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Iggy Pop "Every Loser"

Jan 6, 2023 / Atlantic, Gold Tooth

アメリカ・ミシガン出身のシンガーによる、ソロ名義としては3年4ヶ月ぶりフルレンス19作目。

うへー、なんでこんな元気なんすかイギー先生!?

The Stooges の一員としてデビューしてから50年あまりの中で、Iggy Pop と言えばコレというのがそれぞれにあるだろうが、自分にとっては…まあベタではあるが "I Wanna Be Your Dog" と "Search And Destroy" が一番なのである。"Lust for Life" や "China Girl" とかではあんまりない。パンクロックの開祖たるエネルギッシュな野性味はもちろん、道化のように挑発的でユーモラスな、それでいて音の端々にまとわりつく淫靡な影がゴスの源流を感じさせる、この独特の猥雑なオーラを備えた激しさこそがイギーイズムの最たるものだと自分は考えている。

だがイギーはパンクロックのスタイルのみでこの50年を貫徹したわけではない。そもそもソロデビュー作 "The Idiot" の時点で David Bowie の全面バックアップを受けてのグラム/アートロックに方向転換していたし、その後も時代の流れに身を委ねるかのように、80年代に入ると思うさまニューウェーブに走ってみたり、90年代には Guns N' Roses の面々をゲストに迎えてハードロックを披露してみたり、かと思えば数年後にはグランジに鞍替えしてみたり、00年代にはニューメタルにも手を出してみたり…そして近作ではまたガラリと装いを変え、幽玄さを湛えたジャズに乗せて苦み走ったクルーナーボイスを聴かせている。良くも悪くも、まあ落ち着きがない。その時その時で最も刺激的なサウンドを貪欲に取り入れるのがイギーの本質なのだと考えれば、彼ほどラディカルな姿勢のミュージシャンはそうそういないだろうし、この雑多なディスコグラフィこそが「反骨」なるパンクスの哲学を如実に示しているとも言える。まあそれにしても尻軽すぎるきらいはあるが。

それで今作だが、ここに来てまた方向性がグルンと変わり、原点回帰と言えるド直球のやかましいパンクロックをカマしてくるのだから、何を考えているのか読めなさすぎて笑いすら込み上げてくる。演奏陣には久々の起用となる Duff McKagan (Guns N' Roses) 、Chad Smith (Red Hot Chili Peppers) 、そして昨年逝去した Taylor Hawkins (Foo Fighters) の名前も。つまりはガッツリ引き締まった筋肉質なアンサンブルというわけだ。メラメラと野心が滾っているのがこのメンツを眺めただけでもよく分かる。

曲調は割とバラエティに富んでいる。完全に「名は体を表す」を地で行く勢いの "Frenzy" や "Neo Punk" がある一方、Bowie プロデュース期を思い出させるニューウェーブ感の強い "Strung Out Johnny" "Comments" 、渋味に満ちた歌声を堪能できるミドルチューン "New Atlantis" "Morning Show" と、硬軟がバランス良く配置された流れは分かりやすくダイナミック。序盤でガッと盛り上げ、中盤で聴かせ…という、いかにもライブらしい展開だ。そして盛り上げ要員の楽曲はもちろんのこと、聴かせるタイプの楽曲においても今作は前のめり気味の勢いを不思議と感じるのである。余熱が収まりきっていない、燻ぶりの感覚がどの曲にもずっと持続している。なので中弛みはなく、実際の BPM 以上の体感速度で、11曲37分があっという間に過ぎていく。

だいたい、もう75歳にもなるジジイの新譜の1曲目が「チ〇コとキ〇タマがあればお前らよりマシだ」で始まるとかあるか?タチの悪い老害、それはパンクロック最大のアイコンであるイギーに対して、多くのファンが待望する立ち振る舞いであると思う。イギーが往年のイギーを演じるという、道化としてのある種の誠実さ。様々なコラボレーションを果たしながら、服を着替えるくらいの軽快さで音楽性をスイッチし続け、色とりどりの道化の姿を見せてきたイギー。そのパターンのひとつとして今作がある。パンクロックでこの50年を貫徹したわけではないと上では書いたが、彼はパンクアイコンとしてこの50年を貫徹したのだ。そしてそれが今も現在進行形で続いている。いくつになっても裸体を曝け出すことを忘れないイギーの終着点はいったいどこになるのか、最後まで見届けてやるぞ。


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