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産官学連携 インパクトコンソーシアム 地域・実践分科会 開催報告【4】丹後地域フィールドワーク:支援者編

インパクトコンソーシアム「地域・実践分科会」は、全4回のオンライン会合に加え、地域でインパクト創出に取り組む現場に足を運び、当事者の方々と議論を交わす、フィールドワークを企画しています。その第1回として、2024年12月5日〜6日に京都府北部の丹後地域を訪ねました。
 
日本海に面し「海の京都」と呼ばれる丹後地域は、日本三景「天橋立」など観光資源に恵まれているものの、大都市圏からの交通アクセスにやや難があります。人口減少・高齢化のスピードも速く、2022年には高齢化率38.8%に達しました。
 
企業の数も減っていますが、一方で、地域への熱い思いを持つ継承者や起業家も現れています。京都市に本拠を置くウエダ本社は、2022年1月に丹後・与謝野町にイノベーションハブ「ATARIYA」を開設し、中小企業庁の地域実証事業(地域の社会課題解決企業支援のためのエコシステム構築実証事業)の採択を受けて、地域のコミュニティ形成やビジネスエコシステムの構築に取り組んでいます。
 
今回のフィールドワークでは、地域の支援者であるウエダ本社と地元金融機関の京都北都信用金庫、事業者であるローカルフラッグ、クスカの合計4社を訪問しました。ここでは、フィールドワークに参加したSIIFメンバーから、その成果と振り返りを報告してもらいます。

(左から)SIIF 常務理事 工藤七子
インパクト・エコノミーラボ インパクト・カタリスト 古市奏文
インパクト・オフィサー 古林拓也

京都北都信用金庫:ソーシャル企業を認証し、価値向上や融資につなぐ

ーー実際に丹後地域に行ってみて、どんなことを感じましたか?
 
工藤 日本の過疎地の一典型といえるのではないでしょうか。京都府といっても、JR京都駅から特急でも約2時間かかるところです。空の便がないこともあって、私が住む中山間地、島根県雲南市よりも不便かもしれないと感じました。京都北都信用金庫(以下、北都信金)の方に「地元の課題は何ですか」と伺ったら「所得が低いこと」だとおっしゃっていました。今回お会いした事業者さんたちも、自分の事業の成長スピードよりも地域の衰退スピードのほうがずっと速いと感じているそうです。切実な危機感がまざまざと伝わってきました。
 
けれども、そんな状況だからこそ、地域金融機関は背水の陣で果敢にチャレンジしているし、若い経営者たちを本気で叱咤しながら支援している。地域経済のキーパーソン同士がリアルにつながる、過疎地ならではのエコシステムを垣間見たように思いました。
 
ーーでは、その北都信金のチャレンジから伺いましょうか。
 
工藤 北都信金は、京都信用金庫・湖東信用金庫と一緒に「ソーシャル企業認証制度 S認証」を立ち上げた、とても先進的な信用金庫です。信用金庫である以上、営業地域は限定されていますから、地域とは運命共同体です。視察に対応してくださった足立常務の語り口からも、丹後地域の振興に注ぐ熱意が伝わってきました。
 
古市 S認証は、インパクト創出の実績を問うというより、企業の理念や経営方針、活動内容について「世のため人のための取り組み」「地域社会や地域の人々に与える影響」を第三者評価し、認証する制度です。認証によって、社会に貢献している企業が可視化されたり、企業同士がつながったりする効果が期待されています。
 
北都信金は、このS認証を受けた事業者を対象に、原則担保不要で金利を優遇する「ソーシャル・グッド融資」を設けていて、すでに5件の融資実績があるそうです。認証だけに終わらせず、ちゃんと資金提供につなげているところが素晴らしいと思いました。
 
古林 S認証は、コミュニティを形成するための装置にもなっているようです。申請の段階から信用金庫が事業者をサポートし、そこで対話が行われる。「御社の本質的な価値はここにあるのでは」「この事業は社会課題の解決にこうつながるのでは」といった問いかけを通して、企業は地域における自らの存在意義を再確認できる。北都信金はこの仕組みを、とてもうまく活用しているようにお見受けしました。
 
北都信金は、丹後地域の事業者の約6割がメインバンクと名指しする金融機関だと伺っています。行政は首長も担当者も数年単位で交代しますから、長期にわたって地域経済を支えるのは金融機関の役割ともいえます。なかでも信用金庫は地域と一心同体で、自らの事業継続のためにも責務を果たしていかなければならないという強い使命感を感じました。

ウエダ本社:地元に愛された元料亭をイノベーションハブとして再生

ーー地域中間支援に取り組むウエダ本社とは、どんな会社ですか?
 
