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リアル80年代のロードレーサー: クロモリの走りを徹底調査 (その3)

こんにちは
自転車が大好きなsilicate meltと申します。

6月にヤフオクで80年代のロードレーサーを入手しまして、
それ以来、その "走り" をいろいろと調べています。

リアル80年代のロードレーサー
フレーム:National NR-3100 (パナモリの祖先)
パーツ:SHIMANO 600EX (ULTEGRAの祖先)

昔のクロモリロードって、"重い" & "遅い" というイメージがありますよね?
そのため、
遅くて当然だから、周りの目が気にならない」とか
速さを求めず、のんびり走るには最適
みたいなことがよく言われます(笑)

ところが実際に乗ってみますと、クロモリレーサーは主観的にも客観的にも決して遅いわけではなく、それどころか、
カーボンバイクに負けず劣らず意外と良い走りをする ことがわかりました。

主観的評価↓

客観的評価↓


しかしながら、クロモリレーサーにはひとつ重大な欠点があります。
フロントの振動吸収性が著しく劣ることです。
路面の悪いところでは、手が痺れてしまうほど振動が伝わってくるのです。

新素材フレームが少しずつ普及してきた90年代から2000年頃にかけて、
スチールフレームのフォークだけをカーボンフォークに交換するカスタムが流行りました。
振動吸収性の向上を狙ってのことです。

サイスポ「サイクルパーツオールカタログ 2004」
に掲載された各種カーボンフォーク

ただ自分は、このNationalレーサーをそこまでしようとは思いません
なぜなら、既にLOOKの万能なカーボンバイクを所有しており、快適なサイクリングをしたければ、それに乗ればよいからです。
むしろ逆に、

この振動吸収特性がダメダメなNationalレーサーでロングライドをしてみたら、どんなに大変なんだろう?

ということに興味が湧いてきました(笑)

ヒルクライムってとてもキツイですけど、それ以上の楽しさ、
爽快感とか達成感みたいなものがありますよね? 
だからみんな、週末には山に走りに行く訳です。
それと同じ感覚です。

こんなロードで長距離を走ったら間違いなく疲労が溜まるハズです。
ロングライドではクロモリとカーボンの性能差が現れるに違いありません。
そのことを確かめるべく、今回は ロングライドでのパワーメーター試験 を行いました。

1.ロングライド試験の方法


< コース >

図1.ロングライド試験のコース

秋田から出発して県南の雄勝まで行き、松の木峠(トンネル)を超えて、本荘経由で戻ってくる、一周210kmのコースです(図1)。
このコースを6区間に分けました。

第1区間 秋田→大曲 53km:国道13号線、アップダウンのある平坦路
第2区間 大曲→湯沢 35km:県道13号線、117号線など、平坦路
第3区間 湯沢→雄勝 18km:国道13号線、少しずつ登る平坦路、標高80m→180m
第4区間 雄勝→松の木峠(トンネル) 6.5km:国道108号線、緩傾斜のヒルクライム、標高180m→420m
第5区間 松の木峠→本荘 52km:国道108号線、ダウンヒル+平坦路
第6区間 本荘→道川 23km:国道7号線、平坦路

第6区間が道川までとなっているのは、Nationalレーサーで走った際に、国道7号線のJR道川駅付近を過ぎたところでGarminがフリーズしてしまったためです(これについては後述)。

< 比較するロードバイク >

次の3台のロードバイクで各区間での "走り" を比較します。
GPSサイコンはGarmin Edge840
パワーメーターはGarmin RK100を使用しました。

< 走り方 >

ワタクシのロングライドは、気ままなソロのサイクリングでありまして、レース等に向けたトレーニング的な走りではないので、走行中はケイデンス、心拍数、パワーメーター等の数値はほとんど見ていません(ログを取るだけ)。

第1区間と第2区間はほぼ休み無しで走れるのですが、その後は疲れが出てくるので、各区間内で適宜休憩をしています。
疲れていなくても、景色の良いところではロードバイクを降りて眺めを楽しんだり、写真を撮ったりするような走り方をしています。

 

< 比較の方法 >


図2.ある決まった距離を走るために必要なエネルギーの総量(横軸)と
その区間の平均速度(縦軸)の関係を示す概念図

各区間を走行したときのパワーの合計(投入エネルギー量)とその区間内の平均速度の関係を、3台のロードバイクで比較します。
ただし、比較は簡単ではありません。投入エネルギー量が多ければ速度も速くなりますが、気象条件にも大きく左右されます

投入エネルギーが同じでも、当然ながら追い風であれば速度は速くなるし、向かい風なら遅くなります。また、気温が低いと空気の密度が高くなることに加えて、ウエアの空気抵抗も大きくなりやすいため、速度は遅くなります(図2)。
したがってロードバイクの "走り" は、投入エネルギーと速度の関係だけでなく、走行時の気温と風向も加味した上で、総合的に比較をする必要があります

