パワーメーターで確かめてみた話: (その5) タイヤの空気圧を徹底調査してみた
こんにちは
パーツオタクのsilicate meltと申します。
タイヤの空気圧と転がり抵抗の関係を調べて見たところ、興味深い結果が得られましたので、このnoteにて報告をさせていただきます。
1.はじめに
最近よく聞く、ロードバイクのタイヤの空気圧の「低圧化」の話
その発端は、ポンプメーカーのSILICAが発表した下の図であった。
アスファルトの路面では、"タイヤの転がり抵抗が最小となる空気圧" が存在し、その値は路面が粗くなるほど低圧側にシフトするらしい。
(理由については、下記リンクのSILICAの説明を参照のこと)
この図が発端となって、
お前、まだ高圧で乗ってんの? ( ´,_ゝ`)プッ
的な状況となっていることは、みなさま御承知のことと思う。
この図が大人気になったのは、ほかでもなく、クリンチャータイヤに対する試験で得られた上図のデータが、チューブレスタイヤをセールスする上で、とても都合が良かったからである。
いわく
クリンチャーだと低圧にするとリム打ちパンクしてしまうよね?
でもチューブレスならチューブが無いから低圧にできるんだよ
つーことで、チューブレス最高! みんな買ってね!!
という理屈になり、チューブレスを売りたいメーカー、ショップ、代理店のステマサイト、"技術系”を自称するブロガー、チューブレス信者のユーチューバー達が、嬉々としてこの図を引用したのであった。
昨年、このSILICAの図を初めて見た時、
長年、なんの疑いもなく8barのチューブラーに乗りつづけてきた自分の自転車人生が全否定されてしまったように感じたのは事実である(笑)
だが同時に、私は次のような疑問を感じた。
最適空気圧よりも1barズレたときに転がり抵抗が大きくなりバイクが遅くなるとして、具体的に速度はどれくらい変わるのか? (-1km/hなら気になるが、-0.1km/hなら無視できる)
これはクリンチャータイヤのデータだが、チューブラータイヤでも同じような結果となるのだろうか?
そもそも、SILICAによるイタリアの舗装路面での試験結果は、そのまま日本の舗装路面に適用できるのか? 路面の状態に違いは無いのか?
だが、それ以上に疑問に感じたのは、
なぜ皆、あのSILICAの図を盲目的に信用するだけで、誰も自分で調べようとしないのか?
ということなのであった。
自分がネットで見る限り、低圧化に優位性があるとする実験的根拠は、全部SILICAのあの図が唯一のソースなのである(笑)
(自分が探し足り無いだけかもしれないので、他に論文等をご存知の方がいたら教えてください)
シマノ自転車博物館によると、現代のロードバイクは「科学の時代」だそうです(訪問記はこちらのnoteで)。
確かに、転がり抵抗だの、ワットだの、インピーダンスだのの用語を持ち出せばサイエンスっぽいわな
だけどね、
ぶっちゃけて言うけれどもね
ワタクシに言わせれば、SILICAのあの図は、健康食品の広告とかにある怪しいグラフと変わらんです(笑)
あくまでポンプを売りたいメーカーの宣伝ブログの図ですからね
ちなみに言っとくと、ガチのサイエンスで査読を通った学術論文だからといって、必ずしも信用はできません。
生命科学系の実験結果は7割以上が再現しないそうです。
現代はそういう時代なのです(笑)
(コレ、小保方さんのSTAP細胞騒ぎのときに初めて知って、驚きました)
まぁ、
自転車パーツは自己満足の世界
どこで満足するかは、その人次第
あのSILICAの図で満足できる人はそれでいいのでしょう。
だけどね
ワタクシは満足できないの
なぜなら、
パワーメーターがあるから
今はそれで簡単に測れちゃうから
胡散臭い絶賛ネタであるほど、どうしても自分自身で確かめてみないと満足できないのダ(笑)
そんな訳で実際に舗装路面で計測をしてみたところ、下のような結果が得られました(これは3月にnoteでも報告した)。
図2から読み取れること
バイクへの投入パワーが大きいほど、速度が速くなる
パワーが一定であるとき、7barから9barまで空気圧をあげても、速度は変わらない
6barまで下げると、速度が明確に遅くなる
図2はクリンチャータイヤ の結果だけれども、チューブラータイヤ でも同じ結果が得られています。
なーんだ、高圧にしても変わらないんだ
6barなんて全然ダメじゃん
8barでいいんだ!
