Model/Actriz "Dogsbody"
アメリカ・ニューヨーク出身のロックバンドによる初フルレンス。
例えば、思春期の頃にヴィジュアル系にハマったのをきっかけに色々な音楽を聴き漁るようになり、BUCK-TICK から遡って The Cure や Bauhaus に辿り着き、hide の影響で Nine Inch Nails や Ministry に手を出し、Plastic Tree からの繋がりで My Bloody Valentine に代表されるようなノイズを美とする価値観をインストールした、暴力性も耽美性も実験性もポップ性もないと物足りなさを感じるややこしい音楽オタクがいたとする。まあそれは自分のことなのだが、そんな人間にとって痒い所に手が届きまくりの逸材が現れた。それがこの Model/Actriz だ。公式 Bandcamp の解説によれば、今作は「太陽を見つめるときの圧倒的な明るさと同じ、生きることの爆発的な喜びに対する鋭利かつ暴力的な頌歌」であるとのこと。だが今作は全編が神経症的なダークネスでどっぷり覆われており、楽観した素振りは全く見られない。すぐ隣に忍び寄る死の匂いを感じ取った上で衝動を発散し、それがロックバンドらしいエネルギッシュな躍動に結びついている様は、それこそ BUCK-TICK にも通じる魅力があるのではなかろうか。言っとくけど俺は隙あらばいつでもヴィジュアル系を引っ張り出すぞ。
ここでの音楽性を大雑把に言い表すならば、ポストパンク、ノイズロック、そしてインダストリアルを主要な三本柱とするものである。無機質で圧の強い、コンクリートを穿つ削岩機のようなビート。まともな定型のフレーズを弾くことをすっかり放棄し、ヒステリックなノイズばかり繰り出す飛び道具専門と化したギター。そしてボーカルは得体の知れない獣に追われているかのように、低く囁き、時には恐怖に耐え切れずに叫び出す。一貫して聴き手の不安を煽り続けてくるのだが、同時に強烈なまでにダンサブルでもあり、硬く粗野な4分打ちのスクエアなグルーヴに殺傷力の高いカッティングを噛ませてくる様は、ポストパンクというジャンルの持つキャッチーな側面を濃縮還元したもので、何なら思うさまエンターテインメント性に満ちているとも言える。かつての Gilla Band がグロを突き抜けて絶頂に達した Blawen のカバーソングを発表していたのを覚えているだろうか。Model/Actriz がここでやっているのは基本的にその延長線上であり、強靭でエクストリームな拡大解釈である。
ポストパンク再リバイバルも一段落つき、多くのバンドがあの手この手で次なる一手を模索している昨今において、Model/Actriz のストレートっぷりはあまりに潔く、賞賛に値する。Gilla Band はロックバンドの骨格を解体する勢いで音響実験がエスカレートし、black midi は演奏技術に磨きをかけてクラシカルプログレへと変貌を遂げ、Black Country, New Road はチェンバーポップの要素を強めて black midi とは別種のプログレ感に接近、Shame はやけに彩り豊かでポップになった。時代の流れに合わせて変化を続けるバンドはチャレンジングだし、真っ当な姿ではあるだろう。しかし先述のバンドにとってポストパンクとは何だったのか?広く世に打って出るための手段でしかなかったのか?時期が過ぎればその音は有効性を失うのか?一箇所に留まり続けるのはポストパンクの本質と乖離している?Model/Actriz の音にはそんなクエスチョンマークを片っ端から吹き飛ばすパワフルさ、得意分野のみにステータスを全振りしたが故の瞬発力がある。狂気的なノイズサウンドとキャッチーなグルーヴで思考の一切を奪い去る。それはポストパンク特有のスタイルだからこそ成し得る業だ。流行で音楽をやる人間は信用ならない。自分の信じた道のみを行こう。
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