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ZAZEN BOYS "ZAZEN BOYS"
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向井秀徳を中心とするロックバンドの初フルレンス。
遡ること21年前。当時の自分は地元の徳島から大阪に移り、予備校の寮で生活する浪人生をやっていたのだが、進路もろくすっぽ決めず、徳島ではとてもお目にかかれなかった在庫量のCDショップ、そして毎日のように開催される推しバンドのライブ、これらをチェックすることばかり考えていた。今まで貴重な体験を金銭的/距離的な理由で取り逃し続けるばかりだった、そのフラストレーションを一気に晴らしてやろうと。NUMBER GIRL はそのうちの一組に当てはまる。最初の解散までにライブを見ることが叶わなかった自分は、ほとんど間髪入れずに始動した新バンド ZAZEN BOYS の、まだ結成してから2回目だかのライブを確実に網膜に焼き付けるべしと、鼻息を荒くしていた。会場は心斎橋 BIGCAT 。トーキンロック!主催のイベントで、他にはフジファブリックや NIRGILIS なんかも出演していたが、いずれもまだ人気に火がつく前の頃で、明らかに ZAZEN 目当ての客が大半だった。メンバーが登場して1曲目の "SI・GE・KI" が始まった瞬間から、フロアのボルテージが凄まじい状態になっていたのを今でもよく覚えている。"SI・GE・KI" はそもそも向井秀徳がソロ名義でクイックジャパンの特典 CD という形で発表済みだったため、歌詞を覚えて合唱するハードコアな客も大勢いた。ついに初対面を果たした向井の印象はほとんどイメージ通りで、どこか飄々としていてユーモラスで、しかしいぶし銀の鋭く激しい音を鳴らす、文系人間のためのロックアイコンらしからぬロックアイコンだった。試しに動画を探してみたら本当に見つかってひっくり返った。これよこれ。ここにおってん俺は。
それから半年ほどが経ち、大きな注目を背に受ける中で遂にリリースされたデビューアルバムは、期待通りな部分もあれば少々食い足りない部分、また消化しきれない部分もあったりして、正直なところ賛とも否とも言い難い印象だった。何せメンバーの半分が被っているし、まだ解散からさほど時間も経ってないしで、どうしてもナンバガの影を追ってしまうところが自分の中にあったからだ。特にギターの録音面では田渕ひさ子のディストーションサウンドに比べるとどうも厚みが足りないと感じる場面が多々あったし(今にして思えば吉兼聡はそういうタイプのギタリストではないのはよく分かっているが)、収録曲のうち "INSTANT RADICAL" はナンバガ時代の楽曲の再構築だし、他にも "COLD SUMMER" や "MABOROSHI IN MY BLOOD" あたりも後期ナンバガからの延長線上にある曲調だと感じたしで、過去を払拭して新たなスタイルを提示できているとは思えず、向井らしいと言えば確実にらしい内容ではあるものの、当時はやや複雑な心境ではあった。
だが。すっかりザゼンの楽曲が体に染みついた今、久しぶりに今作を聴き直してみると、自分でも意外なことに、確実にザゼン以外の何物でもないという印象に変わっていた。と言うか1曲目 "Fender Telecaster" がいきなり飛び抜けて異様すぎる。音の隙間を多く残し、ジョリジョリのベースと硬質で抜けの良いスネアが際立つが、向井のファルセットボイスは対照的に渋味と郷愁を感じさせ、曲全体にはゆったりしつつも奇妙なファンクグルーヴが通底している。他にも "開戦前夜" や "KIMOCHI" 、"自問自答" といったアルバム内の要所に位置する楽曲で、現在のザゼンにもダイレクトに通じる鬼の形相のファンク要素を打ち出しており、この時点で向井のビジョンがある程度明確にされていることに、改めて気付かされる。経験値が足りてない当時の自分はまだそれ以外の旧来的なところにばかり耳が行ってしまい、向井の意識の変化についていけてなかったのだなというのを、今にして痛感する。まあでもアルバム全曲をそういう感じにしてしまうのもまだ時期尚早な気もするし、過渡期の難しいところではあるが。
そしてザゼン初、いや向井のキャリアにおいても初となる日本武道館公演がいよいよ来月に迫ってきた。チケットはめでたく完売。「メンバーの誰もがコードを全く憶えていない名曲などを含め豊富なセットリストを組み、二部構成をもってして3時間超の公演を行う」とすでに予告されているので、きっとこのファーストからも多くが披露されることだろう。リズム隊は松下敦と MIYA に交代し、当時よりもシャープでヘヴィな、なおかつキメの精度の高いアンサンブルに仕上がっていると期待できる。何より、自分が初めてライブを見てから20年、今なおバンドが高度なレベルを保ったまま継続していることにしみじみせずにはいられない。これまでにワンマンやフェスで何度もザゼンのライブを見てきたし、復活後のナンバガも見れた。それらを経てきた今、久しぶりの新譜を上梓した2024年のザゼンこそが向井のキャリアハイなのだと、自分を打ちのめしてくれるはずだ。何なら今のメンバーで今作を丸ごと録り直すのも面白いんじゃないか?そういう進化/深化を楽しめるのも、バンドのデビュー時と現在が一本の線で繋がっているからこそなのだと思う。