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連載「今、会いたい投資家」シリーズ vol.2 taliki 代表取締役CEO 中村多伽

2020年12月、社会課題解決ベンチャー特化型ファンド「talikiファンド」を立ち上げた株式会社taliki。代表取締役、中村多伽さん自身も22歳で起業した大学生ベンチャーでした。「命を落とす人、死ぬより辛い人の絶対数を減らす仕組みをつくる」をビジョンとし、社会課題を解決する人を応援するZ世代の投資家に、これからの社会起業家支援を聞きました。

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(中央) taliki 代表取締役CEO 中村多伽 (撮影:岡安いつ美)
(右) SIIF 常務理事 工藤七子
(左) SIIF インパクト・オフィサー 加藤有也


インパクト投資という括りとはちょっと違うと思っている

加藤 2020年12月にファンドを組成してから周囲の反応はいかがですか?
中村多伽さん(以下、中村) 2021年3月に発表したタイミングではすごく反響をいただきました。1つは社会課題解決に特化したこと、2つめはエクイティ投資とプロフィットシェアの2つの投資方法があること、3つ目はtaliki自身がスタートアップであり、女性の代表パートナーとしては私が国内最年少で、若いということ、京都で頑張っているということにポジティブな反応をいただきました。
加藤 talikiさんは非常にクリアなミッション持っているという印象があります。自分たちが投資することで未来が変わるという視点は、どういう経緯で持たれたんですか。そして、未来にどういう変化をもたらせるか、実際のイメージがあれば教えてください。
中村 私たちがやっていることは、「インパクト投資」という括りとはちょっと違うんだと思っています。私たちの場合、社会課題をどう解決するかということがスタートで、その一つの手段として、「関与人数を増やしてリソースの流入が起きやすいビジネスにする」というスタイルがあり、そこが起点なんです。財務的に成功するためだけの投資という文脈だと、マーケットに魅力がないと断らなくてはいけなかったり、評価軸はリターンや成長率などで固定化されている。でも私たちは、社会課題解決をすることが優先順位として高いので、世の中になくてはいけない事業なのに外部から支援されない状況を少しでも改善したいと思っています。
加藤 「インパクト投資とは違う」というお考えは興味深いですね。
中村 私たちは従来だったらビジネスにしにくかったり、マーケットとして魅力がないと思われているところを様々な工夫やファンの力によってビジネスに昇華させていくことをやりたいと思っていて、一般的なインパクト投資のようにすでに市場が成立している事業領域でインパクト面を再評価していくということとは本質的に違うと感じているところがあります。たぶん私たちがインキュベーターから始めていることが大きいと思います。まず起業家と「この事業でどうやってお金もらう?」から始まり、ディスカッションして、事業化し、運営していく。そうして、より資金が必要になるから投資していく。そのフェーズの違いだと思っています。

大事なのはユーザーと向き合い、課題の解像度が高いこと

加藤 起業家は将来世代を対象にしていますがどのような理由でそうされていますか。
中村 特に世代に大きなこだわりがあるわけではないのですが、自分自身が学生起業してディスアドバンテージを感じることも多かったというのは理由としてあります。ビジネス経験も人脈もお金もないのにそれでも誰か困っている人の課題を解決しようという志をもった若い起業家が実際にいて、圧倒的にハンデを負っていると思うので、そういう起業家を積極的に支援しようとするファンドがあってもいいんじゃないか、と思ってます。
加藤 起業家さんと向き合うときはどんなことに注力して対話していますか?
中村 シード期からアーリー期を対象として投資をしているので当然ビジネスモデルの判断はできないケースのほうが多いです。ただ、逆説的ではありますが、シード期にもかかわらず「課題の解像度が高い」ことを重視してますね。お金をかけずにできることをどれだけ進められているかが課題に対する本気度や、経営者の思考力、人間力につながっているという仮説ですね。もう一つは「やらずにはいられない」という継続性を見ています。自分の心を壊してでもやろうとする人は放っておけないし、やり続けたらいつかは成功する。
加藤 課題の解像度と継続性ですね。実際に投資先の起業家さんとのエピソードはありますか?
中村 1号案件のブイクックの工藤くんは素晴らしいですね。ヴィーガンのためのレシピサイトを立ち上げた方なのですが、ご本人がヴィーガンなんです。高校生の時からずっとヴィーガンを実践しており、22歳にしてすでにユーザーの困りごとがよくわかっています。それでも、彼は自分の経験にこだわらず、100人、200人という当事者に話を聞きに行っていました。社会起業家全般に言えることですが、彼の目的は課題解決なので、継続性の点では、競合他社を倒していくぜというのよりも、皆でマーケットを作っていこうというタイプです。
工藤 理詰めで投資の合理性を考えていくのではないところが魅力的ですね。
中村 理詰めで考えたほうが楽だなとは思いますが。
工藤 ビジネス経験もなくて、若くて人の痛みまで背負おうとしている人を、「自分が面倒みるしかない」という発想ですよね。成功確率の高そうなところだけを刈り取ろうという思考とは真逆ですね。
中村 肥沃な土地ならピカピカなところを刈り取るのもいいけれど、砂漠化しそうなタイミングでそれをやったら何も未来に繋がらない。耕して種を植える人がいないとみんな不幸になってしまうという気持ちもあります。成長しそうな芽を刈り取る方が楽だし儲かるから短期で見ると合理的ですけど、長期的には非合理的なので自分はできない。ただ投資先が成功することによって、資本主義の論理の中で生きている人たちにも、社会課題解決に関与すると成功するぞ!という成功体験を作りたいという気持ちはあります。

