香りは沈黙の言葉
デパートに漂う香水の香りが、僕に、ある女性を思い出させた。彼女のことは、もう忘れたはずだったのにーー
ある香りをかいだ時に、記憶がよみがえる現象を、「プルースト効果」と呼ぶ。
名前の由来は、フランスの小説家マルセル・プルースト氏の『失われた時を求めて』だ。主人公が、紅茶にひたしたマドレーヌの香りで、母親のことを思い出す描写から。
多くの生物が、嗅覚を使ってコミュニケーションをはかっているのは、言うまでもないこと。
では、人間の場合はどうなのか。
最新の研究で。ヒトは、1兆種類の香りを感知できると判明。これは、事前予想の1万という数字を、はるかに越えた結果だった。
私たちの「わかる」色は約100万
私たちの「わかる」音は約50万
嗅覚、すごい。
我々は、嗅覚上皮と呼ばれる帯状の組織に、何百万もの感覚神経細胞をもつ。この細胞には、におい分子と結合する、数百種類の受容体がある。
受容体が「錠前」で、香りが「鍵」。
多くの錠前と多くの鍵は、互いに反応しあい、活性化しあう。無数の錠前と鍵がつくる、複雑な神経コードが、これはバラの香りだ・これは芝生の香りだなどと、最終的に我々に識別させる。
仕組み的には、あらゆる「感覚」の中で比べて、いたってシンプルである。
ギリシャ語の pherein(続ける)と horman(興奮させる、刺激する)。フェロモンの語源だ。
口ほどに物を言うのは、きっと、目だけじゃない。