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日本人なのに

高校生の頃、大学のオープンキャンパスに行った。
そこで、私日本人なのに、と思うことが起きた。
家族とは今でも笑い話として話すことがあるので、ここに記します。

ここで情報として少し自己紹介を。
生まれは日本、親は日本人。幼少期5年をアメリカで過ごして、日本語と英語を話します。

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その日、私は父と2人で電車を乗り継いで、目的の大学に着いた。校内を歩いている途中、理由は忘れたが、父と別行動をすることになった。

1人になってから、それは起こった。


大学のスタッフの方に質問したくて、近くにいた男性に声をかけた。

「あの、すみません」
「はい」
「ここある書類って、自由に取っても、いいんですか?」

そこには、数種類の学校案内の書類が、長机に丁寧にきっちり並べてあった。手元には最初の入り口で貰った書類があったが、机の上にあるものとは表紙が違った。

「あ、ご自由にどうぞ!」
「ありがとうございます」
「英語表記のものもあるので、こちらもどうぞ」

ん?

…いま英語って言った?私が英語話すって、なんで分かるんだろう。何か日本語で変なこと言ったかな。とりあえず、渡されたものを受け取る。

「この書類の英語版が見当たらないので、ちょっと探してきますね」

笑顔でそう言い残し、部屋を出て探しにいってしまった。しばらくして、数種類の書類を手に小走りで戻ってきた。

「こちら、この書類の英語版です」
「あ、わざわざありがとうございます」

いつの間にか、私の手元には大量の書類が。

「日本語、お上手ですね!」

ん?

「あ、ありがとうございます」

とりあえずお礼を言い、ここで気付く。
私、日本人だと思われてない。自分のここまでの発言を一瞬にして振り返って、原因に気付く。

あ、発音だ。

やってしまった。最初の、すみません、からちょっとアクセントの位置が変だった。緊張からのミスだった。その後にした質問では、緊張で言葉が詰まり、考えながら話したから、途中変な間が空いていた。

当時、私が通っていた高校は帰国子女の生徒も多く、日常的に日本語と英語が飛び交っていた。私は日常会話は全く問題なかったが、他人に対して敬語を意識して丁寧に話すのが苦手だった。アクセントやイントネーションが変になってしまう。

「高校生ですか?」

最初より、ゆっくりとした口調で聞かれた。日本語を第二言語として話す学生に対しての、もっとも丁寧な言い方だ。優しい。

「あ、はい、高校生です」

カタコトで返してしまった。普通に言ったつもりでも、なんとなくカタコトだった。優しさにつられて、やってしまった…。

もう戻れない。日本人で日本語話せます、とはもう言えない。あ、会話が続きそう。留学生ですか?とか聞かれる前に言おう。

「小さい頃アメリカに住んでいて、今は日本の高校に通っています」
カタコトにならないように言ったが、少しカタコト風になってしまった。
「そうなんですね!入試の情報は、この書類のここ、見てみてください」
わざわざ書類を開いて、指で指しながら教えてくれた。
「ありがとうございます」
「何か質問があれば、聞いてくださいね」
「はい、ありがとうございます」

最後まで聞きやすいようにゆっくりと発音してくれた。良い人だ。本当に良い人だ。日本語と英語、両方の書類を持って私は部屋を出た。

誤解に気付いた時にすぐ言うべきだったのか、これは嘘をついたというのか、騙したことになるのか、私はなぜあんな発音を…。考えても無駄なことを考えながら廊下を歩き、父と決めた集合場所に向った。

父と再会した。持っている書類の多さに驚かれた。そりゃそうだ。机にあった全ての書類、日本語と英語の2冊ずつあるのだから。


ちなみに、帰り道、父に経緯を話したらすごく笑っていた。家では母も大笑い。
「優しい方ねー、きっとカナの日本語が相当カタコトだったのね」
うん、きっと相当カタコトだった。

以上、「日本人なのに」日本で日本人に対してカタコトの日本語を話した、でした。
あの優しいスタッフさん、元気かな……。


読んでいただきありがとうございました!
みなさん良い日をお過ごしください。

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