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ロードバイク: チューブラータイヤのリムセメントによる接着について


 このnoteは文章のみで写真はありません.
 チューブラータイヤのセメント接着という,いまやほとんどニーズの無いニッチな話題ですが(笑),興味のある方はご覧ください.

まえがき

 先日新しいタイヤに履き替えたついでに,チューブラーをリムに接着せずに乗ったらどうなるか… というテストをしてみた結果をnoteにまとめました.

 上のnoteは,基本的にネットの情報は参照せず,自分の知識だけに基づいて書いたものです.
しかし,少し気になったので,あとでネット検索をしてみたところ,
タイヤをリムに接着する際には,毎回必ずリムをクリーニングすべし
との説明をしているサイトが多いことに気がつきました.
個人ブログだけでなく,複数のショップでもこの説明が見られます.
しかし,これは自分の理解とは正反対です.
「あれ? 俺って間違っていたっけ? 」との不安がよぎる (笑)

時代が変わったのか? 
自分のやり方はいまや「非常識」ということなのか? 


なにぶん,ロードバイクは長いことソロで乗っているから仲間と情報交換することもないし,「タイヤの貼り方」みたいな基礎的事項はもう30年以上確認したことがない.
しかも,私は最近の十数年間,インターネットやSNSの世界から切り離された独自の孤立系でロードバイクを楽しんできたから,尚更なのである
(詳しくは自己紹介を参照).

そこで今回,
インターネット上で報告されているチューブラータイヤのセメント接着に関する情報を収集・整理し,自分の経験も含めて総括してみることにしました .要するに,自分の知識を再確認したくなったということです.
 
なお,このnoteに記すことは,ロードレース用途ではなく,公道でのロードトレーニング,ツーリング,ポタリング等での使い方の観点でのまとめとなります.

このnoteで引用するのは下記のサイトからの情報です.
[1] Panaracer:チューブラータイヤ 取扱説明書
[2] BONTRAGER:ホイールオーナーズマニュアル
[3] HOZAN:チューブラータイヤの取り付け
[4] kinoの自転車日記:ピストバイク チューブラータイヤの交換 タイヤを貼る
[5] CBN blog,PHILLY氏:チューブラータイヤ入門 そのメリット・デメリット・運用のコツを徹底解説
[6] 彩 on your world:チューブラー パンク修理は交換!裏技とその極意は
[7] あるデザイナーの雑記★2.0.2:セメントベッドの作り方
[8] 鳥山新一著 サイクリング (講談社スポーツシリーズ,1983年)
[9] Continental:mounting instruction for tubular tyres, aluminium rim
[10] Yahoo 知恵袋:チューブラーの【リムセメント】のことで疑問があります。


1.一般的にはどのように考えられているのか?

 リムセメントによるチューブラータイヤの貼り方を解説しているサイトのうち,企業サイトとして[1],[2],[3]が,個人ブログとして [4],[5],[6],[7] が見つかった.
既にセメントがのった状態のリムでタイヤ交換をする際の方法として,
 Panaracer [1] とBONTRAGER [2] のサイトでは,
どんなときでも必ずクリーニングし,古いセメントを落としてから貼る
との説明である.
このnoteではこれを「クリーニング法」と呼ぶことにする.

一方,HOZAN [3]と[4]〜[7]の個人ブログ では,
セメントが塗布されたリムはクリーニングせず,セメントは上塗りする」と説明している.
なお,[4]のkino氏はピスト競技に長く携わってきたベテランで,
[5], [6], [7]の各氏もロード分野で経験豊富な方とお見受けした.
私の理解はこれらの方々と一致する.
このnoteではこれを「セメント上塗り法」と呼ぶことにする.

 リムを毎回クリーニングするか否かは,趣味のロードバイクにおいてはとても重大な問題である.なぜなら,クリーニングはとても面倒くさくて手間のかかる作業だからだ
私は「セメント上塗り法」を支持する.
 以下にその理由を記す.

2.なぜリムセメントを落としてはいけないのか?

