リアル80年代のロードレーサー: オーバーホール編
こんにちは
自転車が大好きなsilicate meltと申します。
前回からの続き
ヤフオクで19,000円で手に入れた自転車をオーバーホールして、中学生の頃に憧れた600EXのロードレーサーを完成させる、というお話です。
いつものことですが、長いです(笑)
1.フレームの素性が判明
昔の資料を調べて、このナショナルフレームの素性が判明しました。
上はサイクルスポーツ臨時増刊 実用カタログ '87(1986年発行)に掲載されているナショナルフレーム
グレードの高い順にNR-3100、NR-2050、NR-1050という3種類がありました。NR-3100について、カタログには「丹下チャンピオン No.2」とありますが、写真のステッカーから判断するとこれは「丹下No.1」の誤植のようです。
いずれもブランド名が書かれていないシンプルなフレーム
昔のスチールフレームは基本的に単色で、ブランドのロゴがあっても控えめでしたね。でも、ブランド名が全く無いというのは珍しかったと思います。
カタログに価格は書かれていません。
昔のナショナルは、購入したショップがショップブランドのデカールを貼った上で完成車とし、「ショップのオリジナルロード」と称して販売する形態が多かったようです。
フレームのカラーとデザインに多様性が出てきたのは、ナショナル自転車工業がPanasonicに改名して、POS(Panasonic Order System)を開始した頃(1987年)でした。
その頃のカタログを見てみます。
ナショナル時代のNRシリーズが消えて、PR-700とPR-500が誕生しました。
カタログに素材の記載はありませんが、PR-700には丹下No.1のステッカーが見えます。
PR-700にはオプション工作を追加することができました。
この中に集合シートステーのオプションがあったことが書かれています。
丹下No.1であること、メッキのチェーンステー、集合シートステーの形状、ラグの形状などから判断して、私のナショナルレーサーは「NR-3100」およびその後継の「PR-700」と同一のものであると考えられます。
ちなみに、1987年のPR-700のPOS(セミオーダー)の価格は単色で72,000円
当時と同じような仕様のフレームが、現在は191,400円だそうです。
この40年間の物価上昇率は30%ほどですが、価格は2.6倍相当ボッている利益率が相当よろしいんでしょうねぇ
2.ブレーキ
ナショナルレーサーに付いていたブレーキレバーはケーブルがハンドルの上に出る非エアロタイプ(BL-6208)古くさい昔ながらのデザインです。
当時、エアロタイプのブレーキレバーが出たばかりで、とても憧れました。
憧れすぎて、ロードマンにとんでも無い改造をして大失敗をしてしまったのですけどね(その出来事は以前、noteに書きました↓)
今回はもちろん、エアロタイプのレバー(BL-6209)に交換をします。
比較的キレイなレバーを通販ショップで見つけたので、ブレーキ本体、SIS対応のディレーラーとともに購入しました。
ブレーキ本体について、ナショナルレーサーに付属してきたBR-6207でも機能的には十分なのですが、ワタクシが憧れたのは、マイナーチェンジ後のBR-6208なのです。
その理由はタイヤガイドにあります。
ロードレーサーのキャリパーブレーキにはブレーキシューのところに
タイヤガイド(ホイールを交換するときにタイヤがブレーキ本体にスムーズに収まるようにするための部品)がついていました。
今のリムブレーキタイプのロードバイクでは、タイヤガイドはブレーキシューと一体化して目立たない存在になってしまいましたが、昔は別の部品として取り付けられていました。
ロードマンに乗っていた頃、このタイヤガイドのあるブレーキにとても憧れたものです。
「あぁ、タイヤガイドの無い僕のロードマンは、やっぱりスポーツ車じゃないんだなぁ、所詮ルック車なんだなぁ… 」
と、カタログを見るたびにため息をついておりました。
そんな頃、シマノのカタログで見た600EX(マイナーチェンジ後, BR-6208)のブレーキについている黒い大きなタイヤガイド
もう、これが今までにないほどのカッコ良さで、メロメロになってしまったんですよねぇ
僕はこのカッコいいBR-6208のキャリパーブレーキを中学校を卒業する頃に買い、アルテグラのデュアルピボットブレーキが出るまで使いました。
その後、使わなくなったBR-6208は金属ゴミとして捨ててしまいました。
(いくらヤフオクがなかった時代とはいえ、捨てるなんてバカですよねぇ)