表1,それぞれのロードバイクで走ったときの気象条件のまとめ
気温、風向き、風力は気象庁による各地のその時間帯での観測値

表1に各バイクでの走行時の気象条件をまとめます。
天候はいずれも晴天でした。
LOOK565で走行した2月17日は気温が低かったために、明らかに走りが重く感じました。それと比べると、LOOK595で走行した4月13日はサイクリングには最適な気温で、快調なペースで走ることができました。
Nationalレーサーで走行した6月29日は、4月13日よりも気温が6〜10℃ほど高く少し蒸し暑さを感じましたが、風向きと風力は4月13日とほぼ同じでした。


2.ロングライド試験の結果


第1区間:秋田→大曲 53km


6月29日 6時13分
、自宅を出発

気温21℃、天気は晴れ
絶好のコンディションのもと、国道13号線を快走する。


8時18分53km地点の大曲(雄物川の看板)に到着

図3.第1区間の投入エネルギーと平均走行速度の関係
LOOK565(2月17日)、LOOK595(4月13日)、Nationalレーサー(6月29日)の比較
赤がネット速度、青がグロス速度

第1区間(53km)の投入エネルギーと平均速度の関係を図3に示します。
パワーが大きくなるにつれて速度も低下しているのは、気温の差による空気抵抗の違い(空気密度+ウエアの違い)によるものと思われます。

Nationalレーサーは最も少ないエネルギーで最も速く走ることができた。
気温差を考慮すると、

NationalレーサーとLOOK595は引き分け


第2区間:大曲→湯沢 35km



横手盆地の農村地帯を貫く県道13号線
交差点が少なく走りやすい

皆瀬川を渡る雄平橋

9時48分88km地点のグランマート湯沢店に到着。
ここで最初の休憩タイムです。

図4.第2区間の投入エネルギーと平均走行速度の関係
LOOK565(2月17日)、LOOK595(4月13日)、Nationalレーサー(6月29日)の比較
赤がネット速度、青がグロス速度

第2区間(35km)の投入エネルギーと平均速度の関係を図4に示します。
エネルギー投入量の最も大きな565が最も遅かったのは、第一区間と同じく気温が低かったことによるものと考えられる。

第一区間に続いて第二区間でも、
Nationalレーサーは快調なペースで、595と遜色のない走りをすることができた。

NationalレーサーとLOOK595は引き分け




ここではいつもパンを買うのだけれども、
今日は早く着きすぎたせいで (まだ午前9時50分)、パン屋さんにはまだ商品が並んでおりませんでした。

「のり弁」と「鍋焼きうどん」を食べてエネルギーを補充しました。
炒飯のおにぎりと大福はウエアのポケットに入れておく補給食です。

イートインコーナーの冷水機でボトルに水を補充しました。
結局グランマートには40分近く滞在してしまいました。
ここのイートインは居心地がよいので、つい長居をしてしまいます。

第3区間:湯沢→雄勝 18km


雄勝に向かってスタートします。

国道13号線に、とても綺麗な作りたての舗装路がありました。
こうしたところでは、タイヤの転がり抵抗が低下して速度がアップすることがよくわかります。


< 途中で見かけたレトロな自転車店 >

国道13号線を走行中、道路脇の自転車店の前に 懐かしい自転車 があったような気がして、20mほど通り過ぎてから戻って再確認した。

走行中にみかけたレトロな自転車店
看板がなかったが、帰宅してからGoogleMapで調べたところ
「大沼輪業」というらしい。
クチコミが1件だけあり「客を見たことがない」と書かれていた(笑)

ブリヂストンのレイダック(RADAC)

レイダックにはロードレーサーモデルもあったけれども、自分的には
レイダックと言えば、このフラットバーの自転車です。
そして、これは

日本で最初に発売されたクロスバイク


でもあるのです。
(クロスバイクとフラットバーロードを区別せず、700C WOタイヤで泥除けがなく、ダイヤモンドフレーム、フラットバーハンドルで、マスプロメーカーが普及させたものを "クロスバイク" と定義するなら)

ブリジストン RADAC(1987年)
定価59,800円
前三角がアルミでそれ以外はスチール
4つのフレームサイズx5色のバリエーションで
フラットバー仕様とドロップハンドル仕様があった。

当時はまだクロスバイクという呼び名はなく、「フィットネス自転車」とか、そんな呼び方をしておりました。
フィットネス自転車は、スポーツ車ではあるけれどもレース用ではなく、街乗りや気軽な運動に最適な、軽快に走ることのできる自転車であり、同時期にミヤタ、Panasonicからも同様な自転車が発売されていました。

