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陰陽座 "龍凰童子"

Jan 18, 2022 / King

大阪出身のメタルバンドによる、約4年半ぶりフルレンス15作目。

これは社会人を始めてからついた癖なのだが、例えば飲食店なんかに入った際に、注文したメニューを待っている間、ホール、キッチンそれぞれの従業員の立ち振る舞いをしげしげと観察することがよくある。料理の腕前だけではなく、いかに効率良く動いて注文を捌いていくか、あっちがこう動くからこっちはこう動こうという咄嗟の機転をうまく利かせられるか、そういった各々の役割を的確にこなし、こちらがストレスを感じることなく、滞りなしに自分の元へ料理がサーブされた時に、自分はある種の清々しさを覚え、その店に対する信頼を高める。一人で何でもかんでもやれるわけではないのは当たり前だから、自分に課せられた業務、自分のやれることのみをきっちり遂行する、そこにある潔さには、もちろん当人たちの意志とは無関係に、やけに勇気づけられたりもするのだ。

音楽/アートの創作を仕事や業務と言い切ってしまうのも何だが、今回の陰陽座の新譜を聴いて感じたのは、そういった清々しさと同種の感動だった。

ボーカル黒猫が2020年に突発性難聴を発症して全国ツアーが中止となり、それ以降のここ3年ほど、陰陽座は活動休止状態にあった。ベタな表現ではあるが、この新作はそんなブランクを全く感じさせない。何なら過去最高に脂が乗っている。新たな代表曲として君臨するであろう "龍葬" "鳳凰の柩" に始まり、"茨木童子" からはギアをもう一段上げてヘヴィに猛進。またグルーヴの重さ・禍々しさ・妖艶さが交錯する様は最近の DIR EN GREY にも通じるであろう "滑瓢" 、メロスピ由来の勇壮さで琴線をブチ抜く "月華忍法帖" 、クラシカル要素バリバリの11分超の組曲的大作 "白峯" 、そして最後は彼らのお約束と言える清冽なポップ曲 "心悸" 。Judas Priest や Iron Maiden に端を発する NWOBHM の剛直サウンド、そこに目一杯こぶしを利かせての演歌メロディ、あるいはざっくり言えばアニソンど真ん中の快活さを掛け合わせるという、紛うことなき陰陽座の王道。そればかりが15曲、72分の大ボリュームで敷き詰められている。

この世は往々にして歯車であるので、上と下、右と左、それぞれの立場が互いにせめぎながら噛み合い、上手いことグルグルと回っている。自分はどちらかと言えば各ジャンルの辺縁に当たる音楽ばかりを好んで聴く傾向があるのだが、その辺縁は中央があってこそ成り立つものだろうという思いが、最近にわかに強くなってきている。それは確実に今作が原因だ。革新性や目新しさなどは今作に望むべくもない。脇目も振らず、彼らが結成当初からずっとやっていることを、この24年目においても愚直なまでにやっているばかりだ。そしてそれはヘヴィメタルという観点から見ても、もちろん和メロや着物、日本古来の妖怪をテーマとしているといった個性はあるものの、楽曲自体は火の玉ストレートの王道路線である。しかし今作は決してワンパターンには陥らない。中堅~ベテランの渋い落ち着きにも向かわない。デビュー時のフレッシュな勢いが今なお息づき、活力が全編に漲っているのだ。最先端の流行への目配せ、他ジャンルとの混淆によるニッチな領域の追求、そればかりが偉いわけではないだろう。自分はこれだと決めた信念、自分に求められている役割を十二分に果たすプロフェショナルの流儀。これこそが陰陽座イズムであり、それは結果的に、他のメタル勢では代替の効かない存在感を持つに至っている。

今作はオリコンアルバムチャート6位を記録した。これは彼らの長いキャリアの中で歴代最高位である。2023年においてオリコンがどれほどの意義を持つのかはさておき、ファンは彼らを忘れなかった。それは彼らがファンを置き去りにしなかったからだ。着実に足元を踏みしめながら歩を進め、堅牢な信頼を勝ち取るに至った陰陽座。もうすぐライブ活動も再開する。まだ彼らを知らない人は今作から入れば良い。"龍凰童子" 新規のあなたも彼らは置き去りにしないだろう。

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