捨てるときに記念に取っておこうと思ったのでしょうね。
当時のブレーキシューとタイヤガイドが一組だけ工具箱に残っています(笑)
そんなわけで、今回改めて、"思い出のキャリパーブレーキ" マイナーチェンジ後のBR-6208を購入しました。
実はですね。このBR-6208
当時の中学生の心をくすぐるカッコいいポイントがもうひとつありました。ピボットボルトの六角穴を塞ぐ黒いキャップ(上図)がついていたのです。
黒い大きなタイヤガイドに加えて、この黒いキャップも斬新でした。
なんだかよくわからないけど、このキャップもシマノが発明したすごい機能なんだろうなぁ… と漠然と思っていました。
今回あたらめて、手持ちのカタログ「SHIMANO Bicycle System Components The Componente Line, 1987」を見直したところ、この機能についてちゃんと説明があるのを発見しました。
「ワンピースブレーキシュー、ブラックアルマイト・タイヤガイド、ピボットボルトキャップでハイテック感を演出」
ハイテック感を演出
さすがシマノ
商売がうまいですねぇ
これにコロッといってしまった中学生が、全国に10人くらいはいたと思われます(笑)
さて、購入したブレーキレバー(BL-6209)は分解してクリーニング、グリスッアップをしました。
古いものですがブラケットカバーは結構丈夫で、取り外し、取り付けをしても問題なさそうです。
実はこの時代のシマノのブレーキレバーを取り付ける上で注意点があります。現在の純正ブレーキケーブルに付属してくるアウター受けが、昔のシマノのレバーには適合しないのです。
最初はこれに気がつかずに、調整がうまくいかず悩んでしまいました。
通販ショップで購入したブレーキレーバーに付属品として、少し大きなパーツがあったことを思い出し、それを使ったところ問題なく取り付けることができました。
昔のブレーキケーブルのアウター受けは現在よりも直径が大きかったのです。いまの小さなアウター受けを使うと、ぎこちない動きになり、レバーがうまく動作しません。これは74デュラのレバーでも同様ではないかと思います。
今回は通販ショップで購入したので、ショップ側もそのことを知っていて、このパーツを付けてくれたのでしょうね。
アウター受けなんてケーブル交換時に捨ててしまいそうですが、この時代のレバーを使うときには注意が必要ですね。
3.ディレーラー
1987年、デュラエース、600EX、105のすべてにSIS(Shimano Index System)を搭載するモデルチェンジが行われました。リアのシフトチェンジの際のシフトレバーの位置が自動的に決まるようになったのです。
これはもともとポジトロンシステムと呼ばれて、1970年代からジュニア向け自転車には搭載されていた技術でした。そのため、ロードレースの世界では当初は "オモチャ" として受け止められたそうです。
しかし、SISを搭載した74デュラはプロロードチームにも次々と供給されて、自然に受け入れられるようになりました。
この74デュラへのSISの搭載が、シマノによる世界制覇の始まりでした。
ワタクシは当時、中学3年生の4月で、乗る自転車がロードマンから中古のスポルティーフにアップグレードしたばかり。
Wレバーはもちろんフリクションレバーです(ギヤは6速)。
で、そのSISに憧れて、当時奮発して600EXのSIS対応のWレバー(SL-6208)と105のリアメカを買いました。
今回はそのWレバーを再利用するつもりです。
SISで使いますので、対応しているRD-6208を通販ショップで購入しました。
マイナーチェンジ前のRD-6207はパンタグラフが横に動くだけだったのが、マイナーチェンジ後のRD-6208ではダブルサーボパンタメカニズムが搭載されました。
これは上図のようにスプロケの大きさに合わせてパンタグラフが左下に動く仕組みで、これによりインデックスシフトによるスムーズな変速が可能となりました。
上の説明図はもう何度も見ていて、中学生の頃は
さすがシマノだよな、スゲーなぁ
と素直に感心していたのですが、実はコレ
もともとサンツアーの特許技術で、その期限が切れるタイミングで、シマノが真似をしたそうです。
さすがシマノだよな
(当時の "スゲーなぁ" は撤回したいと思う。最近まで知らなかった(笑))
購入したRD-6208のプーリーを分解してグリスアップしました。
ところがですね
ここで、ナショナルレーサーをSIS対応にする上で、ひとつ大きな問題があることに気がつきました
私が中学3年生のときに奮発して買った600EXのWレバーはバンド式