ってことで、自分の中では決着したのですが…
その後も聞こえてくる、高圧乗りに対する失笑の声
いやね
最近のTLR仕様のディスクロードとかなら分かるんです。
フォークとシートステーがガチガチだから、タイヤが振動吸収の要になります。太いタイヤで4barとか5barとかにしないと乗れないのでしょう。
でも、従来型のクリンチャーのリムブレーキバイクでも
「6barだ」、「いや5barだ」
みたいな意見がネット上で散見される状況を見るにつけ
やはり自分の計測結果はどこか間違っているのかなぁ
と心配になりましてネ
パワーと速度の関係の空気圧依存性について追試験をして再現性を確認しないと自己満足ができない状態になってしまったのでした(笑)
以上が、本稿をまとめるに至ったキッカケということになります。
いつものように前置きが長くなってしまい
たいへん申し訳ありません m(_ _)m
あ、そうそう
「空気圧計算機があるんだから、それ使えばいいじゃん(知らんの?)」
みたいな意見をお持ちの方も、いらっしゃるかもしれませんね
こういうヤツね↓
ゲームの設定かなんかか?
こんなん、信じろって言われてもねぇ
ブラックボックス過ぎて無理(笑)
2.先行研究
2−1.サイクルスポーツ誌による試験
ロードバイクのタイヤの空気圧が速度(転がり抵抗)に与える影響を実測したデータは、ブログや科学論文では見当たらないが、過去にサイスポで簡単な計測試験と議論がなされているので紹介する。
< サイスポ記事、その1>
サイスポ2019年6月号の特集
「走行抵抗を検証する」
にて、Garmin Vector3のパワーメーターを用いて、平地と上り坂を一定の速度で走行するために必要なパワーの計測が行われた。
実験者、執筆者はライターの安井行生氏
2通りの空気圧、同じ銘柄で3種類の太さのクリンチャータイヤで比較をしたとき、登坂時は路面状態(スムーズ or 粗い)に関係なく、6barでは25C、8barでは23Cがもっとも転がり抵抗が低くなる結果が得られている(図4)。
(ただし、登坂データであることに注意)
ホイールとタイヤの銘柄、太さ(25C)、空気圧(7bar)を統一して、タイヤの種類のみを変えた時の結果が図5。
急斜面ではチューブラー、緩斜面ではクリンチャーの転がり抵抗がもっとも低いらしい。
チューブレスの転がりが悪いのは、7barが高すぎたからか?
(ただし、これも登坂データであることに注意)
この特集では、その他にも上図に示すような様々な試験が行われたのだが、外乱(気温、風、走り方、その他)の影響が大きすぎて、再現性のあるデータを得ることに相当苦労したらしい(図6)。
記事によると、実際には図7の2倍に相当する計測を行っており、掲載に至らなかったデータも多いとのこと。
私がもっとも知りたいのは、平坦路でタイヤの空気圧と幅を変えた時の転がり抵抗なのだが、図7には未掲載(赤枠部分)
おろらく、計測はしてみたけれども、自信を持って掲載できるデータが得られなかったのであろう。
ただですね、ワタクシに言わせると、
安井氏の試験方法は
驚くほど効率が悪く、そりゃー精度なんか得られる訳ねーよな…
という、ダメダメな計測方法なのである。
(彼は、風の影響、パワーメーターの安定度を甘く見過ぎている)
せっかく最新機材を借り放題なのにねぇ
モッタイナイ
やり方教えるから、安井氏には是非、再試験をして、もう一度この特集をやってほしいところだ
< サイスポ記事、その2>
サイスポ2019年12月号の特集
「太幅時代のセッティング タイヤ空気圧 新常識」
にて、タイヤの幅と最適空気圧の関係、低圧化についての話題が掲載された。ただし、6月号の特集で懲りたようで、パワーメーター試験は実施されず、IRCの技術者、低圧タイヤを好むMTBライダーに対する取材を中心とする記事であった。
この特集では最後に、体重、路面状態、タイヤの太さを考慮した、「最適空気圧リスト」が公開された(図8)。