 なぜリムをクリーニングして古いセメントを落としてはいけないのかというと(これは前回のnoteでも書いたことだが),表面がツルツルのリムにセメントで貼ったタイヤは,そうでないときよりも剥がれやすいからである.
 それを最初に知ったのは,私の記憶が間違っていなければ,[8]の鳥山新一のサイクリング入門の本 (講談社スポーツシリーズ,1983年) においてである.私は自転車を始めたばかりの時,各パーツの仕組み,メンテナンス,走り方のすべてをそれで学んだ.
そこには,チューブラータイヤの装着方法として,新品のリムは表面を紙ヤスリで擦ってザラザラにしてからタイヤを貼るべし… と書かれていた
(なお,私はこれまで七組のチューブラーホイールを使用してきたが,リムにヤスリをかけることにはとても抵抗があり,知識として知ってはいたものの,今まで一度もやったことはない,笑)

 この「ヤスリがけ法」は[2]のBONTRAGERの解説,[3]のHOZANの解説,[9]のContinentalによるタイヤ装着の解説動画でも見ることができる.
その理由として,[2]では「ニップル穴のバリを落とすため」と説明されている.一方, [3] のHOZANの説明では「チューブラータイヤの接着面を中目程度の耐水ペーパーなどで荒らす事も、接着力を向上させるために大変効果的と言えます」と,その効果を明確に述べている.
 パンク修理の際にチューブをやすりで荒らして表面の被膜(剥離剤)を部分的に落としてからパッチを貼るが,リムのヤスリがけにもそれと似たような効果があるものと考えられる.

 リムをヤスリがけするか否かに関係なく,チューブラータイヤの交換の際に剥がれることなくリムに付着して残ったセメントは,リムに対して十分に馴染んでいるため,信頼できるベッドとなる.そして,そのセメントベッドに上塗りしたセメントは,ツルツルのリムに塗布したセメントよりも接着力が強いうえに厚みも増してくるため,リムに対してタイヤの隙間もできにくく,外れにくいタイヤとなる

 ただし「ツルツルのリムは剥がれやすいから要注意」というのは,基本的にはロードレースでの話(例えば50km/hで直角コーナーに突っ込むとか,90km/hでダウンヒルするような場合)である.
 直線の走行が主体で曲がり角では一時停止し,ダウンヒルのコーナリングも安全速度で徐行をして走るような,公道で常識的な走行をしている限りは,新品のリムでベッドの出来具合が多少不十分であったとしても,接着したタイヤが剥がれるようなことは,まったく心配することはない…   
と私は考えている.
(なぜなら,前回のnoteでも実証したように,チューブラーホイールとタイヤは,そもそもセメントで接着されていなくてもタイヤが外れにくいようにできているからだ)

3.クリーニングが必要な場合もある

 チューブラーホイールは上で述べたように,通常は張り替える度のセメントのクリーニングは必要ないが,クリーニングをしなければならないときもある.それは,タイヤの装着から時間が経ちすぎたホイール(例えば,10年間乗らずに温度・湿度の管理されない物置に保管されていたもの)とか,繰り返し使い続けてセメントベッドが厚くなりすぎてしまった場合である.
 前者の場合,セメントが完全に風化してタイヤは軽い力で簡単にパリパリと外れ,リムにはカラカラに乾いた薄い色のセメントが残った状態となる.
[4]のkino氏はこれを「風邪をひいたセメント」と呼んでいる(ピスト用語だろうか?)
 中古で購入したチューブラーホイールがそのような場合には,古いセメントを完全に除去してからタイヤを貼る必要がある.

4.リムセメントによるタイヤの接着が不十分だと何が起こるか?

 タイヤの接着が不十分であるとき,何が起こるか?
 ネット上では「大事故につながる(だからタイヤはセメントでしっかりと接着すること)」という脅しのような説明や書き込みがなされるのが常だが,実際のところ,その具体的な情報は少ない.
 接着不十分なら外れる可能性があるのはわかるが,それを実体験した人がとても少ないからだ.

 インターネットが普及するよりも前(90年代前半)までは,自転車雑誌や自転車仲間から聞いた情報がすべてであった.その頃はまだチューブラータイヤの全盛期だったが「走行中にタイヤが外れた」という話は,私は一度も聞いたことがない (少なくとも雑誌の情報や仲間内では).
 ネットが普及して誰でも情報発信ができるようになってからは「レース中にタイヤが外れた人がいた… 」という書き込みをどこかの掲示板で見たことがあるが,詳細は不明である.

 今回検索をしてみたところ,Yahoo知恵袋[10]でこの質問をしている人がいて,具体的な回答があった.
要約すると「前輪が接着されていないことを忘れたままスラローム走行をしたら,タイヤが1/3ほど外れて落車し,肋骨にヒビが入った」そうである.
 また,ビットリアは2015年にチューブラー用接着剤 Magic Mastik を発売したが,その後すぐに,海外で誤った使用による走行中のタイヤの剥がれが発生し,販売中止になったそうである.ただし,どんな使い方をしたのか? その詳細は不明だ.
 これだけ情報が溢れている現代であっても「走行中にチューブラータイヤが外れた話」については,ネット上ではそれくらいしか見つけられないのが実際である.

