2023年 年始のご挨拶
社会変革推進財団理事長 大野修一
皆様、明けましておめでとうございます。
2023年の年頭に当たり一言ご挨拶を申し上げます。
振り返ってみますと、2020年の1月に日本で新型コロナウィルスの国内感染事例が報告されてちょうど3年が経ちました。この間に、亡くなった人は勿論、大切な家族や友人知人を失なった人、コロナに冒され後遺症に今も苦しんでいる人など、ウィルスの直接の被害者だけでなく、仕事や勉学、生活などの面でダメージを被った人も数多く、程度の違いを問わなければ殆どの人が巻き込まれた訳です。
その意味においては、この3年間は人類にとって歴史に残る大きな苦難の時期となったと言えましょう。
同時に、コロナ危機は現代の社会や人々が抱えていた様々な矛盾や弱点を炙り出すことになり、あちこちで問題が浮上、トラブルが表面化し、待ったなしでの解決を迫られることになりました。
言い換えるとコロナ危機は社会の問題点の表面化を加速した訳です。
一方では、解決への動きも加速しました。
歴史を振り返ると、問題を突きつけられると人類はそれを乗り越えるための方策を考え、実現してきました。同じことがこの3年の間にも生じました。即ち、「失われた3年」であると同時に、「濃縮された変化の3年間」でもあったのではないでしょうか。
この期間に、我々SIIFが手がける社会変革に関わる分野でも、変化が加速し、濃縮された時間となりました。
例えば、日本におけるインパクト投資の状況をみると、この間にプレイヤーの数が増え、残高が急増しただけでなく、金融界やメディアでの認知も進み、「インパクト投資」はメインストリームの一大テーマになったと言えましょう。
具体的な例を挙げますと、我々の呼びかけに応じた21の金融機関で一昨年末にスタートした「インパクト志向金融宣言」の参加企業は、メガバンク、その他の大手金融機関、ベンチャーキャピタルなどを巻き込んで1年で倍増し、昨年12月時点には43社になりました。
これに伴い、投資規模も急拡大しており我々が事務局を務める「日本におけるインパクト投資の現状と課題 2021年度調査報告書」によると日本のインパクト投資の投資残高は既に2021年度で前年度比2.5倍の1兆3000億円となり、コロナ前の4倍の規模になっています。
一方で、インパクト投資の受け皿となる社会起業家の役割に対する認識も深まり、支援の動きも加速しつつあります。
特筆すべきは岸田政権が掲げる「新しい資本主義」構想におけるスタートアップ支援の動きです。社会貢献を目指す社会的起業家(インパクトスタートアップ)に注目し、それを育成支援して行くというアイデアで、そのために、インパクト投資の推進や、民間で公的役割を担う新たな法人形態の創設やそれら企業の認証制度の創設などが検討課題として挙げられています。
また、2019年度に始まった民間公益活用を促進するために休眠預金を活用する制度も試行期間としての第一フェーズを経て、来年度からは、いよいよ社会企業に対する投融資による支援事業が始まる見通しです。
前述のように、急速に拡大しつつある日本の金融機関によるインパクト投資ですが、その中身は大半が上場企業への融資や債券投資と株式投資で、社会起業家などスタートアップへの投資は5%に過ぎないのが実態で、公的な支援の拡充に期待したいところです。
このような、インパクト投資や社会起業家支援など我々が注力してきた社会変革の様々な場面で、SIIFの果たす役割や専門的知識が評価されることが増えてきているのは大変光栄なことです。この数年間でSIIFのメンバーが専門家として企業や政府官庁などから意見を求められたり、公的な委員会や有識者会議、政策策定のための検討会などに、正式な専門委員として呼ばれることが増えつつあります。
このような環境の変化を踏まえて、我々SIIFでは昨年6月に新戦略を策定し、それに合わせて組織構造の手直しを行いました。新しい戦略とは、3本の柱から構成されています。即ち、1. 実践して結果を出す(具体的な事業分野に集中して取り組み、インパクト投資と社会起業家の有効性を実証する)、2. 実践知づくり(事業の取り組みを通じて得られた知見の体系化と政策提言)、3.場作り(社会起業家や投資家の交流プラットフォームなどのエコシステム作り)で、第一の戦略である「実践して結果を出す」ための具体的な事業分野として、①ヘルスケア、②地域活性化、③格差問題を取り上げることとしました。
また、この戦略策定を踏まえて組織を見直し、事業部、知識創造部、総務部の3部とコンプライアンス室という体制に変更いたしました。
これまでの経験を踏まえたユニークな知見を活かし、このような社会変革の動きを支援する財団として引き続き努力して行きたいと考えているところです。
新年も、どうぞよろしくお願い申し上げます。