分科会活動報告#02 地域金融分科会〜3つの戦略テーマ、2つのモデルを策定。対外発信にも取り組む
インパクト志向金融宣言分科会の活動報告、第2回は地域金融分科会をご紹介します。この分科会は「①地域インパクトの底上げのための情報発信」「②インパクトを基点とした地域金融機関の融資業務とファンドの投資業務の接合のあり方」「③地域インパクトファイナンスの共通指標の検討」を戦略テーマに掲げて活動しています。
共同座長はインパクト志向金融宣言の運営委員会委員長でもある三井住友トラスト・ホールディングスの金井司氏と静岡銀行の山崎剛氏が務めています。
「インパクトファイナンスの4象限」を考える
ーーまず、これまでの議論の経過について教えてください。
山崎 地域経済の活性化や持続可能なまちづくりといった地域課題に対して、金融機関が担うべき役割は非常に大きいと考えています。分科会で議論を始めるに当たって設定したテーマが、前述の「①情報発信」「②融資と投資の接合」「③共通指標の検討」の3つでした。①の「情報発信」については、分科会のメンバーがそれぞれの成功事例や抱えている課題について共有し、対外的にも発信していければと考えています。
金井 静岡銀行さんが自らの経験や蓄積を開示してくださって、それをベースに議論できたので、内容も深く、有益なものになりました。そこから例えば、②の「融資と投資の接合」の起点となる考え方として「インパクトファイナンス4象限」というアイデアが生まれました。それが下の図です。
金井 どのアセットクラスにおいてもインパクトファイナンスの基本は同じだと思いますが、現実には別ものと考えられがちです。しかし、例えば地域のスタートアップを支援する際、ベンチャーキャピタルと地域金融機関の連携は欠かせませんが、両者のインパクト評価が異なってはうまくいきません。多様なアセットクラス間に横串を通すには、どう考えればいいのか。それを示したものが、この4象限図です。
山崎 企業やビジネスの成長に伴って、どこかのタイミングで投資から融資に切り替わることが想定されますが、このときに地域金融機関が担うべき役割について、検討していきたいと考えています。また、インパクトファイナンスの対象先であるお客さまの規模、業態、サステナビリティ経営に対する取り組み状況はさまざまです。インパクトファイナンスを広めていく上で、金融機関、投融資先企業双方にとって、何か共通の指標があれば取り組みやすくなるのではないか。これがテーマ③「共通指標の検討」です。
地域ポジティブインパクトファイナンスの三層構造
山崎 私としては「議論のきっかけになればいいな」というぐらいの気持ちで提案したのが「インパクトウェディングケーキモデル」のアイデアでした。「ウェディングケーキモデル」を分科会で発展させたものが下図の「地域PIFの三層構造」です。分科会に持ち込んで議論したことで一定の普遍性が確認でき、1つの形にまとめあげることができました。
金井 それが、インパクト志向金融宣言のいいところですよね。立場を異にするメンバーが一堂に会して議論して、みんなで1つのものをつくりあげる場は、ほかにはなかなかありません。
山崎 この三層構造も今後改定されていく可能性はありますが、同モデルは環境省の『ESG地域金融 実践ガイド』に掲載されることになりました。
金井 インパクト志向金融宣言の成果物として、初めて公に発表されるものではないでしょうか。地域金融分科会のみならず、インパクト志向金融宣言としても、とても大きな成果といえるでしょう。
ーー三層構造モデルについて、少し説明していただけますか?
金井 三層構造のうち、下位の二層はいわゆるESG的な領域です。この部分の取り組みは、直接利益を生む要素ではないけれども、そのための基盤に当たります。地域金融機関がしっかり支援するべき部分でしょう。ここで、静岡銀行さんの経験や現場感覚の蓄積が重要な意味を持ちます。中小企業の二層に関しては、共通項を抽出することで、対話手法をある程度マニュアル化できるだろう、ということなんですね。
山崎 環境負荷の低減とか健康経営といった課題は、どんな企業にも使える共通指標になりえると思います。そこはきちんとおさえつつ、おのおのの企業がどんなポジティブインパクトを出せるのかが上位の課題になります。
中小企業のイノベーション支援は地域金融機関の役割
金井 中小企業が地域の発展とともに自らの企業価値を高めるためには、イノベーションが不可欠です。イノベーションとサステナビリティは密接に関わります。一方、イノベーションで勝負するスタートアップをファイナンス面で支援するのは、一般的にはベンチャーキャピタルの役割です。では、社歴の長い中小企業のイノベーションは誰が支援するかといえば、まずは地域金融機関ということになるでしょう。中小企業庁の調査によれば、イノベーションに取り組んでいる中小企業は全体の2.3%に過ぎず、必要を感じていても取り組めていない企業が43.2%。54.4%はイノベーションの必要すら感じていないそうです。中小企業が持つ強みをイノベーションに繋げ、ポジティブインパクトを創出できるようにするためには、地方金融機関が牽引の役割を担う必要があるのではないでしょうか。
山崎 責任重大ですね。ポジティブインパクトの2つの視点、「地域視点」と「グローバル視点」のうち、地域視点はやはり私たちの役目だと思います。中小企業のすべてがイノベーティブになれるかといえば、業種によっては難しい側面があるわけです。けれども、地域にポジティブな影響を与えられる可能性はあります。静岡の例でいうと、ある製茶業を営む会社は収穫茶葉の全量買い取りを行う契約農家数を増やすことをKPIに定めています。全量を買い取ってもらえれば、農家にとっては収入の安定につながりますし、ひいては、地域産業の保全や地域経済の活性化にも寄与するでしょう。グローバル視点のインパクトに比べれば規模は小さいかもしれないけれど、地域にとっては重要です。こうしたポジティブインパクトをいかに見付けて最大化していくかは、地域金融機関が果たすべき役割の1つだと思います。
金井 地域にポジティブなインパクトを与えるビジネスは、地域の顧客ニーズに適うはずだし、収益も上がるはずなんです。もう1つ、「②融資と投資の接合」に話を戻すと、例えば地域でポジティブインパクトを創出するスタートアップの上場後、ベンチャーキャピタルが行ってきたIMMを引き継ぎ、伴走支援を継続するのは地域金融機関だと思います。ここが接合の課題だと考えています。
多様なアセットクラスの役割を整理し、連携する
ーー分科会の成果として2つのモデルを提示され、議論も徐々に深まっているようですね。今後の展望についてはいかがお考えですか?
山崎 この分科会の特徴は、さまざまなアセットクラスの人が参加していることです。お互いの共通項を見付けるのが難しい面もありますが、4象限モデルを示したことで、おのおのの役割や責任を整理しやすくなったのではないでしょうか。
金井 4象限モデルも三層構造モデルも、地域金融に限らず、デファクトスタンダードとして活用できるのではないでしょうか。今後はIMM分科会やVC分科会、ソーシャル指標分科会などとも連携していきたいと考えています。
山崎 1年目の去年は、まず自分たちの進むべき道を見定める段階でしたが、今後は仲間を増やしていきたいですね。金井さんのご尽力で、「21世紀金融行動原則(https://pfa21.jp/)」とセミナーを共催することになりました。こうした対外的な活動を行うことでインパクト志向金融宣言の認知を広げ、各地の地域金融機関の間にも賛同を広げていきたいです。
金井 進むべき道を見定めたことは、この1年の大きな進歩です。今後は、この3つの活動テーマを、いかに中期計画につなげていくかがポイントになるでしょう。