バカシ・カラテ・ブレイク・マボロシ・アンド・ボール(前)

「イヤーッ!」コッポ掌打!「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」そしてブレイドアーツはアンダースローめいたフォームから相手の無防備股間目掛けて掌打!ボールブレイカー!「グワーッ!」
この哀れにも股間を破壊されてしまったニンジャはザイバツのアデプト、ディフューザーである。
ブレイドアーツはゆっくりと相手の股間から手を離し、ザンシンする。
ディフューザーは体の連接がバラバラになったかのようにその場に崩れ落ち、爆発四散した。

ブレイドアーツは特に感慨もなく先へ進む。目的はこんな奴ではない。
近頃何かを探すようにネオサイタマで動きを開始したザイバツ…その目的は何らかのニンジャレリックとされている。
彼らの活動は巧妙に偽装されていた。しかしとある点で共通していた。
それはその活動…発掘作業から生還したモータルが殆どいないことだ。その上死因が発狂死やそうでなくても廃人化、また死体が見つからないという。
偽シルバーフェイス…もとい彼のメンターとなったアンディフィナイトの言葉も気になった。
「俺の知っている物な気がする」
となると、バカシニンジャのレリックなのだろうか?ともあれザイバツに好き勝手ネオサイタマを荒らされてはならぬ。ブレイドアーツのヒールの足跡がブロックノイズを出していた。

ネオサイタマ北部では今もザイバツによるコーヤ遺跡の発掘作業が続いていた。
発掘作業は精密に行わなければならない。よって手作業である。
「アバーッ!?」「アバーッ!?」錯乱した作業員が他の作業員へツルハシを振り回す!ナムアミダブツ!

「…当たりなようですね」「ええ、嬉しいわ」
発掘場を見下ろす管理棟、その最上階には死と隣り合わせの現場をまるで映画の中の世界のように眺める者あり…当然ニンジャ。
「300年以上生きたと言われるダイミョの秘宝ですか。さぞ神秘的なものなのでしょう」奥ゆかしく茶菓子を食べるは金のワーラットのニンジャ、イリュージョン。
「ええ、きっとあの方もお喜びになられるはずですわ」高貴な家の出を思わせる仕草でチャを飲む金のワーキツネの女ニンジャ、ゴールドファー。
窮屈な作法を何の障害もなくこなす彼らの出自は読者の方々なら理解できるであろう。
彼らはキョートの…ザイバツのニンジャである。
それもこれだけの礼儀作法を難なくこなせるということは…
ドアが二回ノックされる。「入りなさい」
入ってきたニンジャは明らかに部下であろう。二人の前で膝をついて話を切り出した。
「近頃我らの拠点が襲撃されている件、主導者がわかりました。キツネミミ社です。やはりソウカイヤと関連がありました」
「お手柄です、リフレクティングレイ=サン」
「ハハーッ!」
ゴールドファーはイリュージョンと目配せをする。イリュージョンは促すように頷きゴールドファーは続ける。
「近頃の活躍は目覚ましいものがあります。キョートに無事帰還した暁にはマスターへの推薦状を書きましょう」
「身に余るお言葉!ありがとうございます!」
願ってもない言葉に深々と頭を下げるリクレクティングレイ。
ここで少しザイバツの階級について説明しておかねばならない。
ザイバツニンジャはそれぞれアプレンティス、アデプト、マスター、グランドマスターといった階級に所属しており、所属したてのニュービーがアプレンティスとなりやがてアデプトになる。
そしてアデプトの中でもカラテ、礼儀作法、教養が優れたものがマスター位階へと昇進できる。
イリュージョンとゴールドファーの作法が美しいのは彼らがマスター位階であることを考えれば当然といえよう。

「キツネミミ社…シルバーフェイスか」イリュージョンの表情は明るくない。
古参ソウカイニンジャであるシルバーフェイスの名はザイバツでも知られている。
ザイバツニンジャと戦闘したこともあり、マスター位階のニンジャも討ち取ったワザマエである。
「リフレクティングレイ=サン、くれぐれもシルバーフェイス=サンには気をつけなさい。見つかってからでは逃げられません」
イリュージョンの拳に力が籠る。
アプレンティス時代の忌まわしき記憶が甦る…イリュージョンのメンターはシルバーフェイスに殺されている。
良い師だった。彼にゲン・ジツのインストラクションを授け、育ててくれた。
だがソウカイヤの銀色の突風はゲン・ジツを千の拳を以て本物ごと殴り飛ばし、股間を砕き、苦痛に悶える師を殺した。
カラテの差は圧倒的だった。その後彼も股間を砕かれブザマにのたうち回り殺されるのを待つばかりであったがインターラプトされ救われた。インターラプトしたニンジャも股間を砕かれ、死んだ。
イリュージョンの指をよく見てほしい。なんと全てサイバネに置換されているではないか。
彼にケジメを命じたのは誰でもない。彼自身である。あまりの無力さに恥じ自らケジメを申し出たのだ。(その奥ゆかしさを以て上司に気に入られ、彼は出世街道に乗ることができたのは別の話だ)
視界に捉えることすらできぬ拳の乱打…恐らく自分同様のバカシ・ジツの使い手。
「今の俺は化かせんぞ、シルバーフェイス=サン…!」
イリュージョンの輪郭がぼやける。(今の俺をあのとき何もできなかったサンシタだと思っているならそう思ったまま死んでもらおう!)

イリュージョンが復讐の決意を固める傍ら、リフレクティングレイには申し訳ない出来事をここに書かねばならない。
遺跡の管理棟を物陰から覗くあの暗色のネコミミは見覚えがあるかもしれない…キツネミミ社に繋がる盗賊ニンジャ、シャイニングボウである!
(見つけちゃったもんねー!)
尾行に気づかずあまつさえ拠点まで割り出される始末、こんなことがゴールドファーに知られたら彼は指を何本失うかわからない!
もしリフレクティングレイを気遣うのであればくれぐれもこの記事をゴールドファーに伝えないであげてほしい!