ちなみに、wikipediaの「クロスバイク」の説明では、アラヤが1989年に発売したMF700-CX-Fがクロスバイクの起源であると書かれていますが、ちょっと違いますね。BS、ミヤタ、パナソニックの方が先です。
アラヤは他メーカーのマネをして、後発で自社のMTBを改造してフィットネス自転車風に仕立て上げただけです。


レイダックを観察していると、店舗に併設された住宅の方から
いらっしゃい、なんか用だすか?
と店主(70代くらいのオジさん)が現れた。

懐かしい自転車があったので、拝見させてもらっていたところです!
と返答し、店主さんと、しばし談笑する。
ちなみに、バリバリの秋田弁である。
このレイダックは、乗らなくなったお客さんから引き取ったもので、今は店主の息子さんがたまに乗っているとのこと。

私:「とても綺麗で、ぜんぜん古く見えないですね
店主:「なーんも、古くたって整備せば、ずっと乗れるべぇ
   「自転車とはそういうもんじゃ

実は今日、私もこのレイダックと同じ頃の、古い自転車でサイクリングをしているんです。 意外に速く走れるので驚いています!
と私が話すと、
店主のオジさんは
いまだば、カーボンだなんだ言われるども、古いのだって走るんだ
と答えた。
そして、私のNationalレーサーのタイヤを触りながら、
こえだば、チューブラータイヤでねが?
  (標準語訳:これは、チューブラータイヤですよね?)
と話した。

大変失礼なのだが、
この、どう見てもロードバイクとは無縁の、田舎の寂れた自転車店の店主さんから、「カーボン」や「チューブラー」といったワードがポンポン出てくることに、

さすがプロの自転車屋だ!


と感銘させられたのであった(笑)

こちらの自転車店、丸石サイクルと取引しているそうである。
店内を少しばかし見学させてもらったのだが、
こちらも相当年季が入っていた

入口すぐの最も目立つ壁にかけられた、
ジュニアスポーツ車ドロップハンドル車

ロードのプロショップなら、デュラやアルテの完成車が飾られるポジションだが、この店舗では上の2台が "ショップの象徴" 的に展示されていたのであった。

ジュニアスポーツ車は丸石製で、店主のオジさんが何十年も前に箱から出して組み立てた新車だそうである。
赤いドロップハンドル車はランドナーに見えるがそうではない。
70年代から80年代にかけて流行ったロードマン系のルック車である。

この、ランドナーでもスポルティーフでもロードレーサーでもない、
ロードマン系統のドロップハンドル車を何と呼べばよいのか? 
適切な車種名が無いので、いつも悩まされる(笑)

この赤いドロップハンドル車も丸石製
昔こちらのお店で売ったもので、その後乗らなくなったお客さんから引き取った車体とのこと。
その他、店内にはバイクや修理中の除雪機などもあり、そうした機械全般を取り扱っている "地域の人々の駆け込み寺" 的なお店のようであった。

店主のおじさんにお礼を言って、再出発をした。



11時17分106km地点
第3区間のゴール
国道13号線から国道108号線への分岐地点に到着した。

図5.第3区間の投入エネルギーと平均走行速度の関係
LOOK565(2月17日)、LOOK595(4月13日)、Nationalレーサー(6月29日)の比較
赤がネット速度、青がグロス速度

第3区間(18km)の投入エネルギーと平均速度の関係を図5に示す。
レトロな自転車店を見学させてもらったため、Nationalレーサーではネット速度とグロス速度の差が大きくなった。
Nationalレーサーは595よりも投入エネルギーが多かったが、ネット速度は少し遅くなった。緩傾斜の登りが続いたためかもしれない。
という訳で、第3区間は

LOOK595の勝ち、Nationalレーサーの負け


第4区間:雄勝→松の木トンネル 6.5km


さっきまで走ってきた国道13号線を橋で越えて、
国道108号線のヒルクライムコースに入る。

Nationalレーサーのギヤ比は、インナーロー 42x21T
前半の勾配は3%程度なのだが後半では平均6%となり、ときおり8%の場所もあるので油断できない。
もとからタイムなどは期待できないので、とにかく "足つき" をしないように意識しながら、パワーを控えめにして慎重に登った。

11時17分113km地点、頂上の松の木トンネルに到着
実は本日の一番の心配がこの区間だったのだが、なんとか重いギヤでも足つきをすることなく登ることができた。

図6.第4区間の投入エネルギーと平均走行速度の関係
LOOK565(2月17日)、LOOK595(4月13日)、Nationalレーサー(6月29日)の比較
赤がネット速度、青がグロス速度

第4区間(6.5km)の投入エネルギーと平均速度の関係を図6に示します。
2月に565で来たときには、なんども休憩をして時間が掛かってしまいました。今回は4月に595で来たときよりも少し遅かったが、エネルギー投入量もやや少なかった。したがって、第4区間は

