ブラック・キャット・クロセス・ユア・パス


「へっへ、最初からそうすればいいんだよ」「アイエエエ…」
ゲームセンターの裏通りではカツアゲがチャメシ・インシデントだ。
ゲーセン内部から目星をつけて尾行し、路地裏でカツアゲする。
不幸にも財布を奪われてしまった少年、ヤヌカはその手法を知らなかったためにカツアゲの餌食となってしまった。
「俺は早くバリキ飲みてぇ」「いやZBRだ」
路地裏に倒れただ項垂れることしか出来ないヤヌカ。しかし彼を助ける者はいない。マッポなど頼りになるはずもないのだから。
どうしよう…ヤヌカは悩む。でも何も浮かばない。
(ブッダ…助けてください…)
困ったときのブッダ頼み、助けてくれたことはたぶんない。
おお、ブッダ。この程度の悪事は寝たふりを決め込むのですか!
「ね、あいつらこれ落としていったよ」「アイエ?」
目の前にネコミミの少女がいた。薄汚い路上パンクスだろうか?
その無教養な立ち振舞い、格好、どうみてもまともな奴ではなかろう。
しかしその手には確かに先程カツアゲされた財布があったのだ!
(ブッダ…ありがとうございます!)
…目の前の人より先にブッダに感謝するとは如何なることか、ともあれヤヌカは目の前のネコミミ女に感謝した。
「あ、ありがとうございます…!」
「へっへーん。あ、ちょっと中身増えてるかもしれないけど気にしないでね。じゃあね!」
ネコミミ女は路地裏に消えていった。あれは誰なんだろう?ともあれ助けてくれたことには変わりない。
あのネコミミの言うとおり、何故か中身が増えている。具体的には、5千円が15万円に。なんと30倍!
「アイエッ!?」
モアゲは困惑した。これはどうすればいいんだろう!?なんと言ってくれたら信じて貰えるんだろう?
帰路につきながらヤヌカはそのお金の使い道を考え、そして決めた。
(あ、あの女の人に返そう。それがいい…)
元々持っていた5千円だけ懐に入れて、ヤヌカはそう決めた。

マグロ目のサラリマンの群れの中を行く登校路。
スクールバスの停留場までは7、8分。無表情なネオン看板やビルが森林めいて乱立する。
「イエー 猿が行く 猿の中を」
イヤホンからけだるいロックミュージックを耳に流し込みながら花も鳥もない道を行く。
何もない道だ。少なくとも路地裏に入らない限りは。
だが今日はやけに騒々しかった。
「アーコラー」「デモ?ザッケンナコラー」「私達はキツネミミ社の横暴に抵抗しなくてはいけません」
バス停留場の近く、道を遮るようにデモ隊が抗議のイベントを行っていたのだ。
(キツネミミ社…関わらないでおこう)
キツネミミ社…幅広い事業を手掛ける新興企業だが、怪しい噂も多い。ましてカチグミでもないし信用できたものでもない。
どうせ次の停留場も遠くない。5分歩けば着くし時間はもっと余裕だ。
大通りを横に曲がろうとしたヤヌカは横切った影に思わず足を止める。
その路地裏の黒猫を擬人化したような女が…そう、先日助けてくれた女の子が横切っていったのだから。
(ど、どういうこと…!?あ、そうだお金返さないと…!)
こんな大金持ってたくない、そう思ってヤヌカはその影を追いかけ路地裏に歩み入った。

