B Lab™︎日本公式パートナーBMBJがSIIFとオフィシャルパートナーに。ともにインパクト・エコノミーの実現を目指します。
「B Corp™︎認証」は、グローバルな非営利ネットワーク「B Lab」が運営する企業認証制度です。社会や環境に対するインパクトや透明性、説明責任などの国際基準を満たす企業を「B Corp」と呼んでいます。
一般社団法人B Market Builder Japan(BMBJ)は、日本におけるB Labの公式パートナーです。2024年3月に新チーム体制による活動を開始し、SIIFとオフィシャルパートナーシップを結びました。今後は、SIIFが事務局を務める GSG Impact JAPAN National Partner(略称:GSG Impact JAPAN、旧称:GSG Impact JAPAN国内諮問委員会)において、大企業を対象とした「B Corporation™︎勉強会」を、順次開催する計画です。ここでは、BMBJメンバーから国内外におけるB Corpの現在地をお聞きしながら、インパクトエコノミーとB Corpの接点を掘り下げます。
世界104ヶ国で9,224社に達したB Corp。うち日本企業は45社
田村 今、世界のB Corp数はどのぐらいになっているんでしょう?
野田 2024年9月末時点でB Corp認証企業の数は9,224社に達しました。国の数にして104ヵ国、業界は162業種に渡ります。2006年の認証開始から2014年頃までは徐々に増えていった感じですが、2013年から2023年の10年間では、一気に8倍にまで増加しました。アジアに限定すると、2024年9月末時点で337社、うち日本企業は45社となっています。
鳥居 企業の中には、認証申請には至らないものの、セルフチェックのためにB Labのアセスメントツールを利用しているところもあります。アセスメント完了率が95%以上で未申請のアカウント数を数えると、2024年6月末時点でアジアだけで767件もの利用があります。
田村 BMBJが活動を開始したことで、国内の企業から多くの問い合わせが寄せられていると伺っています。どんな企業が多いですか?
鳥居 企業規模は様々ですね。大企業もあれば中小企業、スタートアップと、幅広く関心を持っていただいています。B Corpを目指す企業から認証制度や具体的な取得プロセスについての質問が寄せられるのはもちろん、B Corp認証企業を目指していないものの、B Corpに関連する企業からのお問い合わせもあります。日本語対応の窓口が設置されたことで、「B Lab」への連絡のハードルが下がったように感じます。
5分野各200項目以上のアセスメントで合計80点以上が必要
田村 申請から認証までは、どんなステップを踏むことになるのですか?
野田 B Corp認証企業になるための評価対象は「ガバナンス」「ワーカー」「コミュニティ」「エンバイロメント」「カスタマー」の5分野で、平均して200項目以上の設問があります。企業はセルフアセスメントで80点以上のスコアが取れていれば申請することができます。その後、BMBJが第三者として認証を取得できる資格があるか、アセスメントにある企業の基本情報が正しいか、などの確認を行い、さらにB Labネットワークを統括するB Lab Grobalのアナリストがアセスメントの検証をします。検証後も認証基準である80点以上を満たしていれば、認証料の支払いと契約書のサインをもってB Corp認証を取得することができます。状況にもよりますが、審査期間はおおよそ半年から9ヶ月ぐらいです。
鳥居 実際には、一度に審査できる企業数にも限りがあり、1年以上お待ちいただいた企業様もいらっしゃいます。世界的にも申請数が増加しており、日本でもなかなか検証が追いつかない状況がありました。ただ、BMBJの活動開始に伴い、審査プロセスの最初の段階をBMBJが担当することになり、以前よりも改善が進んでいます。
田村 点数が足りない場合も、改善のための猶予期間がもらえるんですね。
鳥居 B Corp認証企業になるための検証は、ふるいに掛けるために行うものではなく、B Corp認証企業になれるように後押しするためのものです。ただ、チェックはとても厳しく、得点を裏付ける詳細な証拠資料が求められますし、面談では微に入り細に入り質問されます。
田村 多様な文化・風土をまたぐ国際基準ですから、国によっても得手不得手があるのではないでしょうか。日本企業が苦手とする分野もありますか?
鳥居 おっしゃる通り、B Labの基準は国際的な基準でありながら企業のインパクトを全方位的に評価するため、その国の商習慣や社会的状況にあわない設問や苦手とする設問があります。日本企業は特に、「JEDI(ジェダイ)」と総称される「Justice(公正・正義)」「Equity(公平)」「Diversity(多様性)」「Inclusion(包括)」に課題が残っていると感じています。このあたりについては、これからGSG Impact JAPANの勉強会でも掘り下げたいと考えています。
B Corp認証によって信用を築き、国際的なコミュニティにも加われる
田村 日本企業にとって、B Corp認証を受けるメリットとは何でしょう?