古林 1938年に文具卸業から始まった会社で、その後、オフィス家具やコピー機などを扱うようになりました。現在の社長である岡村充泰さんは創業者の孫にあたりますが、当初は家業を継がず、繊維専門商社のアパレル部門を経て自ら貿易会社を興したそうです。このときに欧米の人々の働きぶりや価値観に接したことが現在の経営方針につながる原体験になっているようでした。岡村さんは、ウエダ本社の経営立て直しのため、2002年に社長に就任しています。
 
現在、ウエダ本社は「働く環境の総合商社」を旗印に、働く人に焦点を当てた「ワークプレイスデザイン」を手掛けています。オフィス設計に先立って、そこで働く人たちとワークショップを行い、どうすれば生き生きと働けるかを一緒に考えてコンセプトをつくるそうです。
 
古市 いろんな企業と一緒に人々の働き方について考えてきた会社なので、「インパクト」という言葉を使うまでもなく、おのずと地域におけるソーシャルな役割を担っているように見えました。地域のネットワークのハブになっているような会社ですね。
 
ーー丹後地域ではどんなことをしているのでしょう?
 
古林 与謝野町の元料亭をリノベーションし、地域のイノベーションハブとして運営しています。発案者は王智英さんというウエダ本社の社員の方で、この建物が取り壊されるかもしれないと聞きつけ、岡村社長に買い取りを進言したそうです。地元で長く親しまれてきた料亭だったとのことで、人々の記憶を継承する意義もあったと伺いました。名称も、料亭の「當里家」を引き継いで「ATARIYA」としています。
 
建物は2階建てで、1階にシェアキッチンと、庭が眺められるコワーキングスペース、地域の名産品を紹介する「丹後セラー」と名付けたショーケースを設けています。2階は40畳敷きのスタジオで、イベントやライブ配信ができるようになっています。ここでときどき「事業拡大相談会」を開いて、地域の中小事業者の悩みに答えつつ、交流の機会を設けているそうです。
 
古市 開業記念日には「ATARIYAびらき」と銘打って、地域の人たちが子どもを連れて遊びに来れるようなイベントを開催したと伺いました。街のコミュニティスペースにもなっているようですね。
 
古林 ウエダ本社にとって、「ATARIYA」は事業拠点というより、丹後地域の事業者の連携を促したり、地域住民のシビックプライドを尊重したりするための場であるようでした。岡村社長に「ラボのような機能ですか?」と質問したら「私たちの企業理念を体現する場です」という答えが返ってきました。言語化や数値化は難しいかもしれないけれど、いずれは地域社会の価値につながっていくはずだという、そんな考え方がとても印象的でした。
 
古市 地域の企業同士をつないだり、地域外の技術や知識との接点を設けたりして、地域経済の好循環を促していく。ウエダ本社が目指しているのはおそらくそういう価値なんでしょう。
 
工藤 特に地方では、中間支援のあり方が課題の1つなんですよね。コーディネート専業では収益が上がらないので、どうしても自治体からの委託頼みになってしまう。ウエダ本社の場合は無借金経営の本業があったうえで、経営者自らが「地域をよりよくしたい」という強い意思を持って支援に取り組んでおられます。「ATARIYA」は、今はコストセンターだけれども、地域での貢献が認められれば、いずれは企業に対する信頼や顧客のロイヤリティにつながっていくでしょう。地域のプラットフォーム的なビジネスを営む会社が、本業の傍らで中間支援を担う手法は、他の地域でも応用できるかもしれません。


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産官学連携 インパクトコンソーシアム 地域・実践分科会 開催報告【5】丹後地域フィールドワーク:事業者編

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