カタカタカタとタイピング音が鳴り響き、モニターに会話が映されていく。
ftncl:それで、やっぱり繋がってたか
bldat:間違いありません。自分の目とマッポにも確認させました。十割クロです
ftnclとbldatの会話を見た他の人々が発言していく。
30715:なんてことを!やはりあいつらはグルでしたか!
11734:ど、どうすればいいんですか!?
一斉に焦りのアトモスフィアが漂う。だがftnclとbldatはそれは全く関係ないと言わんばかりに会議を進めていく。
bldat:表立って派手にやるわけにはいきませんからね。まあコッソリとやります。幸い味方は多いです
ftncl:ま、そうだな。おっと連絡。…お、いい感じだそうだ。
bldat:そうですか。問題なさそうですね
ftncl:ただ出動あるかも、だと
bldat:いつでも行けますよ
恐る恐る一人が会話に割り込む
29921:私達はどうすればいいんでしょう?
ftncl:確か手筈が…あった。これの通りに
29921:ハイヨロコンデー!
やるべきことが示され、焦りと迷いが消えていく。
bldat:あとは…向こうがどれだけうまくやってくれるか、ですね
ftncl:そうだな。俺も準備してくる

ヤヌカは尾行を続けた。
ネコミミ女はどんどん路地裏の奥深くへ入っていく。
ここは天然の迷路だ。人工の迷いの森は入ったら身ぐるみ剥がされるとの噂である。
どうしてこんな所へ…だが妙に迷いのない足取りであった。
やがてある廃ビルに入っていく。
ヤヌカもこっそり入っていく。
(い、いない!?)
見失うような時間ではないはず、なのに影も形もない!
「さっきから何してるのかな?」
後ろから聞いたことのある声!振り向くとそこには盗賊めいたワーキャットが立っていた。
「ア、アイエエエ!?」
「わ、声を出さないで!」
慌てて黙って、のジェスチャーをするワーキャット。しかし
「「「ザッケンナコラー!!」」」ナムサン!マシンガンを装備したクローンヤクザが現れる!
(ア、アイエエエ!!??)
こんなに危ないことになってしまうなんて!ブッダ、お助けください!
だがヤヌカを救ったのはブッダではなくまたもワーキャットであった。
「イヤーッ!」横に飛びヤヌカを抱え物陰に転がし、取り出した弓みたいな廃材を構える!わずか1秒!
そしてすでにそのワーキャットはヤヌカのそばにいない!どこへ?空中へ!
「イヤーッ!」「「「グワーッ!」」」一斉にクローンヤクザ悲鳴!そして絶命!
ニンジャ動体視力をお持ちの皆さんはとっくに気付いているであろう!
このワーキャットのニンジャ…シャイニングボウはクローンヤクザの射線を振り切った直後矢を連射しクローンヤクザを全員射殺したのである!ワザマエ!
「イヤーッ!」そしてドアのほうに矢を連射!何故?「グワーッ!」悲鳴!
矢を被弾し肩から血を流したニンジャがドアを破ってエントリー!
「ドーモ、インクリースです」「ドーモ、インクリース=サン。シャイニングボウです」
着地したシャイニングボウとエントリーしたインクリースがアイサツを交わす!
(ニンジャ!?ニンジャナンデ!?あのネコミミチャンがニンジャ…!?)
物書から眺めていたヤヌカはNRSを起こしながらシャイニングボウのイクサを見ていた。
「財布おいてけー!イヤーッ!」先に動いたのはシャイニングボウ!草色の光の矢を複数放つ!
「イヤーッ!」インクリースは跳躍回避!
(あ、大丈夫。余裕ね!)
その回避を見てシャイニングボウは相手の力量を判断する。相手はなんてことないサンシタだ。
「イヤーッ!」走りながら光る矢を続けて放つシャイニングボウ!インクリースは回避を試みるが「グワーッ!」回避先に矢!
「イヤーッ!」接近を拒むように矢を連射するシャイニングボウ。インクリースはまるで近付けぬ!
(な、何故だ!何故私が…!)
慌ててジツの発動を試みるインクリース。精神集中、そしてボンッと現れる二人目、三人目のインクリース!ブンシン・ジツである!
しかし「グワーッ!」消滅!「グワーッ!」消滅!立て続けに矢を浴びせるシャイニングボウ!
インクリースも負けてはおらぬ!ブンシンを増やす!消滅!増やす!消滅!増やす!消滅しない!
よし、ジリー・プアーを抜け出した、今こそ反撃の時!そう意気込むインクリースの股間に向けて矢!
「「「グワーッ!」」」ブンシンも全員股間に矢を受けて消滅!
「ア、アバーッ!?」痛みに悶絶するインクリース。勿論そんな隙を見逃すシャイニングボウではない!
「さあ財布おいていきなー!イヤーッ!」長く引いた弓からひときわ輝く矢を放つ!
「グワーッ!」インクリースの股間に再び炸裂!ボールが壊死!
「サヨナラ!」肉体が弾け飛ばんほどの痛みに爆発四散!
「アイエ!?アイエエエ!?」
ヤヌカはニンジャのイクサを間近で見てしまったこと、爆発四散まで眺めてしまったことにより重篤なNRSを発祥、しめやかに失禁していた。
インクリースの持ち物を回収したシャイニングボウがその酷い有り様のヤヌカに近づく。こんな場所で一人でいれば実際死ぬ。置いていくわけにはいかない。
「ほら、しっかりして!ついてきて!」
シャイニングボウに選ぶほどの語彙はない。彼女も困っていた。
ふと気付いてタッパーからスシを取り出し、ヤヌカの口に突っ込む。
「アバッ!?オボボッ!?」
「気付いた?大丈夫?」
「アッ…ハイ…」
美味なスシの味で辛うじて正気を取り戻すヤヌカ。
「それじゃ行くよ!」
「アイエ!?」
おもむろにヤヌカを担ぎ、シャイニングボウは駆け上がる!
「アイエエエ!?アイエエエ!!?」
そのジェットコースターじみた速度にヤヌカは再び失禁した。