IPO や M&A の規模感がなくても出資できる仕組み

加藤 プロフィットシェアについてもう少し詳しく教えてください。
中村 プロフィットシェアは匿名組合契約を作って出資し、利益が出たタイミングで年間数%ずつシェアしていくやり方です。金利換算すると融資より圧倒的に高くなりますが、融資と違って過去の信用や実績ではなく、未来の可能性を見るので、クレジットヒストリーがなくても出資できる。保証もつかないし、担保も持たないので、万が一会社が解散しても返済義務は一切発生しない。最大の特徴はエクイティを一切取得しないので将来 IPO や M&Aが見込める規模感がなくても出資できる。デメリットとしては利益から分配するので赤字を掘るビジネスには向いていないし、後からエクイティの出資を受けるのも利益相反になりうるので難しい。
加藤 どちらの方法を採用するかという判断基準はありますか。
中村  基本的には起業家に選んでもらっていますね。要素としては IPOやM&A をするつもりがないところ。そのあたりは起業家の方の指向性と市場規模を一緒に考えて決めてもらいます。若い起業家は実はIPOにあまり関心のない人も多い。「IPO目指します、と言っているけど、ほんと?」とよく聞くと「そう言わないと調達できないから…」ということが結構あります。
加藤 取り組む課題の質はどのように見ていますか?SIIFでは少し分解して、課題の「広さ」「深さ」「期間」の3軸で整理することがあります。例えば、この課題は当事者にとって一見浅いようだけど、苛まれている人数は非常に多いし、一生つきまとう課題だ、だから重要な課題ではないか、と議論したりしています。
中村 その整理ですとまずは「深さ」を見ますね。エクイティで投資する場合は「深くて、広い」はマストになります。プロフィットシェアでは、広さよりも課題の深さ、深刻さを何より重視します。例えば、元受刑者の方の社会復帰という課題があります。日本では犯罪数自体は減少傾向にあるのですが、再犯者率は50%です。この課題は社会構造全体を変えないと下がりません。たとえ元受刑者の方の数自体は少ないとしても、というか少なくなるほうが好ましいわけで、それでも課題の深さという点で重要な課題だと考えています。
加藤 対象とする課題領域にはこだわりや優先順位はありますか。
中村 ジャンルは絞っていません。ただ既存の事業者が既にいるところや、代替手段が優れている領域はビジネスとしても魅力的ではないし、その人がやる必然性もあまり感じない。むしろ誰も手をつけられていないところに乗り込むほうが、ビジネスには最初なりにくいけれども課題解決の促進や先行者優位という観点で希望を持てる。
加藤 SIIFもシード期の社会起業家支援をしているのですごく共感しますね。最初のコンタクトから投資の判断に至るまでのスピードはどのくらいですか。
中村 ファンド運営は2人でやっているので決断はすごく早いです。連絡をいただいたら翌営業日には返信します。私が面談に入ったら、投資の可能性があれば宿題を持って帰ってもらい、翌週にはより細いヒアリングをして、資料を頂く。スムーズに行けば、その次の週には契約を締結できます。
加藤 トータルで言うと2、3週間ですね。素晴らしいスピード感ですね。

