フォックス・リヴォルト・ライク・ア・トキシン
「こちらです」「ありがとう」
車から降りてきたのは…白い狐頭の経営者。
…狐頭?私達は幻覚を見ているのだろうか?
菖蒲色の長髪をなびかせ美しい女性めいた風貌の、背後には白い狐の尻尾が揺れるこの経営者…間違いなくニンジャである!
シロヅカ・ハルミ。世間にはキツネミミ社の経営者として知られるこのニンジャ、シルバーフェイスは紛うことなきソウカイニンジャである。
キツネミミ社は公にはトラブルシューティング会社であり、社員には戦闘やハッキング、経営、研究の技術者が集い、さまざまな依頼を解決する。
しかしその実はソウカイヤの意に沿って…いるわけでもなくネオサイタマをより良くせんと因習を破壊したりより効率的にしたりするためのシルバーフェイスの私兵の集いともいえる。
無論ソウカイヤからの依頼はこなす。その上で彼はネオサイタマに末端から働きかけていく。
左遷先、または出世街道から外れるとされるキツネミミ社にはカロウシがなかった。
「…ああ、それで頼む」
シルバーフェイスの仕事は多彩である。
社員が役割を分別して請け負う仕事の大半をこなす。
インフラ構築、研究開発、経営、暗殺、ハッキング、そしてニンジャ活動。
それが可能なのは彼の高い教養と広い視野、ヤバイ級のハッキング能力にカラテである。
実はかつてシックスゲイツに招かれたシルバーフェイス。だが彼はそれを断ったという過去がある。
ゆえにその実力とは裏腹にソウカイヤ内での評判は芳しくなかった。
またうっかり上司より上手いハイクを読んだり、上司に反論したりするなど上司を立てるという発想が欠いていたことも理由かもしれない。
そんなわけでソウカイヤ傘下で起業し、彼は自分にできることを始めた。
毒めいて浸透し、悪いものを破壊すべく。
シロヅカは図面を見る。
その道路は当初の予定からは変更されている。
渋滞解消とマケグミの立ち退きの手間をかけないこと、両方を成し遂げるべく部下と知恵を集め変更させたのである。
もし仮に当初の図面のまま道路が通れば、路頭にさ迷うマケグミが1000人近く発生したであろう。
Prrrr! 車内に着信音が響く。
「失礼…ドーモ、シロヅカ・ハルミです…なに?わかった」
シロヅカのキツネ目が細まる。
車は一般的な乗用車。ソウカイヤ幹部レベルのカラテを持つニンジャには似つかわしくない。
赤信号は変わらない。
「すまない。先に行く」
そう言って彼は車を出る。
直後、シロヅカの姿は消えた。
「…全く、手間をかけさせてくれる!」
突風のような速度で追跡を振り切ったシロヅカ・ハルミ…シルバーフェイス。
彼のミコー・プリエステスめいたニンジャ装束はボロボロだった。
一体何者が彼をここまで追い詰めたのか?
その名前は我らも知っているだろう。ニンジャスレイヤーである。
ソウカイニンジャが襲撃され、彼は援護に向かった。
そこにいたのはシルバーフェイスを誘き寄せんとするニンジャスレイヤーであった。
激烈なカラテの応酬の末、時間を稼いで振り切ったものの…
「…対策せねばなるまい」
再びスーツに着替え彼は仕事に戻って行った。
車内に戻るとIRCに着信。
「ドーモ、シロヅカ・ハルミです。なに?…暴動か、便乗して潰せ、と?わかった」
オオバ社の合成スシ工場で暴動が発生。それは末端ソウカイニンジャが扇動したものである。
オオバ社は安価な合成スシで貧困層の栄養状態を支える企業。そのスシ供給が絶たれれば餓死者は万に登るだろう。
「…わかった。行こう」
ナムサン!シルバーフェイスはやはり邪悪なソウカイニンジャなのか!?