「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」
立ちふさがるクローンヤクザを射殺しつつシャイニングボウはビルを登る。その目的はこの廃ビルで行われてるダンゴウの退廃的風景の盗聴ないし盗撮。
勿論シャイニングボウにそんな知識はない。装束に小型カメラを取り付けてあり、忍び込めばいいようにしてある。
このダンゴウ…オオテ・ファンド、ナンカン社など…は今キツネミミ社の事業強奪の反対運動の支援者の集いであった。
彼らは再開発としてキヌゴシ地区の工業地帯を買収し、新たに整備することを発表していた。
しかしその実態は自らの事業でキヌゴシ地区を乗っ取るというものであった。
キヌゴシ地区には高度な技術力のある町工場が集っておりそれが失われれば技術的損失は大きく、関連事業を考慮すると万の人間が路頭に迷うだろう。
キツネミミ社はニンジャ戦力を用いてこの真相を掴み、買収に乗り込み、そして買収合戦に勝った。 
合法的に勝たれては打てる手が少ない。そのためオオテ・ファンド筆頭にキツネミミ社への妨害工作を開始したのである。ニンジャ戦力も投与して。
だがニンジャ戦力はキツネミミ社も有していることを予想していなかった。それも、連合を更に上回るほどの。

「イヤーッ!」「グワーッ!」
「ア、アバー…」
シャイニングボウの手には今日ふたつ目のニンジャの財布が握られていた。
「こんなもん?財布も貰ったしもう用はないよ!じゃあね!」倒れたニンジャの股間を踏み潰す!爆発四散!
「アイエッ!?」ヤヌカはその殺し様に恐怖した。この可愛らしいワーキャット、なんと恐ろしい存在か!
「じゃあ行こうか」「ハ…ハイ…!」
逆らったら自分も股間を強打され、殺される!ヤヌカの全身は恐怖に支配されていた。
シャイニングボウは大きな耳を壁に当て、そして天井裏に潜り込む。ヤヌカも共に。
そして排気口からある部屋を見下ろした。
そこにはオイランドロイドやリアルオイランを侍らせた反キツネミミ連合の重役達である!
(あースシ食べたいー!!いいなー!)
シャイニングボウは呑気であった。
何故なら既に周囲のニンジャ戦力がないことを確認しているからだ。
そして頭巾に取り付けられたカメラでその光景を盗撮する。
「大丈夫ですよ!ニンジャがいますから!」「ええ、シロヅカ=サンも殺して、事業を吸収して我らは更に成長します!」
カチグミサラリマン達はもっと呑気であった。
その頭上に彼らの企業ニンジャを容易く殺めたニンジャがいることも知らずに。ましてやシロヅカ・ハルミがそれよりも遥かに強大なニンジャであることも知らずに…!