 出先でパンクをしてスペアタイヤに交換をすると,接着が弱くなりがちだが,私はそれでタイヤが外れた経験は一度もない.
[4]のkino氏もブログで同じことを書いていた.
 ただしkino氏によると,それは「毎日練習していると パンクやタイヤの寿命で長くても 2~3ヶ月でタイヤを貼り替えるから,リムに残ったセメントが生きている」からだそうである.
 乗る頻度が少なかったり,パンクをせずにタイヤが長持ちした場合には,タイヤ交換時にリムやスペアタイヤに残ったセメントの再利用は期待できない.そのため,私は出先でもなるべく,その場でセメントを少し塗ってタイヤをはめるようにしている
接着がすぐに完璧になるわけではないが,無いよりはマシだし,私が愛用するPana Cementは速乾性でもあるからだ.

5.メーカーが「クリーニング法」を主張するのは何故か?

 このnoteでは引用しないが,いくつかのショップ系ブログでは「クリーニング法」の説明をしていた.これは[1]や[2]のようなメーカーサイトの説明の受け売りと思われる.また同様な説明をしている個人ブログもあったが,それは[1],[2]やショップの情報に従ったものと思われる.
 ではなぜメーカーは「クリーニング法」を推奨するのか?
 [1]のPanaracerはタイヤメーカーであり,[2]のBONTRAGERはホイールメーカーである.メーカーが念頭に置かなければならないのは
 PL法(製造物責任法) だ.ユーザーがどのように使うのかわからないから,厳しい条件を想定するだけでなく,再現性のあるやり方を説明しなければならず,それゆえ「クリーニング法」を主張するしかないのであろう.
 一方で,企業の中でも「セメント上塗り法」を主張するHOZAN[3]は工具メーカーであって,タイヤやホイールは作っていない.故に現実に即した正直な説明ができるのである.私は[3]のHOZANの解説を支持する.

 余談であるが [1]のPanaracerの取扱説明書ではチューブラータイヤの接着は専用の接着剤でするようにと書かれている.つまりチューブラーテープの使用は想定されていないのだ.だから,もしもショップがメーカーの「クリーニング法」の指示を頑なに主張するのであれば,少なくともPanaracerのタイヤに関してはテープでの使用ができないことも同様に説明すべきである (そんなショップは見たことがないが… ).

 

6.チューブラータイヤが普及しないのは何故か?

 クリンチャー,チューブレス,チューブラーの中で,最も乗り心地がよく快適で,メンテナンスが簡単なのは,チューブラーであると私は考える.
ただし,それは「クリーニング法」ではなく,チューブラーテープを使用するのでもなく,「セメント上塗り法」の場合に限る.

 では,そのような便利なチューブラータイヤが普及しないのは何故か?
これは,やはりリムセメントで貼ることそれ自体に由来するのであろう.
 チューブラータイヤは「普通」に使っている分にはまず外れることはないが,そもそも普通の定義にあいまいさがあるため「絶対に外れない」と言い切ることができない.
メーカー的にはそこがPL法(製造物責任法) に引っかかるのである
90年代後半から始まった,ロードレーサーにおけるチューブラータイヤからクリンチャータイヤへのシフトは,このPL法の世界的な広がりと大きく関係している(ちなみに,日本のPL法は1995年に施行された).

 クリンチャータイヤであればチューブラーと比較して外れる可能性はさらに低い.その上,クリンチャーはチューブレスとリムの構造が同じだから,ホイールメーカーは「最初はクリンチャータイヤを使って,あとからチューブレスタイヤにアップグレードできますよ」という,商売の仕方ができるのだ(とりあえずチューブレスのメンテナンス性の悪さは無視して).
そのため,部品メーカー的にも完成車メーカー的にも,いろいろな面で顧客に売りやすいのであろう.
 しかし,そのようなクリンチャー推し,チューブレス推しはメーカーの立場からの話であって,ロードバイクをユーザー視点で見れば,チューブラーにはまだまだ大きな優位性があるものと私は考える