「いかがなさいますか?」「傷を癒したい。スシを買ってくる」
近くのスーパーに寄りニンジャには似つかわしくない安価なスシを買う。そのスシはオオバ社のスシであった。
ネオサイタマの辻風となりながらシルバーフェイスはそれを食べた。
スシ工場では暴動が始まっていた。
その千近くのマケグミを連れた先頭にはソウカイニンジャ、スピアヘッド!
それに対峙するは先程の傷が癒えぬニンジャスレイヤー!
「この数には勝てまい!ニンジャスレイヤー=サン!」
数の利を得たスピアヘッドがヤリでニンジャスレイヤーを追い詰める!
ニンジャスレイヤーはバールやサスマタで襲いかかるマケグミを捌くのに精一杯である!先程の負傷が響いているのだ!
「今だ!イヤーッ!」「グワーッ!」ヤリがニンジャスレイヤーを捉える!脇腹から出血!ジリー・プアーか!
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはブリッジ回避!だが攻撃はない!
「なにを避けている!死ね!死アバーッ!?」「サヨナラ!」
突然ワイヤーで引かれたかのようにスピアヘッドはぶっ飛び、そして何かに心臓を貫かれ爆発四散!
ニンジャスレイヤーはこれを避けたのである!
その飛んできたニンジャはボロボロの白いワーキツネ…シルバーフェイスだ!心臓を貫いたのは部下のフォーチュンクロー!
「この場は任せる」「ヨロコンデー」
事務的な対応のフォーチュンクロー、彼らにも暴徒が…止まった?
「アバーッ!?」突然現れた白いブロックに止められる暴徒!
「ドーモ、ブレイドアーツです。止めておきますね」
彼もまたシルバーフェイス部下のソウカイニンジャである。これは一体?同士討ちか?
「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。シルバーフェイスです」
「ドーモ、シルバーフェイス=サン。ニンジャスレイヤーです」
両者タタミ5枚の間合いでにらみ会う!
「むざむざ戻ってくるとは頭も獣並みと見た」
「自分がそこまで狡猾であるという思い上がりはない」
そしてシルバーフェイスは工場の奥のオフィスに向かい、キーボードを取り出し、セキュリティに繋げる。
「オヌシ、何をするつもりだ」
「手助けする、と言ったら信じるか?」
指が見えぬ速度のハッキング!そのタイプ速度、ヤバイ級!
セキュリティ解除!連絡切断!警備システムダウン!厳重な警備態勢がショウジ戸のように容易く破壊されていく!
「行くぞ」
言われるまでもない、との如く空いたシャッターからオフィスにエントリーするニンジャ二人!
「アイエエエ!?」
カチグミ4人が失禁!警備システムが一瞬でダウンし、今までここには届かないであろうと思われた暴動からもはや逃れられぬことを悟ったのである!
「フーンク!」ドアがひしゃげ破壊!
「みーつけたぞー!」ニンジャが二人エントリー!
ニンジャスレイヤーとシルバーフェイス?否!
「おらさっさと金出しな!そこの金庫も貰うぜ!」
この邪悪なソウカイニンジャ、ビーストソーサーとタイガークローは先程のスピアヘッド同様この襲撃を予定していて、シルバーフェイスに増援を送ったのだ!
「アイエエエ!」金を出すカチグミ!
「足りねぇなぁ~?おい裸になれよ!」「アイエエエ!?」
ナムサン!女性サラリマンを剥ごうというのか!なんたる邪悪!
「おっと勝ち目はないぜ?もっとすごいやつが味方にいるんだからな!」
「…それはどんな奴だ?」
「え?それは…白いワーキツネの…そうそう、シロヅカ・ハルミって名前で知られてる…」
「そうか。ではお前はネオサイタマの死神と呼ばれるニンジャを知っているか?」
「ニンジャスレイヤー=サン?ああ知ってるよ。シルバーフェイス=サンがさっき戦ってたとか…まあ仮に来てもシルバーフェイス=サンならなんとかしてくれるでしょ」
「そうか。ニンジャスレイヤー=サンとは…こういう者か?」
「うん、そうそう、確か赤黒くて長身でメンポには『忍』『殺』とか書かれた…アイエエエエエ!?」
ナムアミダブツ!ビーストソーサーが振り向いた先にはシルバーフェイスと…その情報通りの確か赤黒くて長身でメンポには『忍』『殺』とか書かれたニンジャ!