ポジティブなおせっかいを続けていきたい

加藤 もし、起業家がtalikiファンドから投資してもらいたいと思ったら具体的にどうすればいいですか?
中村 詳細な資料や上手なピッチよりも、まずはユーザーにきちんと向き合っていて欲しい。ユーザー検証と課題の解像度の高さですね。取り繕わなくていいので、感じていることを教えて欲しい。面談でそれを聞いて、いいじゃんとなれば投資検討しますし、投資以外の相談も気軽に受けています。
加藤 インキュベーションの経験もあるし、ネットワークもありますよね。こんな言い方がよいかわかりませんが、ポジティブな「おせっかい感」がありますね。
中村 VCをやって感じるのは、お金の出し手はなんぼでもいるということです。お金以外の価値を出していかないといけない、という思いがある。できないこともありますが、そういう無力感を糧にしつつ、おせっかいをして行こうと思います。

インパクトを測るとリソースの最適配置ができる

加藤 課題解決のインパクトを測ることについてはどう思われていますか?
中村 インパクトを測ることは明確に意味があると思っています。私の中での解釈は、インパクト測定の意義はリソースの最適配置と巻き込み力向上の2点。どこにどう費用をかけたらどのくらい課題が解決したかが分かる方が、限られたリソースを上手に使えるし、課題解決が進みやすい。それは目指すべきだなと思っています。もう一つ、説得力を持って人やリソースを巻き込むという点では、誰が見ても分かるようにインパクトは測った方がいいなと思っています。ただ難しいと思うのはシード期だと、測れるほどの規模感にないこともある。
加藤 インパクトはいつから測り始めるべきか、ですね。とても大事な課題だと思います。早すぎると手が足りないし、遅すぎると逆に大変になってしまうケースもあります。例えばIPOを目指し始めたタイミングからでは、すでに出来上がった会社のシステムや職務分掌に手を付けなくてはいけなくなり、疲弊してしまうかもしれません。SIIFとしても、組織が出来上がる前のシード・アーリーのタイミングから、無理なくインパクト測定・マネジメントを経営に織り込めるような仕組みを作っていきたいと思っています。
中村 それはめちゃくちゃいいですね!ぜひ開発してください!
工藤 冒頭に「私達はインパクト投資じゃない」とおっしゃっていましたが、今日話を聞くとむしろtalikiさんがやっていることがインパクト投資の本質だと個人的には感じました。政府と非営利団体に任せていたジャンルを市場の中で解決していく、ビジネスになりにくいところをビジネスにして、より本質的な課題解決につなげるーー本来それがインパクト投資のコンセプトだと思います。talikiさんのような投資家をどれくらい増やせるかがインパクト投資業界の勝負だと思っています。インパクト評価やインパクトマネジメントって別に投資家への説明責任のためだけにあるのではなくて、本当に社会課題解決をしたい起業家だったら、解決できているかを確かめにいきたくなるのが自然なんだと思うんです。一緒にやっていけたらいいなと思いました 。
中村 ぜひ一緒にやりたいですね 。日本のインパクト投資のナレッジがSIIFさんに集積されていきつつあるので、ぜひそれを投資家やファンドに広めていただきたいですね。


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<talikiファンド概要> 詳細はこちら>>
① ファンド概要
・ファンド名称:taliki1号投資事業有限責任組合
・ファンド運用者:taliki有限責任事業組合(代表組合員:株式会社taliki)
・設立日:2020年12月
・ファンド規模:総額3億円

② 投資方針・対象
・投資哲学・理念:社会課題領域に対して「解決しなくてはいけない」とアクションを強要するのではなく、ステークホルダーが経済的に成長するような仕組みや、消費者が「素敵だから購入する」と思えるようなサービスを開発し提供することで課題解決を行う企業に出資
・投資対象・テーマ・セクター:国内に事業所があり社会課題解決を目的とする営利企業
・投資対象ステージ:シード・アーリー
・投資金額:1社あたり500万円〜3,000万円程度

③ 投資・支援手法:
・投資手法:普通株式・優先株式・プロフィットシェア
・投資回収手法:エクイティの場合はIPOもしくはM&A、プロフィットシェアの場合は分配条件を満たした際に一定の割合で利益を分配
・非財務支援:立ち上げの伴走支援、支援先同士のマッチング、パートナー企業との販路拡大・営業支援


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