図8は、各タイヤメーカーの推奨空気圧の平均値を参考にして、IRCの技術者が決めた値とのこと。
この図から、体重が軽いほど、タイヤが太くなるほど、路面が荒くなるほど "最適空気圧" が低圧にシフトすることがわかる。最適空気圧はライダーの体重により大きく変化し、路面状態の影響はそれよりもずっと小さいらしい。
図8によると、自分の条件(体重67kg、実測タイヤ幅24mm)では、路面状態によらず空気圧は7barくらいが最適なように見える。
2−2.Webの空気圧計算機
ロードバイクのタイヤの "最適空気圧" はさまざまな要素に依存するので、真面目に考えるととても大変だが、条件を入力すると答えを出してくれる、便利な「空気圧計算機」がいくつかのWebサイトで公開されている。
いずれも、何を根拠にして、どのように求めているのかは不明であるが、手っ取り早く解決したい人には心の拠り所くらいにはなるかもしれない(笑)
以下に代表的なものを紹介する。
(その1)SRAM AXSによる空気圧計算機
(その2) SILICAによる空気圧計算機
(その3)サイシスト氏による空気圧計算機
(注:以前はMAVICによるスマホアプリもあったが、別の企業に買収された後に削除されたとのこと)
3.パワーメーター試験の方法
これまで、ローラー台試験、大潟村での実走試験(普通の舗装路)を行い、転がり抵抗の空気圧依存性を調べてきた。
SILICAの報告(図1)によると、"最適空気圧" は舗装路面が粗くなるほど 低圧側にシフトし、転がり抵抗の圧力依存性が顕著になるとのことなので、それを確かめるために、今回は前回よりも粗い舗装路で試験を行った。
日時:8月25日 14:00-18:00
場所:秋田市向浜の片道1.5kmの平坦路(GoogleMapのリンク)
東西に木が生えており、風の影響を受けにくい。先が行き止まりになっており工場しか無いので、休日は車が全く来ない場所である。
気象状況:晴れ、27〜32℃、西南西の風、風速5〜7m/s
< 使用したロードバイク >
(その1)Nationalクロモリレーサー(図9)
タイヤ:Vittoria STRADA 21-28 チューブラー
ギヤ比:39x14T 、車重:9.6kg
(その2)LOOK565カーボン(図10)
タイヤ:Continental GP5000 25C クリンチャー
チューブ:Vittoria ラテックスチューブ
ギヤ比:34x13T 、車重:7.9kg
パワーメーター:Garmin RK100
走行ログの記録:Garmin Edge840
ポジション:下ハン
ライダーの体重:67kg (日本人男性のほぼ平均)
図8にあるようにタイヤの空気圧を論ずるときは体重がとても重要です!
< 路面状態 >
今回の試験地の路面には、図11に示すような亀裂が多くみられる。この亀裂は融雪期の日中の雪融けと夜間の凍結を繰り返すことにより生ずるもので、雪国にはよくある路面の劣化状態である。
劣化がひどくなると部分的に舗装をし直すので、路面にはいたるところに補修痕がみられる(図12)。
したがって、今回の試験地は、日本の平均的な国道や地方道の舗装路面と比較して、明らかに粗い路面であると考えられる。
< 試験方法 >
片道1.5kmを500mごとに100W-140W-180W目安で停止せずに走行し、同じ方法で往復した。
パワーの値は3秒平均値とし、速度とパワーを1秒間隔で記録した。
終了後にGarmin Connectでtcxファイルをエクスポートし、自作のPythonコードでcsv変換したデータを解析に用いた。
各500m区間のうち、速度とパワーが安定してくる後半200〜300m区間における速度とパワーの平均値を求めたのち、往路と復路の速度とパワーを平均することで "無風換算" の値を求めた。
