にバイトできるわけが無かろうが・・・。
・・・紹介??」
「そう、バイト紹介しますよ。しかも日払い。」
「日払い・・・?なんでそんなのできるの?」
「膝枕通信で数日前にアルバイト情報が流れてました、夜間の受付業務らしいんですが、まだ空いているか確認してみましょうか?」
「いや、ちょっと待って・・・膝枕のバイトなんて怪しい以外何物でもないが・・・背に腹は何とやら・・・。」
「どうしますか?埋まっちゃいますよ。」
「じゃあ、やってやるよ」
「あれ?そんな態度で良いんですか?バイト流れちゃいますよ~」
「はいはい、ニーナさんお願いします。」
「ハイは、一回ですよね~」
男は、悪態をつきながらも膝枕の前で、三つ指をついて待った。

ほどなくして、膝が震えた。
「大丈夫だそうですよ、今度の土曜日に二人で来てくださいって。」
「二人って?誰と?」
「私とですよ、紹介者ですから。」
「ニーナさんと一緒・・・不安しかない。」
しかし、容赦なく時は流れてバイト当日。

「エナマエ様、エナマエ様・・・バイト遅れますよ起きてください。」
ニーナに布団の上から声を掛けられ、窒息寸前でバイトの朝を迎えた。
「もっと優しい起こし方は出んのかい?」
「エナマエ様がすぐに起きないからいけないんです。」
ブツブツ文句を言いながらも、顔を洗って歯を磨き、シェーバーで髭をあたりながら、ロールパンとインスタントコーヒで朝食を済ませ、服を着替える。
GパンにTシャツ、その上に長袖のシャツを羽織るだけのラフなスタイル。
「本当にラフな服装で良いんだろうな?」
「そう言ってましたよ。それに、私服ってそれしか持ってませんよね?」
「・・・確かに」

大方の準備も整い男の方に向き直ると、一言。
「さあ、行きましょうか?お姫様抱っこして下さい。」
「そうだったね、はいはい・・・って。
そんな事出来るか!!」
思わず乗せられそうになってしまった。
押し入れから、外出用のキャスターのついた大きめの旅行カバンを取り出し、ニーナに向かって指さした。
「エナマエ様のケチ!」

きれいなバスタオルを敷いて、大きめの旅行カバンにニーナを押し込めると、徒歩で駅まで向かった。
駅からは、無料シャトルバスが出ているとの事。
今回は、特に何事も無く無料シャトルバスに乗ることができた、詳細は聞いていなかったが、バスはやはり郊外のショッピングモールに滑り込んでゆく。
バスを降りるとそこには、以前に会ったことのある、”135”の名札を付けた女性が待っていた。
「いらっしゃい、エナマエ様お待ちしておりました。今回はお手伝いしていただけるそうで、よろしくお願いします。」
「えーっと確か、ヒサコさんでしたよね?今日は、よろしくお願いします。」
「はい、店長のヒミコです。覚えていて頂いて光栄です。」
「あれ?ヒミコさんでしたっけ?失礼しました。」
「いえいえ、なぜかこの業界は、ヒサコって名前の方が多くって・・・差別化の為、ヒミコでお願いします。ほほほほほ」
口に手を添えて、のけ反るように笑った、大きな胸に押され、胸元のボタンが、今にも弾けるのでは無いかと、いらぬ期待でヒミコを見つめる。
「こんなキャラだったっけ?」

自称ヒミコの後に付いてお店の裏へ入っていく。
「早速、お仕事の内容ですが、膝枕新作発表会がこの土日で開催されます。
エナマエ様はその受付と接客をやっていただきます。」
「受付ですか・・・」
「はい受付です、関係者の皆さんは、ご優待はがきをお持ちになりますので、ニーナさんと一緒に受付で名簿のチェックをお願いします。開場時間は夜中になりますので、時間までは商品の基礎知識と特徴を覚えてもらいます。
判らないことがありましたら、ニーナさんに聞いてください。会場内はサーバーへダイレクトにアクセスできますので、最新の商品カタログがニーナさんを介して確認できます。」
「そうなの?ニーナさん大丈夫?」
「はい。任せてください、サーバーにつなげれば無敵です。」
「いや、いや、その自信が逆に怖い・・・」

