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黒曜覚醒


※こちらの記事は、MMORPG「ファイナルファンタジーXIV」にて筆者の操作するプレイヤーキャラクター『Sophia Crystear』のゲーム本編開始に至るまでの前日譚を綴ったものとなっております。



――それは普段から見慣れた日常である、昼下がりの一幕。
いつまでも続くと思われた平穏の最中、彼女の運命はその日劇的に巡り始めたのだ

午後の習い事を控え、屋敷の庭先で姉とアフタヌーンティーを楽しんでいたSophia。
先日迎えた13歳の誕生日を経て、敬愛する母親のような立派な淑女にならねば…と日々のレッスンにも熱意が増す一方である

とはいえ憩いのひと時。お気に入りの紅茶を傾け、穏やかな日差しに気持ちは緩み 同じ席につく姉とその傍らの侍女との歓談を楽しんでいた…

しかし、異変は不意に訪れる。

突如として庭先のモーグリ族を模した庭木の傍らが歪み そのまま捻れて破裂するような不可解な現象が起きる
それに息をつく間もなく、蝙蝠のごとき翼に細長い手足と尾を持ち 巨大な1つ目をぎらつかせる異形――
幼き日に母親から伝え聞いていた、いずこから現れると言われる異質な存在……妖異。それが姿を現したのであった。

ソレは周囲を観察するように視線を走らせ、やがて驚きで身動きを止めていたこちらを発見するや 威嚇のような雄叫びを上げる。
そしてその瞳孔が収縮した次の瞬間、
眩い光線が迸った――

のも束の間。いち早く危機を察していた侍女が咄嗟にテーブルを横倒しにし、さらに自らに抱き寄せることで2人を護ろうとしていたのである。
その光景に驚きながらもパニックにはならず、それでいて未知の恐怖には抗えず2人は必死に侍女にしがみつく。

轟音の末に光線はテーブルを破壊したものの、そのまま侍女を失神させる程度の威力に収まっていたようであった。
倒れ込む侍女を泣き叫びながら起こそうとする姉を尻目に、近づいてくる妖異から目が離せないSophia。
やがて2人の目前まで迫ったそれに、不気味なまでに冷静なまま 恐怖に染まる姉の顔を見てその脳裏に過った言葉は

「守らなきゃ」であった。

刹那、つい最近解禁され 感覚を掴むために時間外に隠れて訓練していた力――魔法を思い返す。
とはいえ初歩的な、指先に蝋燭より小さい炎を宿すようなもの……それでもこのままではと 両手を空に向けてがむしゃらにエーテルを手繰り寄せていく

妖異の舌先が姉に触れる寸前、割り込むように飛び込み 反射的に手を翳した――その次の瞬間。先の光線よりも遥かに重く、まるで膨大な何かが爆ぜるような音が響く。
一瞬目を伏せた眼を開くと、その視界は煌々とした山吹色に染まっており その正体たる激しい炎熱がうねりをあげて妖異を飲み込んでいく。
断末魔すら聞こえないほどの一瞬で妖異はその身を焼き尽くされ、炎はそれを覆い尽くすように収束しやがて霧散していったのであった……

――騒ぎを聞きつけ、この時間は屋敷の最上階で習い事の準備をしていたであろう父と母が玄関の扉を破壊せんとばかりに現れた。
ちょうど炎が消えるさまを見届け、驚愕しながらも3人に駆け寄り愛娘を力強く抱きしめる。

回復魔法を齧っていたという父が侍女を治療するのを横目に、母は姉とこちらの肩に手を置き やけに神妙な面持ち……それでいていつもの優しい口調で事の顛末を訊ねてきた。
包み隠さずに魔法を放とうとしたこと、それが見たこともない規模の破壊力を発揮したことをたどたどしく伝えれば 母は僅かに目を見開き静かに頷く。
その傍らで目を覚ました侍女の姿に安堵したところで、緊張の糸が切れその視界が暗転していった――

幾分かの時間が過ぎたのであろうか。ふと意識が覚醒し、夕日が差す見慣れた自室の寝具で体を起こす。やけに冴えた頭を軽く振り、立ち上がって部屋を出るといつもの姿の侍女が出迎えてきた。
泣きながら感謝を伝えられるも先に守られたのだからと譲らず、ふと可笑しくなり互いに笑みを零す。そして両親が呼んでいる、という言伝を受けていた彼女の後に続き 普段夕食が運ばれる大部屋へと向かった。