計測時の風向き、風力に違いがあっても、往復を平均することでそれらの影響がキャンセルされ、再現性の良いデータが得られることを確認している。
タイヤの空気圧は5barから10barの範囲で1barおきに変えて計測した。
本当は各空気圧で2回計測して再現性を確認したいところなのだが、途中で面倒臭くなったので 時間が無かったので、今回は1回のみの計測とした。
これまでの計測データの例を図13に示す。
この図をよく見ると140W付近のデータ点はそれぞれの近似直線よりも上側にあるものが多い。これは、パワーが大きく速度が速いほど空気抵抗力が強く作用するためである(理論的にはパワーは速度の3乗に比例する)。
そこで、図13のように明らかにリニアではない結果が得られた場合には、速度をパワーの二次関数で近似することにした。
4.試験結果
パワーが一定のときの空気圧と速度の関係を次のようにして求めた。
(1)各空気圧での速度をパワーの一次関数または二次関数で近似する。
(2)(1)の近似関数を用いて、120W、140W、160W、180Wでの速度を各空気圧で求める。
(3)(2)の値を横軸をタイヤの空気圧、縦軸を速度として各パワーごとにプロットする。
今回の粗い路面での計測試験だけでなく、これまでのローラー台試験、大潟村での実走試験(普通の舗装路)のデータについても同じ解析を行い、速度-空気圧関係のグラフを作成した。
以下にその結果を示す。
4−1. ローラー台試験
ローラー台のときのタイヤの空気圧と速度の関係を図14と図15に示す。
クリンチャーとチューブラーのいずれも、空気圧が高くなるにつれて速度が速くなる。これは昔から知られているタイヤの特徴である。
ただし、同じパワーであっても、チューブラーはクリンチャーよりも速度が顕著に遅い(実際の路面では、こんなに大きな速度差は生じない)。
チューブラーはクリンチャーよりもしなやかにできているために変形しやすい。図14と図15の速度差は、直径10cm足らずのローラー台上では実際の平坦路よりも、チューブラータイヤの変形量(転がり抵抗)が過剰に大きくなるために生じたものと考えられる(詳細は以前のnoteを参照)。
4−2. 普通の舗装路面
普通の舗装路面のときのタイヤの空気圧と速度の関係を図16と図17に示す(データは今回のものではなく、3月に大潟村で計測したもの)
これらの図にはWebの空気圧計算機による値も示した。
空気圧計算機による値は、同一の条件であってもモデルによって異なることがわかる。
クリンチャーとチューブラのどちらも、7bar以上では空気圧に依存しないが、6barにすると速度が明確に遅くなる。
空気圧計算機は、クリンチャーについてはSILICAが正解。
SRAMとサイシスト氏の推奨値はハズレ
サイスポ推奨値はクリンチャーとチューブラーのいずれも適切に見える。
4−3. 粗い舗装路面
粗いの舗装路面のときのタイヤの空気圧と速度の関係を図18と図19に示す。
みんな大好き GP5000
さすが万能タイヤですなぁ
転がり抵抗は空気圧に依存しないそうです(笑)
だが、よーく見ると、速度が遅い時(120W)は高圧側でやや速く、速度が速い時(160W, 180W)は低圧側でやや速いように見えなくもない。GP5000の最適空気圧は速度域によって微妙に変わるのかもしれない。
まぁ、仮にそうであるとしても±0.1km/h程度のことだから、競技とは無関係の週末サイクリストなら、無視してよいくらいの誤差レベルのハナシだ。
GP5000ユーザーのみなさん
好きな空気圧で乗っちゃってください。
(ただし、低圧側はパンクに注意!)
あ、空気圧を変えて速くなったと思ったら、
それは多分気のせいですから(笑)
こ、これは・・・
ワタクシが探し求めていた、データだ!
これを見たかったのです!!
(いや、別に見たかったワケではないな… )
粗い路面でのチューブラータイヤの計測で、SILICA(図1)と似たような結果が得られました!
