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Claude Fontaine "La Mer"

Sep 6, 2024 / Innovative Leisure

アメリカ・ロサンゼルス出身のシンガーソングライターによる、約5年半ぶりフルレンス2作目。

情報の整理。彼女は過去にロンドンに移住していた時期があり、その頃にレコードショップへと足繫く通い始め、ジャズやブルース、ボサノバにレゲエといった数々の音楽ジャンルにのめり込んだのだという。当時は恋人との破局もあって、そういった音楽がなおさら彼女にとってはある種のセラピーの役割を果たしたそうだ。ロサンゼルスに帰ってきてから彼女は一念発起し、自分が多大なインスピレーションを受けたミュージシャン達に楽曲への参加をオファー。その相手は Lee Perry や King Tubby など数多くのレゲエ・オリジネイターとコラボレートしてきたギタリスト Tony Chin 、英国レゲエの重鎮バンド Steel Pulse の創始者でもあるベーシスト Ronald McQueen 、言わずと知れたレジェンド Bob Marley の息子 Ziggy Marley のバンドにてドラムを務める Rock Deadrick など…まあとにかく大物ばかりで厳ついことこの上ない。しかもプロデューサーには過去に Nelly Furtado や Shakira といったポップスターを手掛け、グラミー賞受賞歴もある敏腕 Lester Mendez を起用。そんな盤石の体制で完成したデビューアルバム "Claude Fontaine" から5年。この度の新作 "La Mer" にもほぼ同じメンツが再集結した。

前作はアルバム前半がレゲエ、後半がボサノバとはっきり区分けされていたが、今作はボサノバとレゲエが1曲毎に交互に配置されており、この構成の方が彼女のユニークさを際立たせているかもしれない。1曲目 "Vaqueiro" の時点で体全体に冷たい水が浸透してくるような心地良さに包まれる。賑やかな躍動感を伝えるドラム/パーカッションとは裏腹に、上品に爪弾かれるアコースティックギターの音色と、あどけなさの中に憂いを湛えた Claude のボーカルは至って冷静な佇まい。公式プレスでもラテン方面のみならず60年代フレンチポップからの影響を明言しているが、彼女がレコードディグで培ってきた素養をブレンドし、洒脱に洗練させてアウトプットする、そのバランス配分がなんとも絶妙だ。次曲 "Love the Way You Love" はさらにインパクトが強い。こちらはレゲエなのだが、華やかなホーン隊、弛緩したグルーヴ、ダブの奥深い音響処理、これらレゲエ特有の快楽性すべてを Claude のウィスパーボイスがモノクロに染め上げてしまっている。レゲエと言えばもちろんピースフルな祝祭感、あるいはポリティカルな反骨精神、またあるいはラヴァーズロックと称される R&B 由来のスウィートでメロウな雰囲気…そんなイメージが頭に浮かぶが、この曲のようにシックな、それでいて親密な妖艶さを感じさせるものは聴いたことがなかった。ざっくばらんに言ってしまえば「レゲエってこんなにエロくなることあるんだ…」という感じだ。

ここ最近は、例えば Laufey が Chet Baker に憧憬してのジャズポップを披露したり、Beabadoobee が90年代~2000年前後のオルタナティブロックを大いに参照したり、Clairo が70年代頃のフォークやチェンバーポップの要素を全面的に取り入れたりと、温故知新をそのまま地で行くポップシンガーが評価/セールスともに成功を収めているケースが多い。Claude Fontaine もその流れに当てはまると言えば確かにそうだろう。何なら彼女の場合は往年の小島真由美や EGO-WRAPPIN' を思い出させる節もあり、ここ日本でも受け入れられやすいタイプではないかとも思う。だがこの "La Mer" での、グローバル要素が陽性のバイブスには決して向かわず、むしろメロディと歌声によってピシャリとクールに統制され、幻想的で陰翳の深いポップソングへと変換されているのは、ここでしか聴けない彼女ならではの個性と言える。飲み口すっきりなようで腹にはズンと溜まる。野外が似合わないレゲエというのもまた一興だ。まだまだ厳しい残暑を抜けて、秋の気配が見え始めた頃に再度聴いてみよう。

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