「ドーモ、ビーストソーサー=サン。ニンジャスレイヤーです」
「ドーモ、ビーストソーサー=サン、タイガークロー=サン。シルバーフェイスです」
「ド、ドーモ、シルバーフェイス=サン、ニンジャスレイヤー=サン。ビーストソーサーです」
「ドーモ、シルバーフェイス=サン、ニンジャスレイヤー=サン、タイガークローです」
「シ、シ、シルバーフェイス=サン!?裏切りか!?」
「お前を粛清しに来た」
IRC、そこには確かにビーストソーサーの粛清命令!
これはどういうことか!?シルバーフェイスはハッキングしたときにビーストソーサーの無軌道行為を報告したのだ!
「や、やれ!タイガークグワーッ!?」口にシルバーフェイスの拳!ハヤイ!
「アイエエエ!?」サラリマン達はニンジャのイクサに失禁!
「フーンク!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは紙一重回避!ワザマエ!
「「イヤーッ!」」そしてタイガークローの右胸のあたりに手を伸ばし…背後からはシルバーフェイスの手も!
「アバーッ!?」前後から右胸の、鼓動する柔らかい物体を掴まれ…握り潰される!
「サヨナラ!」爆発四散!
「そ、そんな!?タイガークロー=サン!?」「虎の威を借るキツネめ、ハイクを読むがいい」「アイエエエ!?イ、イヤーッ!」「イヤーッ!」「アバーッ!?」ビーストソーサーの首が810度回転!「サヨナラ!」爆発四散!
「アイエエエ!!?」絶叫するカチグミ達!
「…社長のところへ案内させてもらおう」
「何を考えておる」「…腐敗の是正だ」「ヤクザの小賢しいキツネが正義を語るとは片腹痛い」
社長室、躊躇いなく入るシルバーフェイス。
フジキドはこの男は危うい、と思った。
シルバーフェイスという男、礼儀はあっても因習には囚われぬ。
ソウカイヤでいながらその実モータルを虐げることを嫌う。キツネミミ社にはカロウシがないことは述べた通りであり、買い取ったりした企業からも残業やカロウシが減っているのだ。
「ドーモ、シロヅカ・ハルミです…買収の交渉に来ました」
ニンジャ装束のまま、あくまでサラリマンかのように訪れるシルバーフェイス。
殺気漂うネオサイタマの死神を背後に交渉を進めていく。それは決して法外ではなく、ソウカイヤらしからぬ金額や条件のもと…
暴動は薬物の効果の終わりと共に沈静化した。大した死者も出さずに。
「…私を殺すか」「ニンジャ殺すべし」「だがその前にこれを渡す」
シルバーフェイスはマキモノを取り出し、投げる。
それはシックスゲイツにつながる機密情報!これは明確な離反行為である!
「オヌシは相当な死にたがりと見た」「命そのものに価値は感じてないのでね」
「ならばここでセプクでもすればよかろう」
「…これは復讐なんだ。私なりのな」
ネオサイタマの夜の涼しい風が吹き始める。
「私を苦しめた世界への、復讐だ。ではオタッシャデー」
直後、シルバーフェイスは消えた。
フジキドはその場で少し考え「wasshoi!」ビルへ跳躍し、ネオサイタマの闇へ消えた。
貰った情報が正しいとは限らぬ。罠である可能性が高い。だが糸口であるのは間違いない。
いずれにせよニンジャがいれば殺す、それでよいのだ!
「スシがいっぱーい!しあわせー!」
誰もいなくなった工場に忍び込んで、シャイニングボウはスシを思う存分食べた。
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