一通り仕事の内容を説明すると、ヒミコは事務所の奥より燕尾服を持ってきた。
「サイズは問題ないと思いますので、こちらに着替えてもらってよろしいでしょうか?」
「なぜサイズをご存じで?」
「ニーナさんに事前に確認しておきました。あれ?ニーナさん聞いていませんか?エナマエ様指名でお仕事の依頼をしておりましたので、ご了承いただけたのかと?」
「指名依頼?ニーナさん・・・言ってないよね?聞いた覚えがないな・・・俺は!」
「ははは、あれ?言ってませんでしたっけ?」
最近は、とぼける事を覚えたらしい。

まだ、時間に余裕があるとの事で店内の商品やカタログに目を通す。
「結構、しゃべる膝枕が増えたんだねぇ。ほーっ、オプションでおしゃべりユニットを搭載できるんだぁ~、進化してるね。」
「エナマエ様、新しい子が欲しくなりました?
だめですよ、ニーナが一番かわいいんですからね。浮気しないでくださいね」
「誰がするか、そんな余裕は無い。」
「あれ?経済的に余裕があればするんですね?うわき」
「そもそも、お前と結婚した訳では無いので浮気にはならん。それに俺が今更、モテル訳が無かろうが!」
「こんな親父。確かに・・・うん、うん。」
「いやいや、素直に受け取らないで、少しぐらい否定してくれても・・・」
「あの・・・」
店頭でニーナと男が討論している背後から、か細い声が掛けられた。
「ちょっと待って、今取り込み中!」
「あの・・・お店の方でしょうか?」
男は声のする方へ向き直ると、そこには中世の舞踏会で着るようなドレスをまとい、頭には宝石をあしらったティアラをつけた美少女が立っていた。

あまりの場違いな格好に男の表情が固まる。
「はい?」
唖然とした表情で振り返った男に、ニーナが小声で注意をする。
「エナマエ様、お仕事ですよ。今日はお店の人です。スマイル、スマイル」
「そうだった、今日はお店の人だった。失礼いたしました、何かお入り用でございますか?」
急にスマイルを意識して、半分引きつったような顔で振り返ったものだから、美少女は少しおびえている。
「あの・・・、いえ、何でもありません。」
すかさず、移動ユニットに乗ったニーナが前に出る。
「大変失礼しました。大丈夫ですよ噛みつきませんから。」
移動ユニットで男の足を踏みつけながら、優しく語りかける。

美少女は壁際にしゃがみこんで、壁に向かってブツブツと、呪文のように何かをつぶやいている。
「ごめんなさい、ごめんなさい・・・私が悪うございました・・・食べないでください。本当は私も来たくなかったんです・・・だって、シュプールが行きましょう。って言うから仕方なく・・・、本当はお城から出たくなかったのに・・・。」
その時、背後から声が掛かった。
「ヒサコ姫こんな所にいたんですか、探しましたよ、一人で歩き回らないでください。」
今度は、長いサラサラの銀髪に菫色の瞳。
背の高い痩身に丈の長いローブを身に着けている、びっくりするほど美しい男が立っていた。
小脇には、スカートをはいてはいるが、少し筋肉質な男性タイプと思われる膝枕を抱えていた。

青年は、胸元から”ご優待はがき”を取り出して見せてくれた。
どうやら、本日の招待客らしい。
開場まで時間があるので、待合室へと案内をする。

「こんばんは、もう始まっちゃいました?」
次に声を掛けられたのは、おんぶ紐のようなもので男性型の膝枕を背負った、明るい女性であった。おんぶ紐で余計に胸の大きさが強調されている。思わず、目が奪われる迫力。
「大丈夫ですよ、まだ開場時間前です。待合室でお待ちください。」
「よかったねマメちゃん。間に合ったね。」
”ご優待はがき”を見せて頂くと、この方もヒサコと言うらしかった。
控室へと案内をした。

