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リアル80年代のロードレーサー: クロモリの走りを徹底調査 (その2)

こんにちは
自転車が大好きなsilicate meltと申します。

前回からの続きです。

前回のnoteでは50kmほど試走してみた感想を記しました。
ナショナルレーサーは、フレームがクロモリであることよりも6速Wレバー(デュアルコントロールレバーではないこと)のメリットが強く印象に残る結果となりました。

ただし、これはあくまで「ワタクシの感想
どこにでもあるプラセボ効果満載のインプレと同じですので、ご注意を!
信じるも信じないも貴方次第です(笑)

シマノ自転車博物館によると、現代のロードバイクは「科学の時代」だそうです(訪問記はこちらのnoteで)。
客観的なデータをとってサイエンスで語る時代
パワーメーターの登場は、ホビーレーサーがロードレーサーの走りを客観的に語ることを可能にさせました。

というわけで、

ワタクシが感じたナショナルレーサーの"速さ"は本当なのか?
クロモリとカーボンでは登坂性能に違いがあるのか?

これらをパワーメーターを用いて検証してみたので、その結果をこのnoteに記したいと思います。


1.  平坦路での定速走行試験

< 仮説 >

サイエンスをやるので仮説を建てましょうか
ワタクシがこれまでに実施してきたパワーメーター試験によると、次のことがわかっています。
(1)クリンチャーはチューブラーよりも転がり抵抗が低い
(2)チューブラーはクリンチャーよりも加速が良い
(3)ロードバイクが重いと速度も遅くなる  (乗り手の体重よりもバイクを軽くした方が速く走れる)
いずれも、無風条件での平坦路、クリンチャーはVittoria CORSA G2 23C、チューブラーはVittoria STRADA 21-28の場合です。詳細は過去のnoteを参照

LOOK565は車重7.9kgでクリンチャー(CORSA G2)仕様
Nationalレーサーは車重9.6kgでチューブラー(STRADA)仕様
そのため、Nationalレーサーは車重とタイヤの2つの観点でLOOK565よりも不利なので、より遅くなるものと予想されます。
ざっくりとした計算ですけれども、180Wで走行したときの速度の差は
車重の分でNationalレーサーがマイナス0.8km/h、タイヤの分でマイナス0.5km/h。合計するとマイナス1.3km/hくらいでしょうか

単純に合計して良いのかどうかは良くわかりませんけどね(笑)
何しろ、車重の影響を再現できる理論モデルがないからよくわからない。
(注:ワタクシ、ロードバイクの走りは、従来から言われている空力と転がりと駆動抵抗を合計するだけの単純な力学モデルだけでは説明できないと考えています。詳しくは前回のnoteを参照)

< パワーメーター試験 >

では、パワーメーター試験をはじめましょう。

試験場所は前回までの大潟村から変更することにしました。
大潟村の試験地は自宅から片道2時間近くも掛かり、行くのが大変なのです(笑)

今回は秋田市向浜にやってきた。
片道1.4kmの平坦な直線です。
ここは先が行き止まりになっているため、車がほとんど通りません。
ここでパワーメーター試験を行います。
試験ではボトルは取り外しました。

気温は26℃、4m/sの西風が吹いているが、道は南北方向で東西には木が生えているため路上では風はほとんど感じませんでした。

大潟村の試験地と比べると路面は傷んでいるように見える。

タイヤの空気圧は8barです。
ちなみに、空気圧7-9barの範囲でパワーと速度の関係が空気圧に依存しないことを試験により確かめています(6barまで下げると転がり抵抗が増大し、速度が明確に低下し始める)。
100W→140W→180W→100W→140W→180Wの順番で、往復走行を2回ずつ行いました。

一旦帰宅してLOOK565に乗り換えます。
このバイクはもう18年前のモデルだけど、ナショナルレーサーに比べると、いろいろな部分が変わりすぎていて、最先端のバイクに見えてくる。
ナショナルレーサーからこのLOOK565に乗り換えると、新車を買ったみたいで気分が良い(安上がりなワタクシ、笑)

で、乗って見ると、やっぱりアップライトポジション(ナショナルレーサーよりもハンドル位置が2cm高い)なので、とてもラク
フロントの振動も少なく、快適に乗ることができる。


先ほどの試験場所に戻ってきました。
タイヤの空気圧は同じく8bar
同様に100W、140W、180Wでの往復をそれぞれ2回行い、終了。


結果発表!


図1. パワーと速度の関係、行きと帰りの全データ
左:LOOK565、右:Nationalレーサー
(図をクリックすると拡大します)

図1に試験結果の全データを示します。

図2. パワーと速度の関係、行きと帰りの平均から求めた無風換算の値
左:LOOK565、右:Nationalレーサー
(図をクリックすると拡大します)

図2に行きと帰りの平均から求めた無風換算の値を示します。
2回の測定で再現性があることが確認できました。

図3. パワーと速度の関係のまとめ(無風換算)
試験地B(秋田市下浜、2024年6月)
青:LOOK(クリンチャータイヤ)、赤:National(チューブラータイヤ)
試験地A(大潟村、2024年3月-4月)
X:LOOK(クリンチャータイヤ)、赤丸:LOOK(チューブラータイヤ)

図3に今回の試験結果(試験地B)と、大潟村(試験地A)で行ったこれまでの測定結果を比較してまとめます。

わかったこと

  • 今回の試験地は路面状態が良くないように見えたが、大潟村の試験地よりも速く走ることができた。

  • NationalレーサーはLOOK565よりも速度がわずかに遅くなった。180Wでの速度はLOOK565が32.5km/h、Nationalレーサーは32.2km/h(計測誤差±0.2km/h程度)