(なぜなら、中古のスポルティーフのフレームに台座が無かったから)
ところが、バンド式のレバー軸カバーは形が違っていて、直付け台座にはそのままでは取り付けができないのです。
ナショナルレーサーについてきたレバー軸カバーを流用して使うことは可能ですが、その場合にはフリクションモードだけで、インデックスシフトができないようです。
SIS対応レバーなのにフリクションモードでしか使えないのは、あまりにも悲しすぎるので、今回WレバーはナショナルレーサーについてきたSL-6207をそのまま使うことにしました。
すっかり忘れていたのですが、今回の件で思い出したことがあります。
同じことが過去にもあったのです。
私のスポルティーフは中古の古い車体でWレバー台座が無かったために、バンド式のレバーを買ったのですが、80年代後半にもなるとレバー台座の無いフレームなんて既に時代遅れ。
折角奮発して600EXのレバーを買ったのに、バンド式であったが故に、その後、他のフレームではWレバーを使い回すことができず、とても悲しい気持ちになったことを、今回再び思い出してしまいました (笑)
フリクションレバーを使うので、リアメカもナショナルレーサーについてきたRD-6207を使うことにしました。
プーリーを分解したところ、上側にヒビが入っていました。
ほとんど乗らずに同じ場所にテンションがかかったまま何年も放置されていたので、割れてしまったのだと思います。
上下とも新品の10Tプーリーに交換しました。
4.チェンホイールとボトムブラケット
ナショナルレーサーについてきたチェンホイールは初代デュラエースのものだったので、600EX(FC-6207)に交換します。
上の写真は私が使っていた600EXのチェンホイールです。
中学校を卒業する頃に初めて買って、その後にもうひとつ買いました。
このアルミ合金のシルバーのクランクがカッコよかったんだよねぇ
でも、2個とも15年前にヤフオクで売ってしまいました。
ワタクシ、基本的にコレクター的な趣味は無いので、使わないものは
「売る」か「捨てる」かのどちらかです。
当時のメモを見ると、左の箱入りは2500円で売れたようです。
いまヤフオクで探すと、600EXのチェンホイールで程度の良いモノが中々出てこない(その後の初代アルテグラなら、出品も多くて、それほど高くないのだけどねぇ)
特に600EXはクランクキャップまで付属しているものが少ないのだ
ヤフオクでなんとか見つけてゲット
15年前に2500円で売ったチェンホイールを9500円で買い戻すワタクシ(笑)
BB付きとはいえ、ちょっと高くついたなぁ
ナショナルフレームから取り外したボトムブラケット
初代デュラエースのものでした。
これはチェンホイールと一緒に落札したBBに交換しようと思っていたのですが、その600EXのBBがおそらく完成車からの取り外し品と思われるピカピカの新品だったので、使うのが勿体無く感じて、結局このデュラのBBを再利用することにしました。
綺麗にしてグリスアップをしたのち、フレームに取り付けました。
5.ホイール
上の写真はナショナルレーサーについてきたホイールです。
チューブラータイヤはおそらく40年前のもので、劣化していてひび割れているのですが、タイヤそのものはパンクをしていませんでした。
ハブをクリーニングしました。
中学生の頃、このクイックレバーの仕組みが不思議で分解したなぁ(笑)
ホイールからタイヤを剥がしてリムをクリーニングをしました。
スプロケはもともときれいだったのですが、チェーンのかかっていたトップギヤだけオイルが付着して汚れていたので、全部まとめて灯油で洗浄しました。
クリーニングしたリムに、リムセメントを2回下地塗りして、3回目でタイヤを貼りました。
タイヤはVittoria STRADA 21-28です。
6.ペダル
ナショナルレーサーについていたペダルは三ヶ島のやつだったので交換します。この頃のエアロペダル (特にデュラと600EXのやつ) がまたカッコよかったんだよねぇ
まぁ、僕は買えなかったので、105にしていたんですけどね。
でも、600EXのエアロペダルのトークリップはクロムメッキのスチール製なのに対し、105のトークリップは樹脂製のため、つま先のところが弱くてとても折れやすかったのです。
トークリップだけで1年で3回くらい買い換えたなぁ
そのトークリップ3個分の費用を考えると、実は600EXのペダルの価格とさほど変わらないことに気が付いて、涙目になったのでした(笑)
600EXのエアロペダル
