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BIG|BRAVE "A Chaos of Flowers"

Apr 19, 2024 / Thrill Jockey

カナダ・モントリオール出身のメタルバンドによる、約1年フルレンス7作目。

「最大限の音量が最大限の成果を生み出す」と喝破したのはドゥームメタルデュオ Sunn O))) だが、それは確かにひとつの真理である。ただ Sunn O))) の場合は、ギタリスト2人のみという至極ミニマルな編成で、自身の鳴らす音のみを徹底的にブーストし、それ以外の音数を(クワイアや管弦楽器といった装飾を効果的に用いる以外は)ストイックに削ぎ落とすことも最大限の成果を生み出す秘訣となっていた。轟音と無音が等価の状態で、互いが互いを際立たせて壮絶な緊張感を生んでいたのであって、そこには他のメタルバンドを一切寄せ付けない、孤高の美意識がはっきり感じられた。

この BIG|BRAVE はかつて Sunn O))) の片割れ Greg Anderson が主宰するメタルレーベル Southern Lord に所属し、Sunn O))) への多大なシンパシーをそのまま露わにした長尺ドローンメタルを鳴らしていた。だが彼女らの音はメタルのヘヴィさと同時に、ポストロックの幽玄な広がり、オルタナティブ/ノイズロックの拡散する刺々しさ、そしてあどけなさと悲痛さを交差させた女性ボーカルには Codeine や Low などスロウコア勢のメロウな感触も見られたりと、多くの文脈を内包した味わい深いテクスチャーを構築していた。このたびの新譜は「花の混沌」なる表題、つまり「美は乱調にあり」を地で行くバンドのアティテュードを端的に表したものであろうが、その美と乱調のどちらにおいても、これまでの作品からさらにレベルの高いものへと押し上げられたという印象がある。

なぜそう感じるのか。おそらく今作が今までで最もコンパクトにまとまった内容だからかもしれない。8曲40分。一番長い曲でも6分台で、10分台の尺がザラにあった過去作と比べればかなりフレンドリーな構成だ。その中で紡がれるメロディは、フォークソングの牧歌的な柔らかさ、あるいは童謡にも似たノスタルジックな寂寥感があり、極めてシンプルで、だからこそ脳内にすぐさまピタリと張り付いてリフレインされる。その伸びやかなメロディを軸としながら強烈なフィードバックを交えたドローンノイズが展開され、これでもかとばかりに静と動、轟音と無音のコントラストが同じ流れの中で表現される。凶暴なギターが荒れ狂い、しかしそれが可憐な歌をかき消すのではなく、むしろ歌に親密に寄り添い、曲の持つ世界観を一気に彼岸まで押し広げる。例えば冒頭 "i felt a funeral" は5分の曲だが、ギターの圧力から受ける聴き応えは体感10分以上の重みであり、それでいて気の緩みや無駄な展開はなく、これ以上長くても短くても成立しない、まさしく必要十分な5分なのである。全ての楽曲において、そういったヘヴィネスとメロディの妙技、タメにタメたグルーヴを操作しての時間感覚のセンスが冴え渡っている。コンパクトでありつつ、物足りなさを感じさせない凄みが全体に貫かれているのだ。

コンセプチュアルな繋がりを思わせる前作 "nature morte" と比べても、彼女らは明らかに飛躍している。"not speaking of the ways" での聴き手の鼓膜を圧殺せんとする熾烈なギターサウンドから、謎めいたアンビエントの透明感で空間を満たす "a song for Marie part iii" までのなだらかなうねり、獰猛さと清らかさを一本の線に結び付けた今作は、ドローンメタルやポストロック愛好家のみならず、果てのない寂しさに心を埋めてしまいたいと考える全ての人々にきっと応えてくれるだろう。"moonset" を聴き終えた後には頭の中がすっかり真っ白になってしまった。誰とも違う最大限の音量で、誰とも違う最大限の成果を生み出した彼女らの果敢さに敬意を表したい。


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