部屋に入るといつもの調子の父と母に迎えられ、退室した侍女を見送り何かを決意したかのような両親の話に真摯に耳を傾ける。
そこで伝えられたのは、先の爆発は不安定ながらも魔法であったこと しかし自身の年齢と鍛錬の期間にはとても見合わない上級のものであったこと
そしてその要因として、卓越した魔法を操る母の血筋ゆえに秘められていた素養が開花したのではないか……という3点である。
なお先程まで眠っていたのは、幼い体に不釣り合いなエーテルの操作と発散による一時的な眠気のようなものだったらしい。

これらに少し驚きはしたものの、理知的な育ちが幸いしてか 理由を知った後であれば不思議と納得ができていた。そんな様子を見て、両親もようやく胸を撫で下ろしたようである。
その日はそのまま夕食を済ませ、これからの魔法の鍛錬に期待を膨らませながら眠りについた……

だがその明朝、いつも通りに目覚めて庭に出た彼女は焦燥する。
見慣れた筈の屋敷正面の壁は一面が焦げ付き、崩壊の危険性は無さそうなものの明らかに様相が変貌していた。
それを物憂げに見上げる父を見つけ、申し訳無さそうに声をかけるもののそんな彼女を叱責などせず 直せばいいさと快活に笑みを浮かべる。
その表情と黒く染まった我が家に、改めて昨日の光景を思い返し 一歩間違っていたら……という恐れを覚えるのであった

そして再び昼過ぎ頃。先日と同じく茶の席についていた姉妹は正門に集う一団に気づく。
壁面の修繕のための建築家と 後続の妖異が現れないかの調査のため専門家――グリダニアで日常的に目にする幻術士のような、しかしどこか剣呑とした雰囲気を纏う術士たちの集団であった。よく見ると両親が直接出迎えており、何やら話している。

謎の術士について本能的に気になったSophiaは侍女に尋ね、彼らが幻術とはまた違う魔法……自身が放った属性である炎を巧みに操る「呪術士」であると告げられた。
攻撃魔法の手練れであり、妖異の棲む世界にも造詣が深いことも添えられる――が、そのいずれの解説も耳に留まらず ただ炎を操れるという文言だけが脳内で反芻している。

やがて話し合いが終わったのか、建築家は壁を 術士達は庭木の辺りに分かれて調査を始めたようだ
これは好機とSophiaは走り出し、驚き引き止めようとする侍女を尻目に呪術士へと駆け寄り声をかける。

――わたしに、炎の使い方を教えてくださいと

術士達は強張っていた顔に、揃って驚きの表情を浮かべた。しかし子どもの我儘だろう…と一笑に付しかけるも、「娘の炎魔法が妖異を祓った」という館の主の言葉を思い出して息を呑む。
そして一番近くにいたたおやかなヒューラン族の女性はこちらに目線を合わせるように膝をつき、ここで教えるには教材や環境が足りないことと それが所蔵されている総本山――ウルダハにある呪術士ギルドを訪ねること
そしてこれは選択肢のひとつ、と補足したうえで ギルドが門戸を開いている「冒険者」……世界を巡り、力を磨きながら様々な依頼をこなす存在を目指すことを勧められた。

最後の提案に疑問を抱き何故ですか?と尋ねるものの、母のいる方向を目配せし経験者がいるからね と悪戯っぽく誤魔化されてしまう。
しかし前者の回答に納得したため、作業の邪魔をしてはならないと侍女の元へと戻っていくのだった……


――そして、3年後。

あれから様々な魔術の書物に目を通し、両親が知りうる指導を受けたためか力の再発は抑えられており その上で教育には一層熱が入る日々を過ごしていた。
そして15歳の誕生日を迎え、心身ともに健やかに成長したSophiaは両親に呪術士になること そしてそのために冒険者を志す旨を打ち明ける。

この突然の告白を察していたのか反対はされず、むしろ自ら選んだ選択ならばと背を押す彼らに背を押され 呪術士ギルドを擁する砂の都――ウルダハへと発つ時を前に、彼女は気を引き締めるのであった…

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