sngbw:これでいい?
ftncl:パーフェクト。ひとまず休んでていいぜ
sngbw:わーい
ケモノミミと尻尾のあるオイランドロイド…否、キツネミミ社のニンジャはunixと直結したまま映像データを編集、そして部下に配布した。
工作は間もなく完了だ。

町中がどよめいていた。サイバーサングラスのニュースに、街頭のモニターに突然カチグミサラリマンの退廃的娯楽風景が映されたのだから。
オオテ・ファンド社長、ナンカン社長、その他反キツネミミ連合の重役達が…
「アイエエエ!?」道端のサラリマンがショックで気絶!ナムサン!彼は下落する株価に絶望したのだ!
急速に売り払われる株!勿論道端で泡を吹くサラリマンだけが絶望しているわけではない!

「アイエエエ!!」「アバーっ!アバーッ!」
シャイニングボウが面白がって笑う下、反キツネミミ連合は奈落に落ちるかの如く自社の株価に自身も地獄に落ちるかの如く錯覚を感じていた。
「なんだろね?かぶかって。スシを落としたら私もがっかりするけどさ」
シャイニングボウにそんな概念など理解できるはずもないが、とにかく自分の行動がしっかり実を結んだことだけは解った。
「ほいっと」すたっと着地し、ヤヌカを促す。
そして手をつけられてないオーガニック・スシをちょっと気取って食べてみる。
「ウマーイ!」なんだこの旨さは!?こんな旨いものがあっていいのか!? シャイニングボウは未知の美味に恐怖を覚えるほどだった。
「ね、食べよ食べよ」ヤヌカにも促す。
オーガニック・スシ。カチグミでもなければ食えないそれが目の前に。
ヤヌカはちょっとした罪悪感とともに、促されるまま食べてみた。
凄まじく旨かった!

シャイニングボウとともにスシを食うヤヌカは部屋においてあるテレビに流れている速報を見る。
クツシタ地区で暴動発生。その映像には…ナムアミダブツ!炎上するヤヌカの学校のスクールバス! 
(アイエエエ!)
ヤヌカは自身の気紛れと良心がなければ死んでいたであろうという未来を実感した。
サイオー・ホースによりヤヌカは命拾いしたのだ。
その画像が…すぐに切り替わってしまったが戦闘用オイランドロイドらしき影がオムラ製であろうロボットと対峙している画像が映された。
オイランドロイドとはいえすぐ破壊されてしまうであろう。
シャイニングボウはどうやら意味をあまり理解してないようでスシを食っていたが、そのオイランドロイドを見た瞬間動きが止まる。
「行かなきゃ」「えっ?」「フォーチュンクロー=サンが戦っている」
フォーチュンクロー?一体?
そんなことを考えている間にシャイニングボウはオーガニック・スシをありったけタッパーに詰めて、ドアを解錠した。
「よっと」「アイエッ!?」
そしてヤヌカを担ぎ、ビルを跳躍していく。
「アイエエエ!?」再びのジェットコースター人運びにヤヌカは今日何度目かわからない失禁をした。
 