イリュージョンのIRC端末に連絡だ。「ドーモ、イリュージョンです。なにがあった」
「ドーモ、イリュージョン=サン。ベールダンスです。ディフューザー=サンと連絡が取れなくなっています」「何」「彼は調査任務に当たっていました。殺されたとしか…」イリュージョンのニューロンにあの忌まわしき銀の影が映る。「…わかった。深追いは危険だ、戻ってこい」「ヨロコンデー」
ゴールドファーは引き締められたアトモスフィアの理由が気になり尋ねる。「何があったんですの?」「ディフューザー=サンが行方不明なようです。おそらく、死にました」「なんと、あのディフューザー=サンが…」
ディフューザーはイリュージョンの弟子であり、現在はアデプトだ。確かなカラテのある男だった。それを正体を明かすタイミングもなく屠れるような強敵…そしてこのタイミング。
(師のみならず弟子まで奪うとは…シルバーフェイス、殺すべし!)
「ゴールドファー=サン、配下を集めてくれませんか?会議が必要です」イリュージョンは怒りに飲まれていた。一方で提案は妥当でもある。「…わかりました」シルバーフェイスが敵なら確かに分散していては危険。効率は落ちるが戦力を纏めるべきであろう。インピュアチーズなど構成員にも死者が出始め、先日はフレイムスフィアも襲撃された。すぐに集まることはできないが、ひとまず会議して方針を固めておく必要がある。
「リフレクティングレイ=サン。緊急会議をする。このまま部屋へ」「ヨロコンデー」イリュージョン、ゴールドファー、そしてリフレクティングレイは地下の電子会議室へと降りていった。

イリュージョンはunixを立ち上げた。緊急なのでやはり少ない。
合わせて10程度だろうか。その中にはザイバツの会議には似つかわしくない、ヨロシサンの重役もいた。
「早速だが、ディフューザー=サンが殺された」声が漏れる。悪くないカラテの持ち主がこうもあっさり殺されるとは誰も思ってなかったからだ。「誰がディフューザー=サンを…」「証拠は残ってない。だが恐らく間違いない。シルバーフェイスというニンジャだ」あるアプレンティス位階のニンジャがタイプする「つまり、シルバーフェイスというニンジャを殺せばいいんですね?」「一旦黙れ」「し、失礼シマシタ!」あわててタイプする。ザイバツの上下関係は厳格なのだ。
「奴は手強い。殺すには相応の準備がいる。ひとまず戦力をある程度まとめるぞ」イリュージョンが進めていく。一部は従順に、一部は渋々と頷く。
「それでは最後に…我らのミッションの成功とザイバツ・シャドーギルドの更なる繁栄を祈ってバンザイ・チャント重点!」「ガンバルゾー!」「ガンバルゾー!」「ガンバルゾー!」おお…なんと禍々しいチャントか!モータルがこれを聴いてしまえば、発狂しかねない!「ガンバルゾー!」「ガンバルゾー!」「ガンバルゾー!」おおナムアミダブツ…ナムアミダブツ!「ガンバルゾー!」「ガンバルゾー!」「ガンバルゾー!」

「ガンバルゾー!」電算室で叫んでいたニンジャは先程シルバーフェイスを殺せばいいと言ったニンジャ、レジストである。
(何故敵が解っていて殺しに行かないだ?これはイリュージョン=サンのケジメ案件並びに出世のチャンス!)
レジストは先程言った通りカラテの足らぬアプレンティスだ。そして厳密にはゴールドファーの部下でもない。ポータルをくぐってネオサイタマに送られてきたのである。
その意味は彼は知らない方がいいだろう…(ちなみにイリュージョンとゴールドファーはジツの効果もあって悠々とシンカンセンでネオサイタマに来た)
そうと決まれば早速イクサの準備だ。なに、イリュージョンなど大したジツもないニンジャ。彼が恐れるからといってなんだと「え?」
電算室のドアが空いている。おかしい、閉めたはず。
振り向くとunix端末の会話ログが削除されておらず無編集でどこかへ送信されている。もはやウカツとかそういう次元ではないレベルの大失態!間違いなくセプクである!
「アイエエエ!!やめろ!送るな!」
しかしキーが反応しない!いかなることか!?
「レジスト=サン。これはいかなる行為なのです?」
恐る恐る振り向くと…そこにはこの作戦の責任者であるゴールドファーがいた。
「アイエエエ!!」絶望のあまりレジストは腰に差していたドス・ダガーを取り出し、自らの腹へ刺し、切り裂いた。セプクである。
「サヨナラ!」レジストはしめやかに爆発四散した。
しかしちょっと待って欲しい。先程までゴールドファーはイリュージョンと共にいた。どうしてこんな場所へ?
「…そこまで恐ろしいんですか」
ゴールドファーの姿がブロックノイズを出して変化し、本当の姿が露になる。
赤い男のワーキツネのニンジャ、ブレイドアーツである!
ゴウランガ!彼のレッサー級のバカシ・ジツはそれだけで一人のニンジャをセプクに追い込んだのだ!
ブレイドアーツの瞳に安堵の色はない。この会議をいわば傍聴していた彼はキツネミミ社が、シルバーフェイスが標的にされたという重大事項を知ったということだ。
片目のサイバーサングラスに連絡が来る。
(急がねば!)救援要請!ハルシネイトからである!
急げブレイドアーツ!イリュージョンの野望と股間を打ち砕け!

後編へ続く

https://note.mu/silberface/n/ndc12ffc1b861

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