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AVPNカンファレンス2022に参加して注目した3つのこと

SIIF フィランソロピーアドバイザー
小柴優子

 6月20日~24日にインドネシア・バリで開催されたアジアン・ベンチャー・フィランソロピー・ネットワーク(AVPN)のカンファレンスに参加しました。全体としてインパクト投資への盛り上がりを感じるカンファレンスでしたが、その中で、新しいフィランソロピーの視点から注目したトピックスを3つ紹介します。

 AVPNはアジアの社会的投資や戦略的フィランソロピーに関わる組織・団体が登録するネットワークですが、今回は社会的投資機関や金融機関、企業なども含め、多様なプレイヤーが参加していました。個人や組織にさまざまなネットワークを提供する貴重な機会として捉えられています。今年はロックダウンの影響で香港、中国からの来場者はありませんでしたが、それでも会場に1,000人を超える参加者が集いました。

1度に1000億円のリスクマネーを調達するTED内の新たな取り組み

 今回私が特に注目した点の1つが、フィランソロピーを長期的に支えるリスクを許容するリスクマネーにおけるグローバルでの資金調達手法の進化です。今回、TEDの管理者クリス・アンダーソンがキーノートに登壇し、TEDのフィランソロピー戦略として行う、Audaciousプロジェクトの取り組みに驚かされました。Audaciousプロジェクト はTEDの中に作られた新しい組織で、寄付を集めるために、イノベーティブなイデアを持つ複数のチェンジメーカーと富裕層、ファミリーオフィスなどをリゾート地に招待し、大規模なプレゼンテーションを行っています。その1回の調達資金額はなん約8億ドル(日本円で約1,000億円相当)にも上ります。TEDへの信頼もあると思いますが、各団体のプレゼンテーションの素晴らしさが、オークション的な熱狂を生み出すのかもしれません。

  一方、こうした事例に対し、日本やアジアにおけるリスクマネーの提供者はまだまだ貴重な存在です。[フヨ1] 日本ではフィランソロピーの担い手もまだ少ないことを改めて感じました。

ソーシャルに関心の高い次世代ファミリーオフィスへの期待

 そんな中、新たなプレイヤーとしての期待値が上がったのが次世代ファミリーオフィスの存在です。私が出席した「The Growth of Impact Driven Family Offices in Asia(和訳:アジアにおけるインパクト志向のファミリーオフィスの成長)」というセッションでは、シンガポール、香港、インドシアからファミリーオフィスの次世代を担う3人が登壇しました。

 彼らは、両親や祖父母といった世代間の価値観の違いを乗り越え、ファミリーオフィスの中に新たな組織を作りながら、リスクマネーを提供する試みに取組んでいます。金融にも知識がありソーシャルに力を入れる若い世代が、新しいフィランソロピーの担い手として活躍するであろう可能性を感じました。

 香港やシンガポールは今、国を挙げてこうしたファミリーオフィスの誘致に力を入れています。彼らの多くはフィランソロピーにも関心が高いので、結果としてソーシャルも充実する。シンガポールにはアジアだけでなく、ヨーロッパからもファミリーオフィスが集まりつつあります。例えばノースイースト・ファミリーオフィスは数年前にシンガポールに拠点をつくり、チームを拡大して、インパクト投資やESG投資に力を入れ始めました。そこには純粋なフィランソロピーもあれば、投資もある。ソーシャルな感覚を持った金融業界の優秀な人材がシンガポールなどに集まっている印象を受けました。

ブレンデッドキャピタルの可能性を探る

 3つ目に注目したのは、リスクに対してさまざまなスタンスを取る資金を組み合わせるブレンデッドキャピタル(注1)の可能性です。ブレンデッドキャピタルは、最近よく使われる言葉ですが、違う性質のお金を組み合わせて1つのプロジェクトに投資すること。日本ではもともと非営利団体からの資金が少ないので、なかなかブレンドが難しいのですが、欧米ではこうしたプロジェクトが増えています。

 今回、このトピックについて、「Leveraging Catalytic Capital:The Role of Philanthropy in innovative Finance(和訳:カタリティック・キャピタル(注2)の活用:イノベーティブ・ファイナンスにおけるフィランソロピーの役割)」というセッションにパネリストとして登壇させてもらいました。カタリティックキャピタルは、インパクトを生み出すために、リターンを譲歩した条件で資金を提供したり、第三者からの追加投資を可能にする「呼び水的なお金」として資金を提供したりする触媒的資本のことだと捉えています。日本ではまだ例が少ないのですが、ブレンデッドキャピタルやカタリティックキャピタルの取り組みは、注目を集めています。

 特に一緒に登壇したソーシャルセクター向けのコンサルティング会社であるダルバーグは、Convergenceという組織を立ち上げ、フィランソロピーや民間投資家がつなぐブレンデッドファイナンスを組成するためのプラットフォームを設立しました。さまざまなリスクアペタイトの資金が混ざることで、多様なプレイヤーが目的を達成することを後押しできるのです。

 最後に雑感ですが、今回、アジア全体でAVPNへの来訪者数が伸びた一方で、日本のメンバーや参加者はここ数年ほとんど変わっていません。アジアでは今、ソーシャルな市場を作ろうとするエコシステムビルダーが熱を持って続々と登場していますが、言葉の壁や費用面もあってかこのイベントにおける日本のプレゼンスは、あまり高くない印象でした。今回ありがたいことにこのような機会をいただいた身として、このような機会をもっと利用して、海外からの好例を学び、日本のソーシャルにおけるエコシステムビルダーとして活かしていきたいと思います。


(注1)様々なリスク選好度の資本(公的資本、助成金、民間資本)を組み合わせることで、調達サイドにおいて全体の資金調達コストを下げたり、投資家サイドにおいて民間資本の利回りを上げたりする方法。

(注2)カタリティックキャピタルとは、不釣り合いなリスクや譲歩的なリターンを受け入れることで、他の一般的な投資家の参入を可能にするような、呼び水となる資本を指す。具体的には、
①市場リターンよりも低いリターンを許容する資金提供の役割:平均的な市場リターンが得られない案件への資金提供
②呼び水としての役割:不釣り合いなリスクや譲歩的なリターンを受け入れることで、一般的な投資家の参入を可能にする。
③実績作りの支援の役割: 投資先が新しいインパクトを生み出すためのビジネスモデルの実証を行うための資金提供。

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