クツシタ地区ではオオテ・ファンドの傭兵舞台とキツネミミ社のニンジャないし精鋭が戦闘をしていた。
「イヤーッ!」「イヤーッ!」クローとカタナが交錯!切れたのは…カタナ!
「何っ!?」「隙有り!死ねー!」
オイランドロイドの…否!フォーチュンクローのビーストカラテから放たれる牙めいたヌキテがイアイドーのニンジャの首を裂き、切断!「サヨナラ!」爆発四散!
フォーチュンクローは無傷ではなかった。勝負を急がねば、敵援軍と挟み撃ちにされていた。
(ちっ、もう来たか!)
直後、背後から重サイバネの傭兵が現れる!
(くそっ!こんな体じゃなけりゃな!)
キツネミミ社精鋭と違い、彼は重サイバネの身。ノイズグレネードを投げれば彼は硬直し、唯一のニンジャ戦力が機能しなくなってしまう。無論それは敗北行為である。
(早く来てくれ!誰か!)
だがそんな彼の願いを打ち消すかのようにさらに二方向から敵増援!万事休すか!
「敵はそこにあり!撃て!」
bratatatatatata!!「グワーッ!」だが悲鳴は敵から!フレンドリーファイア?
「ドーモ、フォーチュンクロー=サン。ブレイドアーツです。遅くなりました」
「ドーモ、ブレイドアーツ=サン。フォーチュンクローです。ああ、遅かったぞ」ワーキツネのニンジャ、ブレイドアーツとアイサツを交わす。
状況は好転か、味方の士気が高まる。
「まだ終わりじゃないそうですよ?」「勘弁してくれよ!」
その言葉通り殺意を放つ重厚な落下音!
「「「ドーモ、モーターヤブは投降を受け付けません!」」」
「ファック!三台かよ!」フォーチュンクローは文句を言いつつ突撃!ブレイドアーツは味方に隠れるよう指示を出す。被害を最小限に抑えるための行動である。
「イヤーッ!」フォーチュンクローのワン・インチ距離からのアッパー!体勢を崩す狙い!フォーチュンクローはとにかく接近し集中砲火を避ける狙い。実際ガトリングを受け続ければ死ぬ!
ブレイドアーツは後方から援護に徹する。可能な限りフォーチュンクローへの攻撃を妨害する。
だがヤブが硬い。なかなか致命打にならぬ。長期戦になるか?
「イヤーッ!」ヤブ背後から光の矢!「ピガーッ!」ヤブ転覆!
そこには泥棒ネコのニンジャ、シャイニングボウ!
数的同数になればヤブなど恐るに足らぬ。「イヤーッ!」「ピガーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「ピガーッ!」
光の矢を放ちつつ状況を判断するシャイニングボウ。今はどうなっているのだ?
「イヤーッ!」物陰からカラテシャウト!「見るなシャイニングボウ=サン!」ブレイドアーツが叫ぶ!だが間に合わぬ!シャイニングボウは見てしまう、その魔眼を!「グワーッ!」
だが苦痛がない。不発?否、体が動かない!シャイニングボウは戦闘姿勢のまま装束ごと石化されてしまった!
(なにこれー!?動けないー!)
「ドーモ、ククルカンです」
アンブッシュを決めたニンジャがアイサツ!「ドーモ、ククルカン=サン。フォーチュンクローです」「ドーモ、ククルカン=サン。ブレイドアーツです」アイサツを交わす。そして後方より何者かの影!
「ドーモ、モータードクロ、デス!」ナムサン!ブッダデーモンめいたそのロボットは直後ガトリングを無差別放火!
「まじかよ!」モータードクロは危険な相手だ。ましてや一撃必殺のジツを組まれ、思うように動けぬ。
「切り抜けなければなりませんね」ブレイドアーツは状況判断する。シャイニングボウが戦闘不能な以上、装甲の厚いドクロは速攻は無理。ならばククルカンが先!
「イヤーッ!」「グワーッ!」さながら空気に殴られたかの如く何もないところから打撃を受けるククルカン!ブレイドアーツは如何なるジツを用いたのか?!
だがそこにモータードクロのグレネード!追撃ができぬ!
「長引きそうですか!」
困っているのはフォーチュンクローも同じ。まして彼には接近戦しかなく、それではククルカンのイビルアイの餌食!
無理をしなければならぬ。ブレイドアーツならククルカンに勝てる。ならばドクロは引き受ける!ケモノめいた低姿勢突撃!「イヤーッ!」クローで切りかかる!だが回り込んでククルカンのイビルアイ!「しまっ「イヤーッ!」「グワーッ!」フォーチュンクロー石化!「グワーッ!」突如胸からローポリの刃を生やし苦しむククルカン!だが致命傷にならぬ!「イヤーッ!」ブロックが現れイビルアイを遮る!三人目の石像にならず済んだ!