7bar付近で転がり抵抗が最小になり、それよりも空気圧を増減させると、抵抗が大きくなりました。
最適空気圧よりも±1barズレると速度は0.5〜1km/h程度遅くなり、空気圧を上げた時よりも、下げた時の方が速度低下が大きいようだ。
サイスポとSRAMの推奨値は、最適値をしっかりと予測していますね。サイシスト氏の推奨値は最適値よりも少し高めなようだ。
5.考察
上記の計測結果に対して、簡単な考察をしてみた。
計測条件もう一度まとめておく:
図16:LOOK565+CORSA G2 23C (クリンチャー)、大潟村、3月16日
図17:LOOK565+STRADA(チューブラー)、大潟村、3月16日
図18:LOOK565+GP5000 25C (クリンチャー)、秋田市、8月25日
図19:National+STRADA (チューブラー)、秋田市、8月25日
5ー1. 今回の試験と3月の試験の速度の違いについて
今回は粗い路面で試験をしたため、普通の路面(大潟村)と比較して、速度が遅くなると予測されたが、実際には逆であった。
(チューブラーで7bar、180Wのとき、大潟村では29km/hであるのに対し、今回は32km/ h。クリンチャーでも同様に逆転している)
これは、路面状態の違い以上に、気温の差が大きく影響したためかもしれない。大潟村の試験は気温13℃の3月に行ったため、空気の密度が高いうえに、ウエアの空気抵抗も大きかったと考えられる。
5ー2. チューブラータイヤの比較(図17 vs 図19)
チューブラーでは普通の路面(図17)では7bar以上で転がり抵抗が圧力変化しないのに対し、粗い路面(図19)ではSILICAの報告と同様な転がり抵抗の極小値が観察された。
これについては、次の可能性が考えられるかもしれない。
(1)路面が平滑になるほど高圧側の転がり抵抗の空気圧依存性が小さくなる
(2)気温が低いほどタイヤが硬くなって変形しにくくなるため、転がり抵抗の空気圧依存性が現れにくくなる
5ー3. クリンチャータイヤの比較(図16 vs 図18 )
クリンチャーでは普通の路面(図16)では、7bar以上で転がり抵抗が圧力変化しない(注:実はよく見ると、ホンのわずかに圧力変化しているようにも見えるが…)のに対し、粗い路面(図19)では転がり抵抗が圧力変化しなかった。これは気温の違いに加えて、タイヤの銘柄の違いよるものであると想像する。
もしも5-2で述べた(1)と(2)の2つの仮説が成り立つなら、
GP5000は日本中のどんな舗装路面をどんな季節に乗っても、転がり抵抗は空気圧に依存しないことになりそうだ(笑)
GP5000を普通の舗装路で乗ったらどうなるのか?
気温の低い条件でも図16と同じ結果が得られるのか?
これらについては、そのうち追試験で確認をしてみたい。
なお、図18と図19を比較することで、80年代のクロモリレーサーと現代の(と言うには流石に無理があるな。もう18年前のモデルになっちまった(笑))カーボンバイクの走りの違いを比較することができるのだが、その件については、また別の機会に考察をしようと思う。
5−4.空気圧計算モデルの比較
(1)サイスポ2019年12月号の推奨値(図8)
(2)SRAMの空気圧計算機
(3)SILICAの空気圧計算機
(4)サイシスト氏の空気圧計算機
図16〜図19に基づいて総合評価すると、
サイスポ推奨値がもっとも信頼できそうです。
5−5.タイヤメーカーの推奨空気圧とは何か?
サイスポ2019年12月号の記事によると、タイヤメーカーによる推奨空気圧に幅があるのは、本質的には最適な空気圧が体重によって大きく変わるからだそうである(IRCの技術者のコメント)。
Vittoria STRADA チューブラーの場合、推奨空気圧は7-9bar
私のパワーメーター試験によると、最適空気圧は7barであるとわかった。
私の体重(67kg)は日本人の成人男性のほぼ平均であるが、欧米人に比べれば軽い方に違いない。
したがって、メーカーの推奨空気圧の下限が "最適空気圧" に一致したことはリーズナブルであるといえる。
SILICAによる図1の事実( "最適空気圧" の存在と、それが路面粗さで変化することなど)は、タイヤメーカーなどは当然認識しているはずであり、推奨空気圧はそうした社内データに基づいて決定されているのだろう。
したがって、(欧米人よりも体重が軽い)平均的な日本人であれば、メーカー推奨空気圧の範囲内の低い方にしておくのが、まぁヨイのではないかと思われる。
少なくとも、タイヤメーカーと無関係の者がつくったブラックボックス的な空気圧計算機よりもメーカー推奨値の方が信頼できる
と、ワタクシは結論する。
5−6.タイヤの空気圧と乗り心地の関係について
最後に、タイヤの空気圧とロードバイクの乗り心地の関係について言及しておきたい。
Yahoo知恵袋にこんな質問があった↓