NationalレーサーとLOOK595は引き分け



第5区間:松の木トンネル→本荘 52km


松の木トンネルを過ぎてすぐのところにある、松の木峠橋

道の駅 鳥海郷にて15分休憩
アイスを食べる。

西滝沢水辺プラザにて20分休憩

由利本荘の市街地までやってきた

15時7分165km地点のグランマート本荘店に到着。
イートインコーナで休憩をする。

図7.第5区間の投入エネルギーと平均走行速度の関係
LOOK565(2月17日)、LOOK595(4月13日)、Nationalレーサー(6月29日)の比較
赤がネット速度、青がグロス速度

第5区間(52km)の投入エネルギーと平均速度の関係を図7に示します。
3回の比較ではネット速度は変わらないが、2月の565がもっともエネルギー投入量が少なかったのは、595や今回と比較して向かい風が弱かったからである。
今回は565や595のときよりも休憩を多くとったため、ネット速度とグロス速度の差が大きくなった。
Nationalレーサーと595ではネット速度が同じでパワーが少し違うが、いずれも強い向かい風であったので、風向と風力の僅かな違いによるものであると思われる。よって第5区間は

NationalレーサーとLOOK595は引き分け


第6区間:本荘→道川 23km


グランマート本荘店で30分ほど休憩したのち、再出発をした。

国道7号線を海沿いに北上する。

16時53分、191km地点のJR道川駅を過ぎたあたりで
GARMINがナビを表示したままフリーズ してしまった。
どのボタンを押しても全く反応せず、起動ボタンの長押しによるシャットダウンすらできない状態。原因は不明。
ここまでのログは残っていたが、ここから先はログを記録することができなかった。そのため、第6区間は道川駅までとした。

なお、GARMINは自宅に帰ってからPCに繋いだところ、本体のボタンがアクティブになり再起動できるようになった。


秋田の市街地まで帰って来た。

17時55分、自宅に到着
Garmin Connetの地図上の走行距離は210km

図8.第6区間の投入エネルギーと平均走行速度の関係
LOOK565(2月17日)、LOOK595(4月13日)、Nationalレーサー(6月29日)の比較
赤がネット速度、青がグロス速度

第6区間(23km)の投入エネルギーと平均速度の関係を図8に示します。
NationalレーサーはLOOK595よりも少ないエネルギーで走行したにも関わらず、ネット速度がやや速かった。しかし、一方で595は風向き的に不利な条件であったとも考えられる。
したがって、第6区間は

NationalレーサーとLOOK595は引き分け


3.まとめ


1周210kmのロングライドコースを、LOOK565、LOOK595、Nationalレーサーでそれぞれ走ったときの走行ログの比較から、次のことが判明した。

(1)LOOK565は各区間での速度が最も遅かったが、これは真冬の走行で気温が低かったことによるものと考えられる。

(2)4月のLOOK595と6月のNationalレーサーでは、気温差は小さく、風向きと風力も同等であった。また、使用したタイヤも同じ(Vittoria STRADA)なので、タイヤの転がり抵抗に差はない。したがって、LOOK595とNationalレーサーの比較から、カーボンとクロモリの "走りの違い" を読み取れるものと期待された。
しかしながら、6区間のうち5つの区間において、NationalレーサーとLOOK595の走りは「引き分け」と評価され、第3区間でのみLOOK595の「勝ち」と評価された。
NationalレーサーはロングライドにおいてもLOOK595のカーボンバイクと遜色のない走りをすることが確認された (少なくとも200kmまでは)

(3)ロングライドでの "走り" は、何に乗るか? ということよりも、季節(気温)の違いに大きく影響を受けることが分かった
冬にカーボンバイクに乗るよりも、夏にクロモリレーサーで走った方が、より省エネでより速く走れることが確認された。

(4)クロモリレーサーは振動吸収性が劣るため、そのことがロングライドでの走りに影響するものと思われた。
ところが、結果的には最後まで速度が落ちることなく、クロモリでもカーボンバイクと同等の走りをすることができた。
これはなぜかと言うと、振動に体が慣れてしまうからである(笑)
ただし、これはワタクシの場合であって、もちろん人によって異なる可能性がある。また、200km以上の距離でもガマンできるのかどうかは、試してみないとわからない(笑)

この "ガマン" とか "慣れ" みたいな話は、
「自転車に何を求めるのか?」
 「サイクリングをどのように楽しむのか? 」ということに直結する、真面目に考えるととても深淵な話題なのだが、ここでは深入りしないことにしておく。

とりあえず、

クロモリレーサーは短距離走行だけでなく、ロングライドにおいてもカーボンバイクに引けを取らない "良い走り" をする

と結論し、本稿を終えることにしたい。

(次回に続く)


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