数的不利に陥りブレイドアーツは苦戦する。自分のジツが理解困難であることも利用し反撃を加えていくもののドクロの火力も相まってジリー・プアー!
「ど、どうすれば…」物陰からイクサを眺めていたのはヤヌカであった。恐ろしくも頼もしかったシャイニングボウは石化し、指一本動かぬ。そして味方と思わしきワーキツネは徐々に攻撃を捌ききれなくなり被弾し始める。
シャイニングボウを見る。今やワーキャットの石像である。どうすれば助けられる?視界内には同じく石化したフォーチュンクロー。
このままでは負ける。殺されてしまう!逃げなきゃ。その時財布に手が当たる。
…そうだ。まだ俺は恩を返していない。助けられっぱなしではないか。思えば自分は周囲に助けを求めすぎていなかったか?シャイニングボウは一度でもヤヌカの助けを求めたか?否。
そうだ。俺も助けたい。だがどうやって?石化を治す手段などunixゲームの中だけでは?だがあのワーキツネは戦う。不利と理解していても。
助けられるかどうかはやってみなくちゃわからない。そうだ。まずは敵を倒せ。状況を理解したことによる楽観が彼の背中を押した。
彼は近くにある石を拾い、ドクロに投げる。「イヤーッ!」ドクロは反応しアームの武器で撃ち落とす!「ウオオオァァァ!!!」ヤヌカは突撃する、その無慈悲な殺戮マシンに!なんたる無謀か!ドクロのガトリングが発射!「グワーッ!」命中!ナムアミダブツ!ククルカンとブレイドアーツは?
「イヤーッ!」「グワーッ!」短時間ながらタイマンに持ち込んだブレイドアーツはその隙にククルカンにラッシュをかけていた!今や串刺しになったククルカンは爆発四散!「サヨナラ!」
「ぐぅ…」だがブレイドアーツの様子がおかしい。おお見よ!足元から石化している!勝負を急ぎすぎて低出力ながらイビルアイに命中してしまったのである!
尻尾が重くなり、温度を失う。あとはドクロだけだ。救援さえ呼べれば…
しかし彼の指は石化し、IRCのEnterキーを押すことまでは叶わなかったのである。
ドクロを向きながら石化したブレイドアーツ。キツネミミ社の三人のニンジャは石像の体でこの目の前の機械仕掛けの怪物がこれから起こすであろう災厄に戦慄した。
(うー!動けないよー!どうしてー!)
(くっそ!あと少しなんだが…!)
(ルナダンサー=サンでもセンセイでも、何か呼ぶ手段は…)
石化しても意識も感覚もあった。ゆえに彼らは己の敗北とブザマを必要以上に悔いさせられるかの如く責め苦を味わっていたのである。
そういえばヤヌカは?ブレイドアーツは諦めていた。フォーチュンクローも。だがシャイニングボウは違った。
(ま、まだ生きているかもしれないのに!動けー!!)
だが無慈悲にも石化した身では声を出すことすら叶わぬ。このまま街はモータードクロの暴走に巻き込まれてしまうのか?「イヤーッ!」「ピガーッ!」

