Still House Plants "If I don't make it, I love u"
イギリス・ロンドン出身のロックバンドによる、約3年半ぶりフルレンス3作目。
「最大限の音量が最大限の成果を生み出す」と喝破したのはドゥームメタルデュオ Sunn O))) だが、それは確かにひとつの真理である。しかしその一方で、最小限の音数で最大限の成果を生み出さんとする野心的なアクトも数多く存在し、そちらはそちらでまた別の真理を突いている。パッと思いつくところで例を挙げてみると、スロウコア/サッドコアの代表格として US インディロックの歴史に名を刻んだ Low 、ドリームポップや R&B からの影響を覗かせながら音の隙間の静寂にエモーションを滲ませる The xx 、御年60歳を過ぎた今なお音の鋭さに磨きをかける孤高のギタリスト Bill Orcutt 、また日本で言うならば今聴いても異形の存在感が全く揺るぎない 54-71 …その他にも名前を挙げればキリがないが、ともかく、実際に鳴っている音とその後の残響あるいは無音をほぼ同列に取り扱い、その余白の多さゆえに多様な解釈が可能となり、結果として雄弁かつヘヴィな聴き応えを生み出す類の音楽。そんな系譜の新たなる刺客がこのバンドというわけだ。
ボーカル、ギター、ドラムのトリオ編成。それ以外に目立った装飾はない。ギターは種々のエフェクターを駆使しつつ、一音一音の粒、弦を引っ搔く生音まで伝わってきそうなザラついた質感が常に保たれている。ドラムもハイハット/スネア/バスドラムのみの至極シンプルなセットで、スコンと抜けの良い音でぎこちないグルーヴを生み出し、聴き手の体を引き倒すかのごとく演奏が食らいついてくる。そしてボーカルはすでに老成したフォークシンガーのような渋味、あるいはソウル/ブルースのふくよかな広がりを見せたりもするが、他パートの繰り出す面妖な音色やうねりと真っ向から対峙し、全身を振り絞るようにして切実な歌が展開され、その様はひどく緊張感に満ちており、気高い美しさを感じさせる。どの曲も明確な起承転結を持たず、荒ぶる衝動を低熱のテンションに無理矢理押さえつけているかのような凄味だけが延々と続く、この感性はジャズ方面からの影響も強いかもしれない。下に実際の演奏シーンを貼り付けておこう。しかめっ面でうつむき、音の切れ端で通じ合いながら、それぞれの歌/演奏をぶつけ合って殺伐とした熱を膨れさせていくという、もはや何かしらの修練じみた状態だが、このリアルな臨場感はほとんど洗練、脱臭されることのないまま今作にパッケージされている。
全ての楽曲が、鳴らす音のひとつひとつが鋭角で鼓膜に突き刺さり、聴き手の体を激しく強張らせる。ランニングタイム46分の間、まるで澱みなく、脇目も振らず、ストイックに感情を昂らせ、 ラスト "More More Faster" でいよいよ極致に登り詰める。フリーキーで実験的だが、小難しい印象は一切ない。多くの音楽的語彙を含みながら、何ならハードコアパンクにも匹敵する明快さで、神経に引っ搔き傷をつける。上の演奏シーンの中で彼らは時たま見つめ合って笑みをこぼす。個々が没頭する中で呼吸がクロスし、きっとランナーズハイにも似た高揚感を互いに得ているのだろう。その輝かしい瞬間も決して見逃せない。自分にできる表現をとことん突き詰めたが故の強度の高さ、シンプルに徹したが故の超然とした美しさばかりがここにはある。