中央公園(20240109-20240209)
真夜中に中央公園を通り抜けようと考えたのはなぜだったろうか。
深夜でも公園は取り囲まれているビルの灯りで隅々まで見通せる。タチの悪い乱暴者が潜んで いればすぐにわかるはずだ。それでも、夜の闇の塊はあちらこちらにおちているだろう。そんな公 園を誰が通り抜けようとしたのだろうか。
真夜中に中央公園を通り抜けていったのは誰だろう。
それは公園の向こう側にある託児所に預けていた子供を引き取りに行こうと考えていた誰かかも しれない。託児所の終了時間が迫っていて公園を通り抜けなければ間に合わなかったのだろう。 子供を引き取りに行くのは母親だろうか、父親だろうか、それともそれ以外の家族だろうか。
あるいは公園の向こうで燃えている倉庫の消火に向かう消防士ではないだろうか。消防車が公 園を迂回していては間に合わないと判断した消防士が、燃えている倉庫への最短コースとして公 園の中の道を疾走していたのかもしれない。それにしても、たった一人で現場に向かうことなどあ るだろうか。仲間が一緒に走っていたのではないだろうか。
あるいは公園の向こうの、くねるネオン輝くダンスハウスを目指す愉快なダンサーではないのだ ろうか。公園の中の遊歩道で跳んだり回転したりあるいは逆立ちをしたりして、なかなかダンスハ ウスにたどり着けない間抜けなダンサーなのではないだろうか。
あるいは公園の向こうに自宅があり、仕事で遅くなった帰路を急いでいた会社員ではないだろう か。一日の仕事あるいは数日の激務で皺だらけになったスーツを気にもせず、いつもと同じよう に公園の中の道を通り抜けようとしている勤勉な会社員ではなかっただろうか。
あるいは公園の向こうの宝石店に展示されている今や町で一番有名な宝石「エピクト王の黒太 陽」を盗みに入ろうと考えている泥棒ではないだろうか。計画ではあと五分で仕事を始めなくては ならない。準備に三ヶ月もかけてきたのだからこの機会を逃すわけにはいかない。すこし足早に 公園を駆けているのは宝石を狙う泥棒ではなかったのだろうか。
あるいは口の中に図書館を所有し、いずれ博覧強記の万物学者になるであろう千物博士ではな いのか。中央公園の植物相と動物相に計り知れない好奇心を抱く博士ではないのか。博士の熱 く深い観察によって、もはや公園の植物はすべて枯れ果て、動物はいずれも蛆虫に退化してし まっているとしても、博士の観察は終わらない。
(つづく)