(誰だ!?)石のままでは視界を動かせぬ。フォーチュンクローはゆえにそのアンブッシュを仕掛けたニンジャが誰なのか解らなかった。
しかしブレイドアーツは見た。そしてシャイニングボウはそれが誰なのかまで解ってしまった。

痛い。撃たれた所からは血が流れている。だがどうしてだろう。痛いけどさほどでもない。動くには問題ない。
信じられないほど体が軽い。そして使命感と全能感、そして溢れんばかりのカラテが彼を突き動かす!
「イヤーッ!」「ピガーッ!」接近してドクロを殴る姿は、先ほどまで情けなくシャイニングボウに守られていたヤヌカではないか!
あれほどあった恐怖が微塵もない。今はこの化け物を倒せ!
「イヤーッ!」ニンジャのカラテがドクロに命中する!ボディがへこむ!
が、「イヤーッ!」「グワーッ!」ツルギがヤヌカに命中!いくらニンジャとはいえ今なりたてのニュービー!ドクロを単身相手取るのはあまりのも無謀!
吹き飛ばされるヤヌカ。そしてガトリングが向けられる!「イヤーッ!」なんとかガトリングを回避!しかしその先にドクロはグレネード投擲!アブナイ!「グワーッ!」被弾!致命傷は避けたが足が動かぬ。万事休すか!

運命とは不思議なものだ。求めたときに助けは来ない。
だが助けを求めることを忘れたときにはなぜか救いが駆けつけてくる。
ヤヌカは動かぬ足に必死に力を込める。だが立てぬ。死ぬのか、俺は。少し命が長引いただけだったか。
ソーマト・リコールめいて後悔の記憶が映る。ドクロの重火器群が狙いを定める。
「イヤーッ!」遠くからカラテシャウト。ドクロはそれに反応した。なぜならそのニンジャ存在感、カラテ共に圧倒的だったからだ。
そしてその影はドクロへ弾丸のような勢いで跳躍し、ヒサツ・ワザを放つ!ウツシ・ポン・パンチ!「イヤーッ!」「ピガーッ!」その強大な威力はドクロの胴体をぶち抜いてふっ飛ばした。
「サヨナラ!」モータードクロは崩れ落ち、鉄くずと化した。
ヤヌカはその助けに来た女ニンジャを知らぬ。だが今石化している三人ならこう答えるであろう。
リアリティ・イン・ザ・アイと。


数日後、キツネミミ社では事業成功のウタゲが行われていた。
酒の強要もなく、参加しなかったものにはきちんとスシを送る、実際奥ゆかしい会社の決まりがあった。だが今日は多くのものが参加していた。
装束ごと、姿勢もまるっきりあの時のままの石化した三人のニンジャにはルナダンサーが飾りつけをしている。戻れると解っているから誰も止めぬしむしろ皆楽しんでいる。代表取締役のシロヅカ・ハルミですら。ヒドイ!
石化したまま皆が旨い飯を食うのを眺めさせられるブレイドアーツ、フォーチュンクロー、そしてシャイニングボウ。これはもはやスシ・トーチャリングでは!?
(なんでわざわざ解るようにやるんだよチクショー!)
(あ、あの!?目の前で食べるんですか!?グワーッ!)
(ええっ!?ヒドイ!私も食べたいー!!)
ここまでされる謂れは無い!

ひとしきりウタゲを楽しんだあと、シロヅカ・ハルミが切り出す。
「それでは、新入社員を紹介しようか」
この場で?という疑問符が石像含め頭の上に浮かんだ。
シャイニングボウだけは珍しくちょっとした予感がインスパイアした。
まさかなー、と思いつつ、驚いた。石の瞳は開かぬが目を丸して驚いた。
その傷だらけの少年がアイサツした。
「ドーモ、キツネミミ社のみなさん。ヤヌカです。これからよろしくお願いします」



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