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DIR EN GREY "PHALARIS"

Jun 15, 2022 / FIREWALL DIV.

3年9ヶ月ぶりとなるフルレンス11作目。

何気なく曲の歌詞を読んでいて、この人達、特にボーカリスト京は何故そこまで自分自身を追い詰めるのだろうかと、薄ら寒さを感じた。すでに方々で言われていることだが、DIR EN GREY は「痛み」をテーマとした表現をデビュー以来一貫して継続している。その表現手法は時期によって方向性が異なるが、根本の姿勢は頑ななまでに同じである。痛みを実感し、傷を何度でも抉り、人間が根源的に持つ負の側面に鋭いメスを挿れ続けている。それは、根源的であるがゆえにいつの時も不変の表情で、世間の時流がどんな風に移り変わろうが、モノリスのごとき質量を持って鎮座したままでいる。

例えば、2020年に入り世界中がコロナ禍に包まれた中で、BUCK-TICK はあえて清々しく軽快に「悪霊退散!」と唱え、この上なくシンプルかつポジティブな形で LOVE & PEACE を連呼する "ユリイカ" という楽曲を上梓した。常に現実を見つめ続けてきた B-T が取ったその手法を軽薄だとは思わない。だが残念なことに、あれから2年が経過した今、状況はさらに悪化している。ワクチンはある程度行き届いたものの、医療体制は依然として逼迫し、さらには戦争、テロ、宗教といった問題が立て続けに露わになり、先行きの見えなさには拍車が掛かるばかりだ。B-T の唱えた魔法は悲しくも虚空に消えてしまいそうになっている。そんな中で生み落とされた DIR EN GREY の新譜は、いつも通りの「痛み」をここでもはっきりと提示しており、それが今のタイミングでは、もはや頼んでもいないほどに…もしかすると本人達の思惑以上に、生々しくリアルに感じられたのだ。

音楽性に大きな変化は見られない。プログレッシブ/ドゥーム/デス/ブラック…要するに複雑で実験的なヘヴィメタルの類、そこに元来から持ち合わせている耽美なメロディセンスを組み込んだ、2008年作 "UROBOROS" で完成させたフォーマットをさらに深堀りしたものだ。曲調に幅を持たせてメロディの側面も改めて強調した2014年作 "ARCHE" 、彼らにしては比較的シンプルで直線的なハードコア感を重視した2018年作 "The Insulated World" を経て、今回はプログレッシブな構築性が高まると同時に禍々しい雰囲気が煮詰められており、また一段と濃密さが増したという印象がある。特に心に残ったものを挙げていくと、いきなり約10分の長尺で怪奇にうねり曲がったアグレッションを叩きつける "Schadenfreude" 、高速ブラストビート+トレモロリフといったブラックメタル・マナーに則った "The Perfume of Sins" 、キャッチーなメロディが少し "Dir en grey" 時代の感触を思わせる "13" "響" 、演歌スレスレの情念豊かな歌唱に惹きこまれる "御伽" といったところか。ただいずれにおいても、綴られる言葉は苦悩、敵意、喪失感に満ち溢れ、たまに底まで落ち切った末の開き直りのようなセンテンスも見られるが、総じてはやはり、膿んだ傷口を見せつけるかのごとく、痛切なものばかりだ。 

京の歌詞は基本的に極々パーソナルなものであり、世情を反映してどうこうといった狙いはおそらくないだろう。だがフィクション以上にヘヴィな出来事が続く昨今では、彼らの手法は相対的にアンタッチャブルな劇物としての凄みを良くも悪くも増しているように感じられる。果たして2022年において彼らの表現は適切と言えるのだろうか?いや、そんなことは彼らの知った話ではない。適切であろうがなかろうが、事実として「痛み」が確かに存在するのだから、彼らはそこに向かうだけなのだ。「ここが真実だ」と叫び続けてきた彼らの信念は、残酷なまでに揺らぐことがない。


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