7. チューブラータイヤの取扱方法: 細部の違いを考える

 CBN blogのPHILLY氏 [5]はチューブラータイヤの扱い方を,とても丁寧に説明している.正直,私が前回のnoteに書いた記事よりも,PHILLY氏の解説の方がずっと分かりやすい (笑).
そこでここでは,PHILLY氏と前回紹介した私のチューブラータイヤの取り扱い方法の相違点,ならびにその理由を簡単に記しておきたい

・ PHILLY氏はリムにセメントを塗布したら10-20分乾燥させるそうだが,私は5分程度ですぐ張ってしまう.kino氏[1]もすぐ貼る派だそうである.  
 PHILLY氏は「バルブを斜めに突っ込んでしまうと、もう修正ができません。」と説明するが,私はすぐ貼る派なので,センター合わせの段階ではまだ接着力が弱く,修正が比較的容易である.

・PHILLY氏は簡易スタンドを使っているため,硬い木の板の上でタイヤを貼るそうだが,私は振れ取り台で最初はホイールを固定したままタイヤをバルブ側から貼り,途中でクイックレバーを解除してホイールを取り外して反対側を装着する.なぜなら「すぐ貼る派」なので,板の上に置くと板にセメントがついて伸びたり,リムにゴミが付着しやすいからである.

・PHILLY氏はセンター出しの際の空気圧は1barが丁度よく,2barは高すぎるとしているが,私は1 barはやや低く,2barくらいがちょうど良いと考えている.

・ PHILLY氏は「くれぐれも、貼り付けたその日のうちに走りだすのはやめてください。」と説明するが,私はレースではなく,公道を常識的に走行する限りは,セメントで貼ってからすぐに乗っても差し支えないという考えである(その理由は前回のnoteでも説明した).

・PHILLY氏は持っているスペアタイヤの本数以上にパンクしたらどうするか? について,「どうしようもありません。その時点で走行不能に陥ります。」と述べている.つまり諦めるという考え方だ.
私は距離が30kmくらいまでならそのまま15km/h程度で徐行して走ってしまう.パンクしたままタイヤが外れずに走れるのはチューブラーの特徴の一つである.私個人の経験としては,それでホイールに影響が出たことはない.

・PHILLY氏は「スペアタイヤ1本で走る距離は50~60km以内です。それ以上遠くへ行く時は、スペアを2本に増やします。」としているが,私はどこに行くにも1本しか持たない.それは,私が耐パンク性能の高いCORSA CXを使っているからである.それで困ったことは一度もない.

・PHILLY氏はスペアタイヤをサドルの下に取り付けるから,サドルバックが取り付けられないことをデメリットとしているが,私はスペアをシートチューブのボトルホルダーに取り付けて,サドルバックも普通に使っている.PHILLY氏はLOOK KG481のシートチューブに大きなフレームポンプを取り付けているから,私と同じやり方はできないようである.

8.まとめ

  •  チューブラータイヤのセメント接着に関して,特にタイヤ交換の際にリムを毎回クリーニングしてから貼り付けるべきか(クリーニング法),それともセメントを上塗りして貼り付けるべきか(セメント上塗り法)という観点を中心にインターネットで情報収集をした.

  •  タイヤメーカーとホイールメーカー(およびそれを受け売りするショップ)はクリーニング法を推奨するが,古くからチューブラーを使用しているサイクリスト(自分も含めて)はセメント上塗り法で行なっているケースが多いことがわかった.工具メーカーのHOZANもセメント上塗り法を推奨している.

  •  クリーニング法はセメント上塗り法と比較して,リムに対する接着力が弱くなるだけでなく余計な手間も増える,ユーザー的には何の利点もない無意味な方法である.それでもなおメーカーがクリーニング法を推奨するのは,メーカーとしての諸事情があるからである.すくなくともロードバイクを扱うショップはそのことを知っておくべきであると私は考える.


これで,チューブラータイヤのセメント接着に関する私の論考を終える.
勝手に引用をさせていただいた個人blogの諸氏に謝意を表したい.

終わり


2023年12月9日追記

 ガラクタの掃除をしていたら,自分がいつも使っているVittoriaの取説が出てきた.そういや,いつもすぐに捨ててたから,まったく読んでいなかった(笑)

Vittoriaでも「クリーニング法」の解説になっていた.ただし,
新品リムの場合は紙やすり等でリムを磨き凹凸をつけ,
接着力をあげてください
と書いてありました.
クリーニング法をやる人はリムを磨きましょう.
私は今後も「セメント上塗り法」で乗るつもりです(笑).



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