その後も、非常にテンションの高い男性や。
頬に膝枕をくっつけたままの男性。
少しくたびれた着物を着て、釣竿を抱え大事そうに膝枕を抱えた、初老のカップル。
受付の名簿にぴっちりと角の整った名前を書く、いかにもマメな性格のお客様。
疲れ果てた風貌でアロハシャツを着た、中年サラリーマンなど、それぞれ色んな膝枕を連れてやってくる。

開場の時間も迫ってきたころ、受付テーブルの下の方から声が聞こえてきた。
「あのー、団体なんですがいいですか?」
声はするけど姿は見えない。
不思議に思ってテーブルの下の方を覗いてみると、赤い三角の帽子をかぶった小さなおじさんたちが7人、並んで待っていた。
「はい、失礼しました。”ご優待はがき”はお持ちでしょうか?」
男が声を掛けると、小さいおじさんの一人が帽子の中から”ご優待はがき”を取り出して見せてくれた。移動ユニットに乗ったニーナが、お客様を案内する。

再び、団体様である。
着物を羽織って、背中に薪や芝を背負い、本を読みながら近づいてくる集団があった。
先頭の男が片言の日本語で声を掛けてきた。
「エクスキューズミー、ここは膝枕パーティールームで間違は無いかな?」
「パーティールーム?はい、多分あってますね」
「センキュー、ありがとう、グラシアス」
そう言って”ご優待はがき”を見せると、薪を背負った集団は会場の中に消えていった。何が起きたのか、半分理解できない状況で後姿を見送る。

「およそ30メートル先、会場です。有料道路を使用しますか?」
「いやいやナビ子ちゃん、30メートル先の目的地に行くのに、高速にのる人いないよね?」
「ナビ子高速道路が好きです。」
「ほら、もう始まってるよ、時間に余裕を見て出発したのに、寄り道ばっかりさせるから、遅れちゃったでしょう。」
ひときわにぎやかな男と膝枕のカップルが近づいて来た。
何となく親近感を覚えるやり取りを横目に、会場の中へと消えていく。

「ヤバイ、やっぱり普通じゃない。こんなバイト受けなきゃよかった。」
頭を抱えて、会場の方を心配そうに見ていると、後ろから声を掛けられた。
「ごめんワニ、少し遅れてしまったワニ。まだ終わってないワニか?」
「ワニ?」
振り返るとそこには、段ボール箱を抱えた口の長い緑のお客様が二本足で立っていた。

「こ、今度はワニ?来るんじゃなかった。」
長い夜は、まだ始まったばかりである・・・。

おしまい。


最後までお読みいただきましてありがとうございました。
このお話は、音声SNS clubhouse にて数多く読まれ続けております、
真実の愛のカタチ『膝枕』の世界観を取り入れさせていただいた、いわばオマージュ小説です。

2021年5月31日からClubhouseで朗読リレー(#膝枕リレー)が続いている短編小説「膝枕」(通称「正調膝枕」)の派生作品となっております。

二次創作noteまとめは短編小説「膝枕」と派生作品を、朗読リレーの経緯膝番号Hizapedia(膝語辞典)などの舞台裏noteまとめは「膝枕リレー」楽屋をどうぞ。二次創作noteまとめは短編小説「膝枕」と派生作品を、朗読リレーの経緯膝番号Hizapedia(膝語辞典)などの舞台裏noteまとめは「膝枕リレー」楽屋をどうぞ。

今回のお話の作成にあたりまして、
かわいいねこさんの「転生したら膝枕だった件」,
今井雅子さんの「膝枕ナビ子シリーズ」
今井雅子さんの「禁じられた金次郎」
サトウ純子さんの「占い師が見た膝枕シリーズ」
猫野サラさんの「姫枕」
そのほか、いろいろなお話しに影響を受けたのは言うまでもありません。
あわせてお読みいただきますと、より一層お楽しみいただけると思います。

ヤバイ、やばい
文字数が多いわりに内容がない。
もっといろんなキャラを出したかったのに、

あまり長いお話は向いていないようです。
2000文字くらいがいいのかな?

続編は・・・
収集付かない予感がするのでこの辺で、おしまい。

ニーナがあまり活躍できませんでした、ごめんなさい。













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