見出し画像

社会に希望の旗を立てる。「SIIFで働く」ということ。第3回:社会課題解決への情熱を、経済と掛け合わせて働く

民間企業で経験を積んできた人にとっては「非営利の財団で働く」ということがどんなことなのか、イメージが湧きにくいかもしれません。売り上げや利益といった数値目標がないなかで「社会変革を推進する」ために、どんな姿勢で臨んでいるのか。今回は、専務理事・青柳光昌と常務理事・工藤七子が改めて、「SIIFで働くということ」について語り合います。

前回の記事 
第2回:社会変革のために、民間非営利団体ならではの役割を希求する


社会課題解決に向けた熱意と組織人としての柔軟性があればいい

工藤 これまでの話を踏まえると、SIIFで働くのに向いている人ってどんな人でしょう?
 
青柳 SIIFが注力する3つの社会課題テーマ「機会格差」「地域活性化」「ヘルスケア」について、関心を持っているに越したことはないですよね。もっとも「社会課題を解決したい」という熱意さえあれば、必ずしもこの3つのテーマにこだわる必要はありません。ただ「社会をよりよくしたい」というピュアな志だけは持っていてほしいし、持ち続けてほしいですね。
 
一方で、組織で働く以上、1つの分野、1つの課題にこだわりがありすぎると、ご本人が辛くなるかもしれない。そこはレイヤーを上げるというか、抽象度を高めたほうが柔軟に考えられるのではないでしょうか。

工藤 「ライフミッション」とまでいうと大げさかもしれないけれど、個人として追い求めたい何かがあって、それがSIIFのミッションと重なれば、お互いに幸せでしょうね。
 
改めてSIIFのミッションをお伝えしておくと、「社会的・経済的資源循環のエコシステムをつくる」。自助・公助・共助の枠組みを超えた、資源の循環モデルの構築を目指しています。

社会課題への意識と経済・ビジネスの知見を融合する仕事

青柳 第1回でお話ししたSIIFの設立経緯にもつながるけれど、市場経済が持つパワーを社会課題解決のために振り向ける、その可能性を信じてコミットできるということも重要です。
 
私自身は新卒で日本財団に就職して、ずっとフィランソロピーの世界で仕事をしてきました。いろんな現場を経験して、思索を重ねてきたわけだけど、10年ほど経ったとき、自らの経験を体系的に見直す必要があると考えたんです。最初は公共政策を学ぼうと思ったものの、当時は働きながら通える大学院がなくて、条件に合ったのがグロービス経営大学院でした。
 
グロービスはMBAの学校ですから、まさに経済活動のメインストリームで活躍する人たちが学ぶところ。それまでフィランソロピー一筋できた私にとってはカルチャーギャップが大きかった。自分がいかに世間知らずだったかを思い知りました。
 
さらに、ちょうどその頃、東日本大震災が起きた。私は日本財団内にタスクフォースを立ち上げて、支援活動に取り組みました。このとき、被災地に入った人たちのなかから多くの社会起業家が生まれ、経済の力で復興を目指す取り組みが雨後の筍のようにわき起こったのです。グロービスで学んだこととフィランソロピーで学んだことが結び付いて、現実の仕事に生かす契機になりました。
 
社会に対する問題意識と、経済やビジネスの経験と知識を融合させられる仕事って、ほかにはそうないのでは。挑戦のしがいがあると思います。
 
工藤 そう考えると私たちの仕事って、常に営利と非営利の二項対立に向き合わなければなりませんよね。グローバルな機関投資家とのミーティングの次に、子どもの貧困に取り組むNPOとのミーティングが控えていたり。毎日がギャップの連続です。青柳さんはどうやって切り替えているんですか?
 
青柳 相手によって使う言葉が違うことはあるけれど、特に意識して切り替えたりはしてないですね。最終的に目指すところは同じですから。

自ら旗を立て、一歩を踏み出す。SIIFの新バリューの意味とは

工藤 SIIFは昨年、バリューを更新しました。新しいバリューは「Giveから始めよう!」「旗を立てよう!」「まず一歩を踏み出そう!」の3つです。少し解説していただけますか?
 
青柳 「Giveから始めよう!」は、組織の文化としてすでに定着していると思うんですよ。SIIFの成り立ちから考えれば、「生まれ持った性格」ともいえる。それは大事にしていきたいし、これからも守っていかなければなりません。
 
問題は「旗を立てよう!」と「まず一歩を踏み出そう!」ですね。前回工藤さんが言っていた通り、SIIFは常に「正解のない問い」に向き合わなければならない。正解がないなかで「旗を立てる」のは非常に難しいことだし、怖いことでもあります。
 
工藤 正解がないなかで、何かを選び取らなくてはいけなくて、判断するためには自分の価値観を磨くしかありません。「どんな世の中を望むのか」という、人としての根源的な価値観を問われるところはありますね。
 
「旗を立てる」といっても、必ずしも新しい事業をつくれ、とか、リーダーシップを振りかざせ、というわけではないんです。ただ、自分の中に芯を持っていてほしいですね。

青柳 マネジメントの立場としては、恐れずに旗を立てる人を応援するし、もしも旗が曲がっていたら一緒に修正します。ただ、旗を立てたら、まず自分から一歩を踏み出さなければ人はついてこない。
 
旗を立てて、間違えることはもちろんあるし、ケガすることもあるでしょう。でも、そのケガの痛みを知らなければ次の旗は立てられません。これも前回話したけれど、実際に動いて、失敗して、検証して、を繰り返していくしかないんですよ。失敗したところで死ぬような仕事じゃないので、間違ったら謝って、修正すればいいのだから、怖がらずに行動しましょう。
 
工藤 最近のSIIFは、やや分析志向に偏っていると感じることがあります。どうせ正解はないんだから、笑われたり嫌われたりすることを恐れず、ためらわずに自分の意見を述べてほしい。そして、現場で行動し、経験したことをもとに、さらに自分の価値観を磨いていこう。それが新しいバリューの意味するところです。

2025年度はSIIF現戦略の最終年度。グローバルな貢献を目指して

工藤 SIIFとしての「夢」ってありますか?
 
青柳 それこそ、みんなが夢を持てる、希望を持てる社会に向かっていきたいですよね。私たちがかかわる現場や政策提言を通して、少しずつでも。そのためにはSIIFが注力課題の1つに挙げている「機会格差」の解消が重要でしょう。
 
今はみんなが何かしら不安を感じている時代ではないでしょうか。将来が不透明で、明るい夢を描きにくい。自分のことでいっぱいいっぱいだと、弱い立場に置かれている人たちに目を向ける余裕も持てません。この悪循環を断ち切って、人々が充足感を持ち、格差を縮めていけるような社会を目指したいですね。
 
工藤 第1回でお話ししたように、SIIFにとって2025年度はシステムチェンジを目指す新戦略の最終年度に当たります。システムチェンジとは何かを具体的に示す、シンボリックな変化を起こすこと。経済を起点にして社会をよくすることができると実証しなければならない段階だと思っています。
 
もう1つは、日本とアジアの文化に立脚しながら、グローバルな貢献を目指すこと。これまで欧米に牽引されてきたインパクト・エコノミーの取り組みに対して、日本からも発信し、存在感を示せるSIIFでありたいと考えています。

===
<本記事のマガジン>



いいなと思ったら応援しよう!