野田 一般に、5つのメリットが挙げられます(下図)。B Corp認証企業であることは経済的価値と社会的価値の両立を示しますから、若い世代に会社の姿勢をアピールするための好材料になります。「1.人材の確保と維持」に役立つでしょう。第三者による厳しい審査を受けて認証されたことは「2.ビジネスの差別化、信用の構築」につながります。
また、B Corpは、グローバルなコミュニティを築き、力を合わせて経済システムを変革していこうとするムーブメントでもあります。地方の中小企業であっても「3. グローバルコミュニティの一員になれる」ことも大きいと思います。
さらに、B Corp認証には3年に1度再検証・再認証を受ける仕組みがありますから、定期的に「4. パフォーマンスを計測し、改善できる」というメリットもあります。そして、B Corpという新しい切り口によって「 5. メディアに取り上げられ、認知が高まる」ことも期待できます。
鳥居 もっとも、残念ながら現時点では、日本におけるB Corpの認知度はまだまだです。今認証を受けている国内のB Corpは必ずしも「認知度を高めるためにB Corpを目指した」というわけではないと思います。むしろ、経営の指針としてグローバルな基準に照らし合わせたいという、内発的な動機から認証を受けた企業が多いといえるでしょう。
BMBJとの連携でインパクト・エコノミーを面的に拡大
田村 SIIFは、インパクト・エコノミーの実現を目指す活動の一環として、BMBJとパートナーシップを結ぶことにしました。その意図を改めて、インパクト・エコノミー・ラボ副所長の戸田さんから説明していただきます。
戸田 SIIFが事務局を務めるGSG Impact JAPAN Impact JAPAN(旧称:GSG Impact JAPAN国内諮問委員会)を含む、インパクト・エコノミーを推進するグローバルネットワーク組織GSG Impactの会長・ロナルド・コーエン卿の定義によれば、インパクト・エコノミーとは「社会及び環境インパクトの測定(・マネジメント)が、あらゆる経済活動に統合され、政府・ビジネス・投資・消費における意思決定の中心にあること」です。SIIFはこれまで、主に投資分野においてインパクトを追求してきましたが、これをさらに、ビジネスや政治、消費にも広げていかなければなりません。
B Corp認証はインパクトマネジメントを実行する企業を明らかにすることで、消費者がインパクトに基づいてサービスや商品を選ぶ手がかりを提供しています。BMBJとの協働によって、政府との連携や消費者への啓発活動といった、面的な広がりを強化していきたいと考えています。
鳥居 B Corpは認証制度でもあり、コミュニティ、そしてムーブメントでもありますが、これらを通じた最終的な目的は「インクルーシブかつ公平でリジェネラティブな経済」の実現です。それはすなわち、経済全体の「システムチェンジ」です。そのためには、立場の異なる様々なステークホルダーと、オーケストラのようにコラボレーションしていくことが必要です。そういう意味で、インパクト・エコノミーを追求するSIIFは、BMBJにとってまたとないパートナーだと思っています。
今年度の具体的な活動としては、SIIFさんが事務局を務める GSG Impact JAPAN(旧称:GSG国内諮問委員会)との共催で、大企業を対象とした「B Corporation勉強会プログラム」の開催や、全6回の記事でB Corpの世界とインパクト・エコノミーを接続する当連載「B Corp視点でみるインパクトエコノミーの探究」の発信などを実施していきます。
GSG Impact JAPANとB Corpが日本でつながりをつくり、グローバルに広げる
野田 インパクトスタートアップと比較して、B Corp認証企業のどのような点に注目していますか?
戸田 インパクトスタートアップとの比較で考えると、B Corpの認証を受けた企業は必ずしも事業そのものでインパクトを狙う企業に限らない点が特徴といえます。ビジネスモデル自体は従来型であっても、事業を通じたネガティブインパクトの低減を目指す企業が含まれる。その点も注目しています。
野田 とはいえB Corp認証企業にも今後は、ビジネスでポジティブインパクトを目指す視点が必要になると思います。インパクトスタートアップとB Corpが混ざっていくことで、いいシナジーが生まれれば面白いのではないでしょうか。
戸田 SIIFとBMBJが協働することで、グローバルなネットワークが広がることにも期待しています。SIIFはGSG Impact JAPANの、BMBJはB Labの日本事務局ですから。
野田 その意味でも、GSG Impact JAPANで開く大企業向けB Corp勉強会が、最初のカギになりそうです。
田村 GSG Impact JAPANのメンバーは多くが投資家なので、これまでは主にインパクト投資について議論してきました。今後はもっと視野を広げてインパクト・エコノミーを考えていくべきではないか、という段階に来たところだったんです。とてもいいタイミングでBMBJとのパートナーシップのお話をいただいたので、この勉強会を企画した次第です。
戸田 この5年、10年でインパクト投資はかなりの成長を遂げましたが、インパクトを創出する主体はやはり企業ですから。投資家がB Corpに学ぶことは多いと思います。
鳥居 インパクト・エコノミーという全体を考えたとき、ビジネスや消費における意思決定のひとつとしてB Corpの基準は役に立つと思います。基準には、「ワーカー(企業で働く人)」や「コミュニティ(地域社会やサプライヤー)」、「カスタマー(顧客)」に対する取り組みの評価も含まれていますので。
戸田 個人から組織まで、様々なレベルや立場のステークホルダーが視野に入っているということですね。そういう意味でも、経済界のメンバーが多いGSG Impact JAPANと、SIIF、またビジネスや消費、政府分野に取り組むB Corpのコミュニティが接続することには、非常に大きな意味があると思います。
==============
<本記事のマガジン>