ヤフオクで探すと、あるにはあるのですが、ほとんどがペダル本体だけで、トークリップが付いていません。
このトークリップはシマノのエアロペダルの専用形状なので、汎用品を流用できないのです。
ヤフオクに、中古パーツの専門店からセットモノがとても安い価格で出たのを見逃さず、すぐさま即決価格で落札しました。
状態:軸の回転が鈍く、総合的に使用感の強いお品です。
とのこと。
「使用感が強い」とあるけど、届いたペダルは古いグリースが固まって回りにくくなっているだけで、本体は傷の少ない良品でした。
ヤフオクを見ると、この時期のシマノのペダルは同じ症状(グリスが固まって回らない)になっているモノが多いみたいですね。
ペダルを分解したところ、グリースが固着してカチカチ、ベトベトになっていました。こんなときは灯油で「つけ置き洗い」です。
ペットボトルをカットした容器に灯油を入れ、部品ごとに(4ヶ所のベアリングが混在しないように)三角コーナー用の水切りネットに入れて、それらを灯油に浸します。
15分ほど置いたら、固まっていたグリースが灯油に自然に溶けてきれいになりました。
グリスアップしてペダルを組み立てました。
回転はとてもスムーズになりました。
トーストラップは手持ちのものを使う予定です。
ナショナルレーサーについてきた三ヶ島シルバンロードは、僕も昔ロードマンで使っていました。
今でも三ヶ島が生産をしていて、新品が売られているようですね。
上の写真は洗浄後の灯油の様子です。
灯油は万能洗浄剤です。
リムセメントも落ちますし、チューブラータイヤを貼った後の手の汚れも、灯油をつければすぐに取れます(手はその後食器用洗剤で洗う)。
Yahoo知恵袋だったかな?
チェーンの洗浄に灯油を使うか否かの質問で、
「灯油は捨てるのが面倒だからヤメた方がいい」
っていう回答がありました。
勿体ないねぇ
油で油を溶かす原理
洗浄後の灯油は、汚れ成分よりも洗浄のための灯油の方が割合がずっと大きい(つまりオイルの溶解度がとても高い)から、回収後に微粒子が沈殿して透明に戻った灯油は繰り返し何度も使えるのです。
ホビーサイクリストであれば多分、半永久的に使えます。
価格は1リットル100円
自転車をメンテする上で、お財布にも地球にもいちばん優しいのが灯油でしょうね。ワタクシ、市販のパーツクリーナーの類は一度も買ったことがありません(笑)
ちなみに、灯油を捨てたい時は汚れたウエスなどに吸収させて燃えるゴミとして捨てればよいだけです。
7.フレーム
フレーム全体をきれいに拭いてからワックスをかけました。
ヘッドパーツをきれいにして、グリスアップしたのち、フレームに取り付けました。
8.サドル
サドルは手持ちのサンマルコ ロールスを使います。
よく「サドル沼」って言いますけど、
僕はサドル沼にハマった経験がありません。
中学校を卒業する頃に最初にロールスを買って、これがフィットして、
ちょっとロールスは時代遅れかなぁ、と思うようになった2006年頃にフィジーク アリオネが大流行して、それにフィットして、今に至ります。
今は2台のLOOKのどちらもアリオネです。
サドルは、とりあえず「定番」と呼ばれているものを使うのが正解っぽいですね。
ロールスはこれまでに3個使ってきました。
2個はヤフオクで売ってしまって、一番最近買った新しいやつだけ、手元に残しておいたのです。最近と言っても25年前ですけどね(笑)。
当時の価格は2800円(もちろん新品ですよ)
ロールスってまだ売っているんですねぇ
現在の価格はスゴイことになっていますね…
ビックリしました。
ナショナルレーサーに付いてきたサカエのシートピラーを磨いてきれいにしました。このピラーも昔使ったことがあります。
中古で買ったスポルティーフに同じものがついていました。
9.その他
ブレーキケーブル、シフトケーブル、チェーン、バーテープ、ボトルゲージは新品に交換します。
バーテープは昔よく使っていたコットンバーテープにしました。
取り外した部品、購入したけど使わなかった部品です。
今後何かに使うかもしれないので、しばらく取っておこうと思う。
10.完成
80年代の中学生の憧れ
シマノ600EXフルセットのロードレーサーが完成した!
11.掛かった経費
今回、600EXレーサーを完成させるために要した費用は61,928円でした。
5万円以内とするつもりでしたが、使わないBBやSIS対応のリヤメカを買ったりしたせいで、だいぶオーバーしてしまいましたね。
でも、取り外した初代デュラのチェンホイールはヤフオクで売れば1万円以上の価値があるようなので、まぁ良しとしよう(笑)
乗ってみるのが楽しみだ!
(次回に続く)