この質問に対して、カテゴリマスターの方から下のような回答があった。
最後は自分の感覚で決めてください。
そのためには空気圧を変えてのテストが必要です。
とのこと
まぁ、普通はそういう回答になるよね。
私だって、誰かに聞かれれば、今までならそう答えたと思います。
ただ、正直に白状しますけどネ
ワタクシ、恥ずかしながら
今回、5barから10barに渡って計測試験を行ったにもかかわらず、
乗り心地の違いがサッパリわかりませんでした(笑)
ちなみに、クロモリレーサーとカーボンバイクの違いは明確でした。
もう全然違います。
カーボンの方が振動が少なく、明らかに乗り心地が良いです。
これは誰にでもわかるハズです(と自信を持って言える)。
それと比べると、空気圧を変えた時の路面の感じ方は微妙すぎて、イマイチ分かり難かったです。
クロモリレーサーとカーボンバイク、それぞれで10barまで試験したのち、試験地から自宅までの数キロをそのまま10barで乗って帰ったんです。
よくロードバイクのタイヤをカチカチの高圧にすると、硬すぎてタイヤが跳ねるといいますけど、ワタクシ、普段の7-8barとの違いが全くわかりませんでした(笑)
考えて見ると、速度差だって微妙
7barを基準にして±1bar変えて速度が変わったとしても、変化量は0.5〜1km/h程度です(図16〜図19)。
TTバイクに乗る競技選手ならともかく、週末サイクリストにはこの微妙な速度差は、空気圧を上げ下げして同じ条件で何度も確かめない限り、感じ取れないのではないかと思います(なぜなら、普通に走っている時は、風向きや路面状態の違いなど、外乱による影響の方が圧倒的に大きいから)。
そこでちょっと思ったのだけど、自転車仲間とこんなゲームをしてみるのも楽しいかもしれません↓
上のような「空気圧評価者資格試験」を提案したい
この資格試験で8割以上正答する人以外は、
タイヤの空気圧と乗り心地の関係を論ずる資格無し
とかやってみたら、楽しいかもね
(もちろん、ワタクシは資格無しです(笑))
まぁ、マジレスしますとね
グラベルのように、浮いた石ころがそこらじゅうにある路面なら、空気圧の差が明確にわかるのかもしれません。
でも舗装路に関して言うと、最近はもう、舗装技術が進歩して耐久性も向上し、どの国道も地方道も路面がすごくキレイでスムーズなので、空気圧の変化が乗りごこちに与える影響が、なかなか分かりにくくなっているんじゃないかな、なんて思ったりもします。
それに、タイヤとフレームでは減衰の仕方や周波数帯なども違うのかもしれません。
とりあえず言えることは、
クロモリとカーボンの乗り心地の差に比べれば、タイヤの空気圧の違いが乗り心地に与える影響はずっと小さい
ということです。
ワタクシはそのように結論しました。
最後にヒトコト
カテゴリマスター氏の回答
を真に受けて、空気圧を変えて乗ってみたけれども、乗り心地の違いがさっぱりわからず、結局、空気圧を決めることができなかった人もいるかもしれませんね。
でも、安心してください
そんな人は多分、大勢いますから(笑)
6.まとめ
舗装路でパワーメーター試験を行い、タイヤの転がり抵抗と空気圧の関係を調べた。
平均的な舗装路面ではクリンチャー(Vittoria CORSA G2 23C)とチューブラー(Vittoria STRADA)のいずれも、6barのときに転がり抵抗が大きく、7barから9barの範囲では転がり抵抗に変化はなかった。
粗い舗装路面では、クリンチャー(Continental GP5000 25C)は転がり抵抗が空気圧に関係なくほぼ一定であったのに対し、チューブラー(Vittoria STRADA)では7barで抵抗が最小となり、SILICAの報告と同様な傾向が確認された。
SILICAが主張する "最適空気圧" の存在と低圧優位説(図1)は、必ずしもすべてのタイヤで常に成り立つわけでは無い。タイヤの銘柄や路面状態、気温によっては生じない場合もあることが判明した。
平均的な体重の日本人男性であれば、メーカーの推奨空気圧の範囲内の低い方にしておくのが確実であると考えられる。サイスポの空気圧推奨値(図8)も参考になる。Webの空気圧計算機は精度が低い。
仮にSILICAが主張するような "最適空気圧" が存在し、転がり抵抗が空気圧で変化するケースであっても、速度に換算すると微妙な差でしかないため、競技とは無縁の週末サイクリストがそれを感じ取るのは難しそうである。乗り心地の変化についても同様に感じた。
従って、ロードバイクのタイヤの空気圧を±1bar変えて、「速くなった! 快適になった!」と感じたらそれは多分気のせいである(もちろん、それで自己満足することは自由だし否定はしない(笑)) 。タイヤの空気圧に関する情報の混乱を防ぐために、「空気圧評価者資格試験」を提案したい。
(次回に続く)
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