NationalレーサーはLOOK565と速度が0.3km/hしか変わりませんでした。
これまでの試験結果から1.3km/hくらい変わると予想をしたのですけどね。タイヤの違いだけが観察されていて、車重の違いが現れていないように見える。この理由はよくわかりません。

大潟村の試験地と今回の試験地の速度の違いについて
なぜ前回よりも速く走ることができたのか?
今回は3月と4月に実施した前回よりも気温が13℃くらい高く、空気の密度が約5%低い
速度が一定のときのパワーは空気の密度に比例するので、140Wであれば9Wの差(空気抵抗は全体のうちの6~8割だから、実際にはこれよりも少ない)。ところが、図3を見ると、試験地AとBでは28km/hのときに約30Wもの差があります。
これはウエアの違いによる空気抵抗係数、前面投影面積の差が理由かもしれない。
今回の試験で着用したのは夏用のウエアにレーパン
一方、3月、4月の試験では上は冬用のゴワゴワしたジャケット、下は空力抵抗完全無視のトラックパンツでしたから。
(ただし路面が違うし、本当にウエアで説明できるのかも別途確認が必要)


2.  登坂試験


図4. 大森山動物園
図5. 大森山動物園裏手にある登坂試験のコース

秋田市大森山動物園にやって来た。
ここの裏手に、距離900m、高低差約40m(平均勾配4.4%)の坂道がある。
傾斜は勾配5〜10%で350m → 200mの平坦 → 勾配5〜10%で350m です。
ここでタイムと登るために要したエネルギー(パワーの合計)を計測します。
ギヤ比はLOOK565が34x17T、Nationalレーサーが42x21T
全力疾走ではなく普段のロングライドと同じ感覚で、少し脚を残しながら、自分の脚力の80%くらいのイメージで、3回ずつ 登りました

図6. 頂上には展望台があり、テレビ局の電波塔が立っています
図8. 展望台からの景色

結果発表!


Nationalレーサー

1回目: タイム197秒、パワーの合計42243 J
2回目:タイム215秒、パワーの合計42497 J
3回目:タイム213秒、パワーの合計40028 J

LOOK565
1回目: タイム205秒、パワーの合計37769 J
2回目:タイム215秒、パワーの合計39694 J
3回目:タイム219秒、パワーの合計39444 J

図9. 登坂試験のタイムとエネルギーの関係
破線と直線はテキトウに引いた推定値(回帰直線ではない)

結果をグラフにしたものを図9に示す。
投入エネルギーが多ければ、それだけタイムを縮めることができる。
2回目はNationalとLOOKで同じタイムだが、LOOKの方がエネルギー投入量が少なく済んだ。
LOOKの1回目は6回の計測中でもっともエネルギー投入量が少なかったが、Nationalの2回目、3回目よりも速かった。
これらのことから、同じパワーで登坂をしたとき、LOOK565はNationalレーサーよりも速いものと考えられる
(定量的な議論をするためには10回くらい計測をする必要がありそうだ)

なお、パワーにどのように影響しているのかは不明ですが、デュアルコントロールレバーのLOOK565よりもWレバー仕様のNationalレーサーの方が、ブレーキブラケットを握りやすい上にハンドリングが良いので、ダンシングもしやすく、登坂そのものはNationalレーサーの方が好印象でした。



3.  まとめ


パワーメーター試験により、平坦路でも登坂でも、NationalレーサーはLOOK565よりも遅いことが判明した。
ただし、平坦路での速度差は180Wでの走行時LOOK565は32.5km/h、Nationalレーサーは32.2km/hと、その差は僅かであった。

80年代のロードレーサーの走りは意外と悪くない

客観的にはこのように結論できそうです。

パワーメーター試験は短距離で、シフトチェンジもブレーキ操作もしないから、コンポではなく純粋にフレームとタイヤの性能差が出るはずだ。
Nationalレーサーは車重とタイヤ(チューブラー)の点でLOOKよりも不利になると思われたが、実際にはそこまでの差が見られなかった。
これをどのように解釈すればよいのか?   
これがまた悩ましいところ(笑)

やっぱり、もっとデータを取るしかないんだろうなぁ
とりあえず、今知りたいことを列挙すると

  • Nationalレーサーにweightを取り付けた時のパワーと速度の関係

  • Nationalレーサーをクリンチャーで乗ったときのパワーと速度の関係

  • 新しい試験地(秋田市向浜)で気温変化したときのパワーと速度の関係

  • 舗装路面の状態が変わった時のパワーと速度の関係

  • ウエアやハンドルポジションを変えた時のパワーと速度の関係

  • Vittoria CORSA G2とContinental GP5000のパワーと速度の関係の違い

  • 大森山の登坂データを増やして定量的な解析

舗装路面の違いは、既に何ヶ所かでデータを取っているのだけれども、気温の違いを考慮しないといけないのが難しい。
ウエアとハンドルポジションがバイクの速度に与える影響は昔のサイスポに風洞実験のデータが出ているけど、やっぱり実際の舗装路で自分のバイクとウエアで知りたいんだよねぇ

ロードバイクでサイエンスをやるとキリがないですね
やりたいこと、知りたいことが多すぎる!
誰か、代わりに試験してくれないかなぁ。笑)

知りたいことは山ほどあるけど、
ワタクシ、やっぱり休日は走行試験ではなくてサイクリングがしたいのです!
ロングライドに出かけたいのです!!
という訳で、

80年代のクロモリレーサーはロングライドでもカーボンバイクと遜色の無い走りをすることができるのか?

これを確かめるべく200kmのロングライド試験を行いましたので、次回はその結果を報告したいと思います。

(次回に続く)


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